「士郎!」

襖が乱暴に開けられ、少し髪をぼさぼさにした少女が現れる。
寝起きは弱いというのに無理をして動いた為か、どこか辛そうだ。

「遠坂、もう大丈夫なのか?」

「寝かされただけなんだから、大丈夫も何もあったもんじゃ無いでしょう?
 アーチャーは何処!?」

「あいつならジャグラーに付いてったぞ」

言われるまでも無く予想がついていたのか、遠坂は大して驚かなかった。
代わりに盛大な舌打ちをしてくれたが。

「・・・アンタ何してるのよ」

「ん、見て分からないか?
 夕飯作ってるんだよ」

それを聞くと、遠坂は呆れたような顔つきでこちらを見る。
こんな時になんだってこう気楽なのだ、とでも考えているのだろう。
それも分からなくもないが、だからといって夕食を用意しないわけにもいかない。
セイバーやイリヤのお腹を守る為にもっ。

「っと、そろそろ準備できるけど。
 遠坂も食べるか?」

寝起きで腹の調子が悪いかもしれないので、気を使って聞いてみる。
遠坂は一瞬逡巡し、お腹の具合を確かめるように手を当ててから、

「・・・食べる」

とだけ答えた。























――――――――<戦場に青が走り>――――――――





























「で、準備できた?」

仕掛けを終えて戻った俺に、ぶっきらぼうに問いかけてくる彼女。
夜の深い闇でさえ、月光だけでその身を映えさせる美女。
艶のある黒髪は、それだけで伝説の一部と言える美しさを持っている。

俺の伴侶にして、自分と同じように未来から召喚された女性。
遠坂凛こと、自称ジャグラーが退屈そうに突っ立っていた。

「気になるなら手伝ってくれたって良かったじゃないか。
 二人でやればそれだけ時間短縮だってできたし、楽にできたんだぞ」

「わたしに重労働をさせる気?
 そういうのは男の仕事だって相場が決まってるでしょ」

「別にそこまで力を使う事じゃないだろうが」

「じゃあわたしが手伝うまでもないじゃない」

「・・・・・」

ああ言えばこう言う、とはまさにこの事だろう。
こちらが諦めていた再開を喜んでいるというのに、全く調子が変わらない。
まあ彼女らしい、といえばそうなのだが。

「それで、遠坂の方は終わったのか?」

「ええ、勿論抜かりは無いわよ。
 だから後はアンタの作業だけ。
 ほら、さっさと出しなさい」

軽くため息をついてから頷き、魔術回路を起動させる。
彼女の意図する物を作り、手渡す。
それの出来に満足したような笑みを浮かべると、無造作に懐の中へしまった。

月光に照らされた時計が、針を真上に重ねる。
同じくそれを見ていた彼女が、不敵な笑みを浮かべた。

「―――時間ね」










跳ぶ。
夜の闇を苦にもせず、家を、あるいは電信柱を、踏み台にして飛び跳ねる。

胸の内は震えていた。
恐怖に、というわけではない。
元より不安やためらいなど、戦場へと向かう前に捨て去るものだ。

胸の震えを抑えきれず、口の端までもが歪む。
自然に足へと力が入り、風の唸りが激しくなる。


今朝、"挑戦状"が届いた。

『今日の夜、日付が変わる深夜零時。
 公園へ来られたし。

 ―――― 我は此度呼び出されし八人目のサーヴァント』

胸の内から歓喜が湧き上がった。
どうしようもなく口の端がひきつり上がり、心が猛り踊る。

今までの辛気臭い思いなど、この耳に唸る風に流れるようだ。

「っふ」

地を叩いて跳び、同時に息を吐く。
眼下には黒々とした木々に囲まれた、広々とした公園がある。


―――獣がワライ、雄たけびを上げた。









爪先から足を着け、体全体に衝撃を受け流す。
音は微塵とて鳴ることは無い。

余韻を引きずる様にゆっくりと顔を上げて、前に立つ人物を見やる。
そこには赤い服に身を包んだ、長い黒髪の美女がいた。

「・・・よう」

口の端に浮かぶ笑みに声を乗せて、懐からある物を取り出す。
軽く掲げてから相手に投げつける。

「それはアンタの物で間違いねえな?」

「ええ、返してくれてありがとう」

受け取った鳥形の宝石を懐にしまいながら、てきとうな礼を返される。

ふむ、それにしても上玉だ。
絹のような髪、整った顔、理想的な体型。
そして何より、敵を目の前にしながらの不敵な態度。

「あんなえげつねえ挑戦状を送るからどんな面してるかと思えば。
 いやいや、こりゃあ戦いもいいが、先に口説き落とす方が楽しそうだな」

かなり本心からの言葉なのだが、そうは出来ない理由があった。
すなわち、

「で、なんだって手前までここにいるんだ?」

「心外だな、ランサー。
 一度剣を交えた仲であろう、そう邪険にすることもあるまい」

弓兵で在りながら剣を扱い、掴めぬ性格の奇妙な男。
赤き外套を身に纏う騎士、アーチャーが女と共にいた。

「聞くが、"えげつない"とはなんのことだ。
 彼女はただ伝言を送ったのではないのか?」

「ちょっとね、それだけじゃ味気ないから細工してみたのよ」

楽しそうに、気軽に言いのける女。
本当に知らないのか、アーチャーの方はその様子を訝るだけだ。

「あれが"ちょっと"か、どういう神経してるんだ。
 アーチャー、その女事もあろうに呪いを宝石に付けやがったんだ。
 しかも『心臓を狙い続ける』っつーふざけた物をな」

「・・・君な、えげつないぞ」

心底疲れた、というよりも呆れた様に女を睨むアーチャー。
そいつといえば、そらぞらしい笑うのみだ。

「だって、ただの伝言じゃあインパクトに欠けるじゃない。
 あーゆー物を付けといた方が、挑発らしいでしょう?」

「彼の性格を知っていて、挑発など必要ないと分かりながらそういう事をするのがえげつないというのだ。
 いや、どちらかと言うと趣味が悪いと言った方がいいか」

「アンタね、あんまり調子に乗ってると吹き飛ばすわよ?」

どこかで見たような掛け合いで、漫才をし始める二人。
見てるだけで十分楽しめるが、残念だがそれが目的でわざわざ此処に来たわけではない。

「まあ実際の話し、あの呪いでそれなりに興味が沸いたのも確かだ。
 よく出来たもんだったぜ。
 さすがに因果律まではいじれてなかったが――――真に迫ってたよ(、、、、、、)

ゆっくりと、赤き魔槍を構える。
立ち上る陽炎にも似た呪いは、あの鳥形の宝石から感じた物とよく似ている。
いや、此方が本物で、あちらが似ているというのが正解なのだろう。

「テメエ、何者だ。
 実物を目の前にでもしない限り、アレは作れねえだろう」

姿勢を前方へと流す。
もはや何時でも踏み出せ、秒とかからずこの槍を突き刺す事すら可能だ。

しかし感覚をいくら鋭敏にしても、相手には隙らしい隙が見当たらなかった。
後ろに控えるアーチャーの事もあるが、それ以上に女自身が堅牢である事を感じられる。
いくつもの死線を乗り越えてきたであろう、その佇まい。
だが奇妙なのは、それでいながら笑みを浮かべているその瞳には、酷薄さが皆無という事だ。

「わたしは後ろの馬鹿みたいに真っ正直に教える気はないけど。
 とりあえず呼び名がないと不便でしょうから、ジャグラーとでも呼べばいいわ」

奇術師(ジャグラー)?」

それこそ奇妙な話しだ。
戦場に現れる芸人がどこにいるというのだ。

「まあどうでもいいさ。
 で、ジャグラーさんよ、そろそろ始めねえのか?」

「ああ、その前に。
 こっちは二人で戦わせてもらうわよ」

ジャグラーが後ろの男を指差す。
一対二。
このどうしようもなく不利になる提案を、

「構わないぜ。
 それの方が楽しめそうだしな」

ただそれだけの理由、そして本心からの言葉で、自らの窮地を歓迎した。

「ええ、じゃあ―――」

軽い動作で、何かが空へと投げ出される。
硬質感のある、石のような何か。
いや、あれは石などではない。宝石だ。

「始めましょう」

声を、静寂を、ぶち壊しにするような派手さを持って、爆発と爆音が轟いた。















いきなりの攻撃に、地を蹴って大きく後退した。
いや、あれは攻撃などではない。
威力は小さく、特に大規模な魔術でもない、魔力の爆発だ。

だからアレには別の意味がある。
開戦の合図と――――視界への妨害。

爆発と同時に巻き起こった砂埃は、一歩先さえ見えないほどに舞い上がっていた。
それは相手にとっても同じだろうが、違うのはその中か外というところだ。
少なくとも、あいつらは周りを見渡す視界は確保できている。
無差別に魔術やら矢やら打たれようものなら、確かにこちらとしては楽しい事態にはならない。

こうなると俺の"矢避け"もそう役に立たない。
視界に対象が入らないと、その効果は激変するからだ。

きゅんっ、と何かが放たれる音がした。

焦る事も、戸惑う事も無く、手にした槍でそれを軽く弾く。
何かは分からないが、なんらかの魔術である事は確かだ。
それと同時に、誰かの走り出す気配を感じる。

やはりアーチャーが前衛、ジャグラーが後衛という形で来た。
少なくともあの女が、魔術師である事は明白だ。
自然と、そうなるのが当たり前であろう。

再び、二度、三度と何かが放たれる。
受けているうちに、その正体も発覚した。
ガンド打ち。
指差しで相手を呪う、簡易的な魔術だ。
使用者の能力故か、食らえば風邪では済まず、物理的な痛手を負いそうだったが。

何度かそれを弾き返すと、見覚えのある黒い短刀が砂埃を切り裂く。
予想の内だった為、難なくそれを弾き返す。
そして同時に見えるようになった相手の姿は、

アーチャーではなく、女の姿であった。

「んな!?」

驚愕している暇はない。いや、そんな暇はくれない。
弾き返された短剣を器用に持ち替え、刈り取るように切り返えされる。
仰け反ってそれを避けると、今度は空いていた左腕が突き出された。
その姿勢に逆らわず、そのまま倒れこむように地に手を付け、後ろに飛び跳ねて間合いを開ける。
が、それも一瞬の事。
ジャグラーは俺を追って深く踏み込み、再び拳やら剣やらを突き出した。
いや、なかなかのものである。
小刻みに繰り出される攻撃に、足技まで用いた戦闘法。
剣士の戦いというより、中国の舞踊を見ている気分になるのは、つまりはその通りなのだろう。

しかし確かに不意や意表は突かれたが、それだけの事だ。

次第に相手の攻撃は減り、防御に廻っていく。
奇策とは、誰も思いつかないからこそ奇策足りえるが、その策が誰も選ばない愚考であるからともいえる。
確かに驚いたが、それだけ。
一度耐え切れれば、後は実力が容易に表へ出る。

一際激しい金属音。
苦し紛れに振るわれた短剣を強めに弾き返す。
その衝撃に相手の細腕は耐え切れず、体ごと後退する。

「っつ!」

ジャグラーが舌を打つ。
あの体勢だ、次の一撃は避けようもない。
そして自分は舌なめずりをする気もない。
あっさりとした結末に訝りながら、心臓を標的に槍を突き出し――――

地を踏み切って大きく後退した。

目の前を何かが横切っていった。
いや、横切ったなどと優しいものではなく、甲高い音を立てて空を貫いたのだ。

今度は此方が舌を打つ番だった。
なるほど、理解した。何故ここまでアーチャーが出なかったのか。
前後左右、それこそ矢継ぎに俺を攻撃が襲う。
あるいは避け、あるいは弾き、あるいはハズレて飛んで行く。
四方八方から飛び交う矢は、到底一人の人間から放たれる物とは思えない。
魔術かからくりかは判らないが、相手の合図かなにかで自動的に発射されている物なのだろう。

つまりはそう、罠が用意されていたという事だ。

卑怯などとは言わない。いや、むしろ感嘆さえ出る。
此方は始終動き回っているというのに、狙いは常に正確なのだ。
どれだけの量を用意し、その膨大な数を一人で扱っているというのだろうか。

その上この砂埃の中、こちらの位置さえ把握しているらしい。
その証拠に、時々他とは違う、恐ろしい速度と重さを思った矢が放たれるのだ。
罠とは別にアーチャー本人が放っている物だろう。
既に二桁は防いだが、その度に小さな傷を負っている。

「だが―――」

一度に放たれた無数の矢を、小さな動きだけで全て避け、弾き返す。
視界が戻ってきたのだ。
こうなると、矢の嵐でも降らない限り、自分に当てられるものではない。

人影が見えた。
アーチャーにしては背が低い。
となると、必然的に相手はジャグラーという事に――――

妙な痛みが走り、同時に世界が断絶される。

「結界、か!?」

「ご名答、これでもう逃げられないし、覗き見もできないわ」
 
道理で、先程の痛みはそういう分けか。
自らの体を確認すると、先程まであった繋がりが切られている。
俺を通じて戦いを見ていたあの野郎の魔術が、結界によって妨害されたのだろう。

「ッハ、元から逃げるつもりも、覗かれる趣味もねえよ!」

そもそも命令で動いたわけでもないし、逃げるなんて念頭にすらない。
『情報を集めて逃げろ』との令呪が残っている以上、この結界はむしろ好都合だ。
はっきりと見え始めたジャグラーの姿へと水平に跳ぶ。
接近戦での不利を理解しているだろうに、相手は逃げようともせず、笑みを浮かべて一言。

「ええ」

「知っている」

予備動作無く振り向き、振り下ろされた白い短剣を弾き返す。
そこには確かめるまでも無く、赤い外套を着た騎士がいた。

「今度はテメエってわけか!」

「ああ、少し付き合ってもらおう!」

一声と共に、再び短剣が繰り出される。
ジャグラーとは違う、重く、鋭い乱舞。
だが、それらの攻撃を軽く受け、今度は此方が立て続けに攻め続ける。

「ぐ、ぬ!」

防戦一方となったやつの声から、焦りの色が強く見られた。
それも当然だ。
今の俺には、前回戦った時の様な令呪の制限がかかっていない。
二回目の戦いである故に、マスターに命じられた『様子見』の意味が無いのだ。
そして双刀使いである筈の敵が、刀一つで戦っているのだ。

「あの姉ちゃんに貸すんじゃなかったな!
 いつまでもそんな剣一本で守り続けられるなんて――――思うなよ!」

跳ね上げるように槍を叩きつけ、白い短剣をアーチャーの手から奪う。
あさってに飛んでいくそれは、一瞬にして闇にまぎれて見えなくなった。
無手になった無防備な相手に、躊躇なく槍を突き刺す。

―― ガ、キン!

鋼の衝撃と、音が相手の手元から発せられる。
そこにはジャグラーが持っていた筈の黒い短剣が、確かな存在感を持って現れていた。
軽く舌を打つ。
砂煙の中で此方が逃げ回っていた最中に、受け取っていたのか。
だがしかし、これで零になった筈の武器が、再び一つに戻っただけの話。
少なくとも今のこいつ相手に、真っ向勝負で負ける要素など無い。

筈であった。

風を切る音に、反射的に槍を振る。
飛んでいった筈の白い短剣で攻撃されたのだ。

「なっ!」

今回二度目の驚愕が、思わず口をついて出る。
確かに弾き飛ばした筈だった。
回収に行く暇など、考えるまでもなく存在しない。

「っふ!」

息を吐きながら、短剣が再び繰り出される。
驚き悩む暇もない。
いや、その様なことに時間を費やすつもりもない。
躊躇を思考から切り捨て、先程のお返しとばかりに連撃を放つ。

数十という槍を全て受け、足に根を下ろしたように一歩とて退かぬ弓兵。
こちらの制限がなくなり、殺す気でやっているというのに、一度として穂先は肉を抉れない。

加速、加速、加速、加速っ!

――― ぎぃっ!

派手な火花を散らして、短剣と槍が真っ向から打ち合う。
互いに渾身の力で突き出された一撃故、弾かれたように間合いが開いた。

その地が足に届く前に、アーチャーが奇妙な構えをした。
腕を組むように交差し・・・二つの短剣を外に投げ放つ。

(気が狂ったのか?)

とさえ思った。
着地と同時に地を蹴り、徒手空拳のまま奴は此方へと跳んで来た。
そして投げ放った双刀は、弧を描いて俺へと脅威の速度で迫る。
確かに左右の動きは封じられた。
だが穴だらけの包囲ではないのか。
前後に道がある上、目の前に無防備な相手がいるのだ。

一瞬の判断に身を任せ、突き通る道を選ぶ。

槍が心臓を食らうべく、容赦なく迫る。
素手相手に遮られる訳もなく、なんの抵抗も無く突き刺さり、残りは一人と、

――― っぎん!

ありえない鋼の音、黒白の双刀で(、、、、、)槍が受け止められた。

「うおっ!?」

足だけ残すように仰け反り、左右から迫る双刀を避ける。
確かに、黒と白の、同じ短刀。

(複数、持ってやがるのか!?)

今度こそ動揺を抑えきれず、続くアーチャーの攻撃から逃げる。
全く、何度こいつらに驚かされなければならないというのか!

動揺し、離れたにも関わらず、追い討ちをされる事は無かった。
そして気づく、足元に散りばめられた宝石の群れに。

風に乗り、囁かれるような歌が、結尾を切る。

視界が、光に埋まった。














「―――っ!
 なんつー奴だっ!」

爆音で痛めた耳を押さえながら、悪態をつく。
可能な限りの力で跳躍し、上空へと何とか逃れられたのだ。
自分の悪運の良さに、感激して涙が出そうな程だ。
もし横に逃げようものだったら、あの光に巻き込まれて骨まで消失していたかもしれない。

(畜生、完璧に相手のペースにハマってるな)

見事なまでの連携だ。
周到なまでに用意された罠も、計算しつくされた脅威だ。
何か手は無いかと、自分にしては珍しく思考し始めると、

ぞくり

と、体中に寒気が走る。

頭に警報が鳴る。焦りが体を急かす。

(間に合え)

槍を掲げ、魔力を高速でかき集める。
根拠の無い確信が、思考を許さずに勝手に動く。

眼下の砂煙の一部が、渦を巻いて散らされる。
その中心に、何かがあった。




「偽・螺旋剣」カラドボルグ




爆発の余韻で聞こえぬ筈の声が、確かに良く知る名を発した。

耳鳴りの様な音を奏で、高速回転をしたそれが迫ってくる。
魔力が未だ溜まりきっていない槍を高く掲げ、渾身の力を込めてその真名を叫ぶ。




突き穿つゲイ―――死翔の槍ボルク!!!」




盾などこの身には無い。
だからこそ放たれた一撃は、自らの最高の一撃で返すしかない。

・・・今日何度目かの、大爆発が引き起こされた。




なんとか"矢"を相殺した槍を、吹き飛ばされながら回収した。
放てば確実に相手の心臓を貫く槍も、その肝心な相手の位置を掴めていないのだから当たり様がなかった。
随分と長く感じた滞空時間を終え、余波で体勢を崩しながら着地する。

砂煙の中に再び落ちて、視界を確保する前に、前後からの強襲がかかった。

(避けられん――!)

宝具を放ち、その余波をマトモに食らってしまった自分には、退路などはなかった。
前にアーチャー、姿は見れぬが、後ろからはジャグラーが迫っているのだろう。
無理な体勢ながら槍を振り、前からの攻撃を弾き、どうする事もできず、背に何かが刺さる。


体中に走る痛烈な痛みと、壊れていく何かが、戦いの終わりを告げた。






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