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「どうしてだ!」

思わず机に手を叩きつける。
そのせいで湯飲みが倒れてお茶が零れてしまうが、かまっている余裕は無い。

「どうしても何も、分かるでしょう」

俺の勢いに少しも怯まずに、遠坂は口を開く。
急場だというのに落ち着いている姿が、逆に神経を逆立てた。

「分かるか!
 イリヤは行方不明だし、桜は今もきっと苦しんでる!
 だっていうのに家でのうのうと休んでられるか!」

「・・・そう、じゃあ貴方一人で行けばいいじゃない」

静かな声の中に、底冷えするような怒気が籠められる。

「わたしと士郎はいいとしても、セイバーもアーチャーもランサーも負傷中。
 相手にそれ以上の戦力があるっていうのに、今の状態で行けばどうなるかくらい分かるでしょう?
 それを理解した上で行くっていうなら、好きなだけ犬死してらっしゃい。
 なんなら令呪を使ってセイバーを無理やり連れて行く?
 それならそうで構わないわ。
 わたしはちゃんと体を癒した上で、勝率の高い戦いをする」

一気にまくし立てられて、口ごもる。
焦っている俺に対して、遠坂はこんな時でも冷静な判断で動いていた。

「・・・いいから休んでいなさい。
 治ったとはいえ、士郎だって重傷だったんだから」 

遠坂が席を立ち、それだけ言って居間を去っていく。
小さくなっていく足音を聞きながら、俺は悔しさを噛み締めて立ち尽くしていた。























――――――――<夜明け>――――――――





























-2/13-









道場に風を切る音が鳴る。
慌しく板張りの床を踏み抜いていく。

「・・・っはあ、っ・・・はっ!」

手にした竹刀を何も無い空に振り回す。

素振りでもない、イメージトレーニングというわけでもない。
これは鍛錬や訓練ではないのだ。

「あ」

汗で滑ったのか、疲れて力が抜けたのか、手から竹刀がすっぽ抜ける。
けたたましい音を鳴り響かせて、床を転がっていく。

落ちた竹刀を拾いにも行かず、その場に倒れこむ。
汗をかいた体に、床の冷たさがじんわりと広がっていった。



―――後数日と経たずにアレは壊れるであろう




・・・くそ。
落ち着いて休めるわけないじゃないか。

今だってそう、いても立ってもいられなくてがむしゃらに動き回っていた。
そうでもしなければ、今こうしている事に耐えられそうもなかったからだ。

立ち上がる。
竹刀を手に持ち、再び振り回し続けた。







あの森の中での戦いの後、俺達はなんとかして家まで戻った。
着いた時には日も暮れ、すっかりと夜になっていた。

それというのも、ギルガメッシュに受けた傷が深かった為だ。
消耗と疲労から、家に上がった瞬間に全員倒れこんでしまった程だ。

ランサーは胸を貫かれ、アーチャーとセイバーは前であの宝具の猛威にさらされた。
俺と遠坂は後ろにいたというもの、余波だけでかなりの傷を負った。

キャスターは陣地無しには動けず、葛木先生は一般人。
そしてジャグラーは未だ崩壊する聖杯の影響を受け続けている。

守ってもらったお陰か、俺と遠坂は動けないほどではない。
特に俺はセイバーの魔術のせいか、いち早く回復した。

だが―――――






振り回していた竹刀を下ろす。
こうやっていくら自身を痛めつけても、どうにもならないからだ。

むなしさが胸を占める。

何度となく戦いに身を投じ、生き抜いてきた。
だがどれもこれもが助けてもらい、逆に足手まといになっているだけ。
俺は何もできていない。

例え生き残る事ができても、何も出来ないのならばいない方がマシではないのか。

「くそっ」

拳を壁に叩きつける。
何度も感じた無力感が、痛いほどに胸を突き刺す。

学校や公園、そして森の中の戦いで俺が何をできたというのか。
誰かを助けるどころか、自分の身すら守れていない。

・・・サーヴァントと戦おうとしているのがそもそもの間違い、という事くらい分かっている。
だからと言って、何もできないなんて事は絶対に無い筈だ。

だが―――鍛えた体も、魔術も、一度として役に立たなかった。

こうやって剣を鍛えたとしても、聖杯戦争では全く役に立たない。
だとすればどうすればいいのか?
剣術でも魔術でも及ばぬ相手に、どうやって戦えばいいのか?







「ああ、それがそもそもの間違いだ。
 衛宮士郎に戦いは向かない」






思考の渦の中が一人の声で押し流される。
振り向けば、今まで誰もいなかった筈の場所に赤き騎士が現れていた。

「アーチャー」

何も言わずに奥へと進み、たてかけてあった竹刀を手にするアーチャー。
それの重さを確かめるように片手で振るい、俺と間を空けて立ちずさむ。

「アーチャー、動き回って大丈夫なのか?」

なにしろあの宝具を目の前で浴びたのだ。
防ぐために魔力を大きく消費していたようだし、すぐに治るとは思えない程の傷を負っていた。

「仮にも一晩は休んでいるのでな。
 それに、サーヴァントにとって傷とは欠損に過ぎん。
 ランサーのように特殊な傷ではない限り、豊富な魔力さえあれば回復にそう時間はかからん。
 全快とは言い難いが―――何、私にはセイバーと違い優秀な魔術師がマスターがいる」

「・・・・・・」

皮肉を言われたというのに、怒りは込み上げてこない。
未熟な自分に対する悔しさはあるが、事実であるのだからしょうがない。
そして何故だか分からないが、こいつが言う事は誰の言葉よりも受け止められる事ができる。

「さて、凛から聞いているとは思うが、今夜に柳洞寺へ攻め込む事は分かっているな」
 
「ああ」

「戦いは総力戦になる。
 本来ならば我々全員で一人一人倒していくのが理想だが・・・
 そうはいかん、戦いは自ずと一対一の潰しあいとなろう」

サーヴァント一人に対して、サーヴァント一人が応戦する。
それは相手の陣地に攻め込む以上、避けようの無い事だ。

混戦にならないであろう理由は、本来サーヴァント同士は手を組むような間柄ではないからだ。
セイバーとアーチャーならば別だろうが、これは特殊なパターンだろう。

「私が妥当すべき相手は決まっている。
 それはセイバー、ランサーも同じだ。そして凛は・・・」

アーチャーの声に躊躇が現れる。
それはきっと、遠坂と一番奥にいるであろう人物の関係を知っているからだ。

「凛は必ず道を切り開き、間桐桜の下へたどり着く」

そう、遠坂はきっと桜の下にたどり着く。
それは彼女が優秀なマスターであり、そして桜を心底から心配しているからだ。

今すぐにでも行きたいのは遠坂だって同じだ。
だが俺のように焦る事無く、自分を押し殺して冷静に振舞う。
逆に言えば絶対に失敗はしないという、葛藤の中で見出した決意なのだろう。

皆が自分に役割を持つ。
だが、

「だがその中で、衛宮士郎だけが何も成す事ができない」

「・・・・っ!」

アーチャーの言葉が胸にずきりと突き刺さる。
そうだ、俺だけが役に立つ事ができない。
正義の味方を掲げていながら、誰も助ける事ができない。

分かっていた事だ。
最初の最初から。
サーヴァントの戦いを見て、俺では何も出来ないのではないかと。



聖杯戦争に参加したのは、無用な戦いを起こさせない為。
関係の無い人を、決して巻き込ませないようにする為。

そして正義の味方として、だれかを救う為――――



「この先、貴様が戦いに身を投じても生き残る事すらできん。
 死者は生者の足を掬い、次の仲間を奈落へと攫う。
 そうなってしまってからでは遅い」

視界から忽然とアーチャーの姿が消える。
その事態に気づいた時には、乾いた音と共に竹刀が俺の手から奪われた。

「つうっ!」

握っていた手に痺れが走る。
アーチャーが手にした竹刀が、俺の竹刀を叩き落としたのだ。

目の前には、一瞬で十歩の間合いを詰めた赤い騎士の姿。

「お前の剣術では、サーヴァントに遠く及ばない。
 そしてお前の強化では、誰も救う事はできない。
 終わりが近いであろうこの戦いで、今のお前ではただの足手まといにしかならん」

竹刀が眼前へと突きつけられる。
それは殺気すらないものの、喉を枯らす程の圧迫感を持っていた。

その圧力の中で紡がれた次の言葉は、

「故に、お前にできる事は一つだ。
 倒す事ができぬなら、倒せる物を用意しろ」

俺の中で渦巻いていた全ての感情を停止させた。





「・・・え?」

今、こいつはなんと言った?
倒せる物を用意しろ?
それは・・・

「もしかして・・・投影の事を言っているのか?」

アーチャーは問いには答えず、背を向けて再び間合いを話す。
その手にはいつのまにか、あの黒と白の双剣が握られている。

「待ってくれ。
 確かにお前の剣は作ったけど、あれは偶然、」

「内界から取り出したものに偶然はない。
 凛が使うような外界に働きかける魔術と、お前の投影は違う。
 それは全て身の内から生み出したものだからだ」

身の内から、取り出す?
魔術は内にある魔力を使用するのだから、当たり前ではないのか。

俺の次の問いは、アーチャーが構えた双剣で止められる。
いつもとは違う、掲げるようにしたそれらは、俺の目に酷く焼きついてしまって逸らす事ができない。

「二の句はいらん。
 俺の剣を投影してみろ」

引き締まった瞳が、俺の意思を試す。
これができぬのであれば、進む戦道に俺は必要ないと。

「・・・・・・」

冷や汗が頬をつたう。
アレを投影した時の痛みは、未だ鮮明に覚えている。

脳髄に直接ノコギリをかけられるかの様な激痛。
意識を圧迫し、失神しそうになりながらも痛みがそれを許さない。
それを終わりなく繰り返され、結局は失神ではなく消耗で意識が落ちる。
あれを繰り返すなんて二度とごめんだ。



だが―――――それ以上にここで立ち止まる事なんて絶対にできない。



躊躇いを捨て、ズラリと並んだ撃鉄を起こす。

――ガチリ

そして俺のオリジナルにして、唯一の呪文を口にする。

「―――――投影トレース開始オン

創造の理念を鑑定し、


あの剣がいかなる想いによって作られたかを識る。

基本となる骨子を想定し、


全体を構成する重点を仮想する。

構成された材質を複製し、


作り上げる為に必要な物質を用意する。

製作に及ぶ技術を模倣し、


生成方法、作成環境、その全てを擬似的に再現する。

成長に至る経験に共感し、


完成に辿り着くまでの生涯を感じ。

蓄積された年月を再現する。


伝説に至るまでの月日を召喚した。




―― ギシッ!





「・・・・・できた」

空間が凍結するような音と共に、手のひらに双剣が現れる。
目の前に複製された双剣の重みに肌が泡立つ。
鋼の冷たさは存在を誇示し、確かに在ることを感じさせた。

二度目のせいか、それともゆっくりと丁寧に作り上げたのが良かったのか。
特に頭を貫く激痛はなく、むしろ体中の魔力は安定し、晴れ渡っていた。

それを見せるべく、顔ごと視線を上げる。

―――視界に飛び込んだのは、短剣を振り上げた赤い騎士の姿。

「なっ!?」

――ギィン!

咄嗟に上げた双剣で受け止める。
振り下ろされた短剣は、未だ止められる事なくぎりぎりと押し下げられていく。

「いきなり・・・何しやがる!」

問いに返された答えは言葉ではなく、もう片方の短剣による斬戟。

――パリィィン!

「つあっ!」

双剣はガラスの様に砕け散り、その勢いで俺は壁へと叩きつけられる。
肺にたまっていた空気が吐き出され、口の中に鉄の味を感じた。

「今、何故同じ物である筈の短剣に砕かれたかが分かるか」

咳き込みながら顔を上げると、何事もなかった様に構え直しているアーチャーの姿が見える。

「それは投影したものが模造品であるからではない。
 衝撃で砕けたわけではなく、お前の幻想に綻びが生じたから消え去ったのだ」

弱音を言う暇もなく、双剣が再び掲げられる。
俺は壁を支えにして立ち上がると、それを凝視して呪文を唱えた。

再び手に戻る重み。
よくよく見直せば、俺の干将莫耶はアーチャーの物を比べると見るに耐えないモノだ。
これを真に迫ると誇るには、どうしようもない歪みがある。

「剣を真似るだけでは足りぬ。
 ソレが得た知識の全てを降ろせ。
 幻想に過ぎぬ事を忘れつくせ。
 この剣は、紛れもない本物であると決め付けろ!」

発せられた一言一言が体に染み込み、浸透する。

アーチャーが踏み込む。
痛みで体が動かない為、迎撃する事は叶わない。

だが、剣は意思を持っているかの様に剣筋を遮り、神速の一撃を受け止める。

今度は、砕けなかった。

「・・・お前にできる事は少ない。
 故に、その一つを研ぎ澄ませ」




赤き騎士の体がブレる。

見えぬ筈の一撃に反応し、体は放てぬ筈の剣を振るった。






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