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風が舞い、葉が揺れ、砂煙が後を引く。
剣戟の音が冷えた空に響き、聞く者の芯を振るわせる。

対するは赤と赤。

その戦いはこの世界で初めてでありながら、彼らにとって二度目。
怒りはなく、迷いもなく、ただこうなる事が必然であるかの如く行われる。

戦いと呼ぶには殺意がない。
相手を超え、自身の誇りとしたものの証明。

生死すら結末ではないそれは、ただこう呼ばれる。











決闘、と。
















木々の間を縫い、微かに差し込む月光が大地を照らす。

樹木は茂り、足元に草が絡みつくこの地では、歩くことすら適わない。
だが、その中で二つの赤い影が駆け抜けている。

――― ギィン!

空を振るわせる硬質音。
火花を散らせた黒き短剣は、色に相応しい闇の中へと消えていく。

平行に駆けていた二人の軌道が、急激に進路を変える。

接近する二つの影。
それはあわや衝突するという直前、手にした剣を振るい、拮抗する。

月明かりが、影の姿を洗い出す。
二人の男は、鏡に合わせたかの様に同じ姿をしていた。
赤き外套、手にした黒と白の短剣、鷹の如き瞳。
肌や、髪に小差はあるものの、容姿に体格、その全てが相似している。

それは当然の事。
何故ならば、彼らは辿り着く先さえ違えたが、その始まり、根本を同じにする者故に。

だが、

「っぐ・・・ぬ!」

弾かれ、一人の男が後退する。
それは純粋な力比べの結果、押し負けたからだ。
黒き肌が、苦渋にゆがむ。

対して、押し勝った側の追撃がかかる。
両腕を開き、挟み込むように左右から迫る、同時攻撃。

後退した男の体勢は、押された時に崩されている。
だが、致命的という程でもない。
同じく両手にした双剣を用い、その攻めを受け止めた。

それは、烈火の如き舞の火蓋。

――― ヅ、ギギギギドギギギィィヂィン!

上下左右から斬撃が襲い、刺突が急所を穿ち、時には剣の柄や拳が叩き付けられる。
その勢いはまさしく烈火のごとく。
轟音が風を切り裂き、相手を打倒せんと次々に振るわれる。

攻める男に対し、もう一人はただ防御に廻っている。
いや、自分の意思でそうしている訳ではなく、そうさせられているのだ。

男と男の間には、そう大きな力の差がある訳ではない。
ただパラメーターで表すだけであれば、それは誤差で済む程度のものかもしれない。
だが、力、速度、魔力、その全てを片方が上回り、片方が劣っている。
そして何より、剣技における差が存在する。
優勢を見せる男の剣技には、もう一人には無い何かが確かにあった。

――― ドギンッ!!

一際激しい音が鳴る。

攻められ続けた男の手は限界に至り、辛うじて短剣を握ってはいるが痺れを隠し切れずにいる。
だが、攻め手の剣は休む事はない。
もはや防がれる事はない、最後の一撃。

それに全力を傾けた男には、手の痛みを耐えている男の姿を見据え、

「!」

目の前に舞い降りた木の葉に視界を奪われ、相手の姿を見失った。















離れた場所からの音を聞き取り、それが大地を踏むものだと理解する。
手にした剣からは、なんの衝撃も伝わっていない。

「・・・・・・・」

またしても、、、、、、決め手の筈である一撃は躱されてしまった。

「いや、惜しいな。
 木の葉という偶然さえなければ終わりであった」

「よくもまあ・・・」

そうしゃあしゃあと言えたものだ。

あれが偶然だって?
そんなものが何度も起こるものか。

全く、皮肉もここまでくれば立派な挑発だ。

「―――――ふっ」

踏み込む。
開いた間合いを一足で詰めて、莫耶を切り上げた。

「む!」

鳴り響く鋼。
短剣は肉を切り裂く事なく、アーチャーの干将で弾かれている。

それは『知っている』

弾かれた腕の勢いに乗り、干将を突き出す。
それも先程と同じように、相手の莫耶で防がれる。

「ぐっ!?」

同じような剣戟音が鳴り響く中、その内容までが同じではなかった。
弾かれた剣は、アーチャーの莫耶。
一撃目を防いだ衝撃と、攻撃力の差がある為だ。

そして斬撃はこれで終わりではない。

後ろに下げた腕を振るい、背を見せる形で回転する。
勢いをつけた薙ぎ払い。

剣舞に終わりはない。
例え何十という攻撃をを防がれようが、決して止まる事はない。

一つの攻撃に、次の一撃が組み込まれる剣技。
これは『アーチャーの剣技』でありながら、似て非なるものだ。

騎士の王にして、剣の英霊たる少女。
セイバーの剣技に近い。
彼女と共に研磨させたこの剣は、決して『セイバー』にはなれなくとも、その質を変えた。

いや、剣技だけではない。

それが魔術であれ、俺はアーチャーを超えていると断言ができる。
セイバー、そして遠坂という最高の師がいた自身が、劣る筈はありえない。

――――― ギンッ!

高らかに鳴る鋼。

互いの剣技を知り尽くした同士である以上、戦いは他の者と同じ様にはならない。
力の差が小さかろうが、それが決定的な結果を導く。

アーチャーの両手には今、何も無い。
干将莫耶は既にその手から奪い、闇の中へと姿を消している。
再投影の隙など与えない。
深く踏み込み、回避不能の斬撃を繰り出す。

そう、力の差が確定的である以上、こうなる事は抗えない事実。



・・・ならば何故、未だこの剣は当たる事がないのか。



ガクン、と足が沈む。
視界がズレて、一瞬だが意識に隙間が生じた。

そして、当たるはずの剣は『偶然』躱される。

アーチャーが地を蹴り、再び間合いを離す。
地に足を付け直した時には、既に干将莫耶はその手に投影されていた。

「いやはや、危ない所であった。
 偶然とは恐ろしいな、衛宮士郎。
 ここらの足場は常に日陰にあるせいか、どうやら泥濘があるようだ。
 気をつけた方がよいのではないか、ん?」

分かりやすい皮肉に、舌を鳴らす。

そう、これが俺とアーチャーの間にある、違いだった。

地形把握能力、状況判断能力。
その差が剣技との差を埋め、膠着を作り出していた。





生前、衛宮士郎の戦いには常に隣に彼女等がいた。

遠坂とセイバー。
如何なる戦闘、戦争であれ、俺たちは決して離れる事はなかった。

セイバーは対魔力と近接能力が故に、先陣を切る。
遠坂はその魔術と策謀を用い、後衛を務める。
そして俺は、時には剣、時には弓や魔術で、二人の中間で攻守の両方の位置に立つ。

戦いはいつも激しく、救いようが無かった。
だが、俺一人では成し得なかった事や、死んでいた様な事でさえ、彼女達の存在が変えてくれた。





だが、その戦いをこの男はたった一人で生き抜いてきた。





それは決して、伝説と言えるような英雄譚では決して無い。
血に塗れ、泥をすすり、裏切りと騙し合いが日常。
その中で生き抜く為に、自分自身が汚い真似をしなければ目的は果たせない。
だが、一人でできる事などたかが知れている。

それ故の能力。
地形を把握し、罠に嵌め、動揺を誘い、自分に有利な状況を作り出す。
単身で戦う為に培った、俺には無い、アーチャーだけの力。

俺が剣技で勝ろうと、アーチャーは自分の有利を作り出す。

そう、これが三人でいた俺と、一人で戦い抜いてきたアーチャーの、決定的な違いだった。














「もう、よかろう」

アーチャーの手から、双剣が消える。
力を抜き、ただ手をただ下げている姿は、どう見ても隙だらけだ。

「・・・ああ」

だが、俺はそれを突くわけでもなく、同じ様に武装を解除する。


――― 元より、衛宮士郎の戦いはこの様な物ではない。


外敵など要らず、ただ自分自身と戦わなくてはならない。
それは比喩的なものであり、そして事実として存在する。

この体は、ある事をする為だけに有り、そしてそれを実現する為に自身と戦い続けている。

そして、それは目の前の男も同じである筈だった。

「お前があの時、私に突きつけた決意。
 その行く末を見させてもらう」

差し出す様に、片腕が上がる。

「見せてやるさ。
 俺と、彼女達が作り出した道、その全てを」

対する様に、俺も片腕を掲げる。

「作り出した道、か。
 お前の事だ、持ち前の未熟さで彼女達の足を引っ張っていたのだろう」

一の流れが三の力を引き寄せる。

「ほざくな。
 死んでも皮肉しか吐けないような不良英霊に、言われたくはない」

三の力は壁を砕き、九の電光を奔らせる。

「ふん、否定ができないのではやはり事実か。
 それに言っておくが、主に進言一つできないようであれば、従者としての資格はないと思うがね」

九の電光は輝きを増し、二十七の魔術回路を照らしあげる――――!

「前々から言おうと思ってたんだがな。
 そいつが詭弁って言うんだよ」



さあ、用意は整った。
ならば世界を侵食せんが為に、自己への語りかけを始めよう。




        体は 剣で 出来ている
「―――― I am the bone of my sword. 」




多少の痛みは我慢できる。



        血潮は鉄で       心は硝子
「―――― Steel is my body, and fire is my blood 」




それがどんな苦しみであれ、心と身体は耐え抜くことができた。



        幾たびの戦場を越えて不敗
「――― I have created over a thousand blades.
        ただの一度も敗走もなく、
    Unaware of loss.
        ただの一度の勝利もなし
    Nor aware of gain 」
        幾たびの戦場を越えて不敗
「――― I have created over a thousand blades.
        ただの一度も敗走はなく、
    Unknown to Death.
        ただの一度も理解されない
    Nor known to Life. 」




だけど、それも限界があった。
守られた心と、それを放棄した者とで、別の道が出来た。



        担い手はここに一人。
「―――With stood pain to create weapons.
        剣の丘で鉄を鍛つ
waiting for one's arrival」
        彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
「―――Have withstood pain to create many weapons. 」




ただ一心に研磨した者と、そうが故に磨耗した心。



        ならばその生涯に意味は不要ず
「―――I have no regrets.This is the only path 」
        故に、生涯に意味はなく
「―――Yet, those hands will never hold anything. 」




そうであっても構わないとした。
彼はそうでしかないと見限った。



        この体は、無限の剣で出来ていた
「――― My whole life was “unlimited blade works” 」
        その体は、きっと剣で出来ていた
「―――So as I pray, unlimited blade works. 」




故に、辿り着く先に見えたモノが姿を変える。











世界を火が焦がし、大地を荒野へと染める。


さあ、活眼せよ理想の体現者。

我が幻想、その果てに得たモノ全てを胸に刻みつけてくれよう。






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