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「遠坂、これからどうするんだ?」

「んー、とりあえずは活動拠点を決めたいわね。
 そういう意味じゃ遠坂の家がいいんだけど・・・」

「それは凛が許さないだろうな。
 いや、それはこの家でも同じだろうけど」

「――――」

「ん? どうしたんだ、遠坂」

「別に、ここのわたしの事は名前で呼んでるんだな、って思っただけ」

「だって遠坂は遠坂で、凛は凛だろ?」

「・・・・・いいの、別に。
 気にしないで」























――――――――<会議というより戦場>――――――――





























「却下!」

開口一番、遠慮も、迷いも、情も一切無く、遠坂は叫んだ。
バン、と叩かれた机が今も震えている。

簡単に言えば遠坂は怒っていた。
その対象は俺ではなく、目の前にいる謎の美女ことサーヴァント。
あの遠坂の怒りの対象となっているのに、全く表情を変えずにすましているというのは、よっぽどの大物と言える。

「心が狭いわね」

「得体も知れない信用も無い相手に、わたしの家で住む許可なんてできないって言っているのよ!」

「いや、俺の家だぞ遠坂」

俺の横からの突っ込みを無視して、遠坂は彼女を睨みつける。
それを受け流しつつ、憮然とした表情でいる彼女。
やはり全く堪えていない。

ズバン! と激しく叩かれる机。
ミシミシと嫌な音をたてはじめる机。
解析してみると所々から悲鳴が上げられている机。

いや、おかしいだろ今の威力。
なんか魔術でも使ってないか、遠坂。

「今すぐ、出て行きなさい」

声そのものは落ち着いているが、その気配が心象を物語っている。
もし相手が妙な行動や、自分の言葉を聞かないのであれば、今すぐにでも戦う気だ。

しかし後ろにいる俺でさえ冷や汗をかくその殺気を、彼女はいままでと変わらず軽く受け流している。

「出て行け、ね。
 自分の家でもないのに、随分じゃない」

「わたしは士郎と協力関係を結んでる。
 そうである以上、この家に信頼の置けない相手を置くわけにはいかないでしょう」

彼女の言う事ももっともだが、遠坂の言う事も正しい。
だがそうなると、

「じゃあわたしは信頼できてるって訳ね、リン」

イリヤが茶化すように言う。
まあそういうことになっちゃう訳だが。

「アンタは特例よ。
 信頼した訳じゃないけど、むしろ行動が見えている方が安心できるしね」

特に厳しい口調というわけでもなく、遠坂は答える。
まあちなみに俺は警戒なんかしていない。
というより今の今までイリヤが敵だったって忘れてたくらいだ。

「ただでさえこういう奴もいるんだし、わたしはこれ以上不安要素は増やしたくないわ。
 貴方がわたし達の味方である事を証明でもしない限り、この家にいることは認められない」

一抹の情も無く、冷静に遠坂は言いのける。
確かに、俺としても今の状態では遠坂に賛成だ。
警戒しないに越したことはないだろうし、そうでなくともこの女性は正体が掴めないのだから。

「・・・・・・」

いい加減問答に疲れ始めたのか、彼女はうんざりとした表情で黙っている。
どこかこうなるのを予想していたのだろうか。
諦めというか、そんな雰囲気にも見える。
本人も自分の立場をよく理解しているのだろう。
だからといって、退くつもりもなさそうだが。

彼女が視線を移す。
今まで何の言葉も挟まなかったアーチャーが、それに反応して動いた。

「凛」

「なによ」

不機嫌そうに返事をする遠坂。
アーチャーといえば、やはりその反応を予想していたのか、困った表情で話しを続ける。

「彼女の事は私が保証する。
 君が疑うのは当然、いや、マスターとして正しい判断だ。 
 しかし彼女が我々の敵になるようなことは、決してない」

なだめるように、真摯にアーチャーは語りかける。

「私を信頼してくれるのならば、彼女をここに居させる事を許可してもらえないだろうか」

こういう態度で、しかもアーチャーに言われるとやはり堪えるのか。
遠坂はおとなしく黙ったままでそれを聞いていた。
アーチャーに対する信頼など、今までの遠坂を見る限り疑うまでもない。
陥落まで後一歩というところだろうか。

「凛、私からもお願いしたい。
 どうか私達に免じてもらえないだろうか」

と、セイバーまでもがそう言ってきた。
遠坂が唸りを止め、諦めたようにため息をついた。

「・・・OK、分かった。
 そこまで言われちゃしょうがないわね」

「ありがとう、凛」

「いえ、まだよ。
 これからわたしがする質問に―――全部とは言わない。
 満足できる程度の答えが返ってきたなら、認めてあげる」

アーチャーの礼を遮り、遠坂が真剣な顔つきへと変わる。
睨むように目の前にいるサーヴァントへと視線を移し、思わず押し黙るような迫力を持って問いかける。

「一つ目、貴方の真名は?」

「言わない」

「・・・二つ目、貴方の宝具は?」

「言わない」

挑むように問われた二つの問いを、挑発的に軽く返す彼女。
しかも言えない、ではなく言わないときた。
つまりは言う事はできるのだが、言う気は無いという意思表示だ。
だがこの返事に対して怒り出すかと思われた遠坂だが、思いのほか冷静にしている。

「じゃあ三つ目、貴方のクラスは?」

「ふむ、クラスねえ」

うーん、と悩みだす彼女。
聖杯戦争に置いてクラスを知るという事は、その人物の得意とするものを理解する事でもある。
敵対する相手にそれを知られるというのは出来るだけ避けた方がよいのだろうが。
なんというか彼女、言うか言うまいか悩むという様子ではないのだが・・・・?

「・・・そうね、ジャグラー、とでも呼んでもらおうかしら」

「ジャグラー?」

聞き覚えがありながら、聞き覚えが無い言葉に、思わず口に出して反芻する。
ジャグリング、というモノがある。
サーカスや路上のパフォーマンスでよく観る、ボールやクラブを使った大道芸だ。
ちなみに元の意味では「複数の物を空に投げ続ける」といったもので、そういう意味ではお手玉もこれに該当する。
ジャグラーとは、それを行う人間、つまりは大道芸人といった意味にしか取れないのだが。

「ふざけないで。
 奇術師なんてクラス、存在するわけないじゃない」

「あ、そういう意味なのか」

遠坂の冷静な突っ込みに、後ろで感心してしまう俺。

「ええ、ちなみにペテン師とか、詐欺師なんて意味もあるわね」

俺の反応に対し、自称ジャグラーは楽しげに説明に補足を付ける。
それにしても随分なクラスだな。
悪いイメージしか持てないじゃないか。

「まあそれは仮称、という事にでもしといて。
 元々わたしにはクラスなんてないんだから」

「クラスが・・・無い?
 どういう意味よ」

怪訝な表情をしながら、興味深く慎重に聞き返す遠坂。
ジャグラーといえば、今までが嘘のように多弁に話し出す。

「わたしはサーヴァントでありながら、聖杯戦争の参加者ではないという事よ。
 だから七人の一人でもなく、マスターも無く、聖杯戦争には望みも無いってわけ」

「どういう事よ」

「"わたしが何のクラスか"には答えたわ。
 これ以上聞きたいなら次の質問にしなさい」

「・・・・・・」

遠坂が軽く舌打ちをして、押し黙る。
それにしても―――なんだかよく分からなくなってきた。

彼女はサーヴァントでありながら、聖杯戦争とは関係が無いと言う。
サーヴァントである以上、マスターがいなくては現界すらできない筈なのに、そんな事が可能なのだろうか?

「・・・じゃあ四つ目、貴方の目的は何」

「目的はもう無いわ、終わったもの。
 わたしはアイツを追いかけて来ただけ」

親指で後ろにいるアーチャーを指差す。
ちなみにアーチャーといえば、落ち着き無い様子で頬の辺りを掻いていた。

「追いかけて来た理由は?」

「次の質問。
 それで理由も分かるし、貴方も最後の質問にする気でしょう?」

まるで何を言うのか分かっているかのように、楽しげに笑うジャグラー。
その挑戦的な眼差しに対して、遠坂は未だ冷静さを欠かない。
見極めようとしているのだろう。
例え少ない情報であれ、彼女の正体を。
・・・それだけじゃ無い気もするが。

「最後の質問。
 貴方と―――アーチャーの関係は?」

これこそが本命と言わんばかりに、今までに無い真剣な表情で問いかける遠坂。
そしてジャグラーは待ってましたと言わんばかりの余裕の笑みを浮かべて、

「夫婦よ」

とだけ答えた。



・・・・・・・・・・・・・・



『えええええええぇぇええ!?』

俺と遠坂の叫びが重なる。
ジャグラーとアーチャーが・・・ふうふ?
結婚式して籍を入れて一緒に暮らして子供を育てる、夫婦?

「っ・・・まさか・・・そんな・・・!?」

「いや、待て衛宮士郎。
 そこまで驚く事か」

「だって・・・なんかあんた女運なさそうに見えたし」

「シロウ、それはとてもいい着眼点です」

「待て、どういう意味だセイバー」

「確かに女難の相が出てそうだしねえ、アーチャーって。
 女の人とは出会いがあるけど、その度苦労してそう」

「イリヤ・・・君も何の確信があってそんな事を」

驚愕を隠し切れない俺に、フォローするように、というよりアーチャーを追い立てるように二人が発言する。
いや、何でかしらないが信じられん。
こいつが既婚者だなんて、夢にも思えない。
何故ここまで確信めいたものがあるのか、俺にもわからないが。




「こいつが旦那で、わたしが妻。
 どう? これで理解してくれたかしら」

「・・・ええ、確かにこれなら信頼もあるでしょうね」

よほどショックを受けたのか、遠坂はふらふらとして危なげない。

「いいわ、ここに居たいなら、貴方の好きにして。
 少なくともわたしの邪魔をしない限り、これ以上口は出さないわ」

「すまん、凛。
 ありがとう」

またもやジャグラーは何も言わず、アーチャーが謝罪と礼を言う。
しかし遠坂といえば目をあわす事も無く、ふて腐れるようにそっぽを向いた。
アーチャーが怪訝な表情をするが、遠坂はそれに構わない。
怒っている、という様にも見えないのだが・・・?

「ああ、もう一つ頼みがあるんだけど」

ジャグラーが思い出したように口を開く。
そっぽを向いたまま、視線だけを彼女に向ける遠坂。

「なによ、まだなんかあるの」

「アーチャー借りていいかしら?」

「却下よ!」

ズバンッ!と即座に怒声と机を叩く衝撃で、今日最大の爆音を生み出す遠坂。

「ああもう、こっちが譲歩に譲歩を重ねて千歩退いてやったってのに、まだふざけた事言い出すわけ!?
 ただでさえ混乱している情勢だってのに、これ以上状況を悪くするんじゃないわよ!!
 正体不明の怪しい奴を完全なこっちの懐の良さから受け入れてやったと思ったら、今度はアーチャーを貸せですって!?
 冗談じゃないっての!!」

今まで溜め続けたストレスが爆発する様に、てか様にじゃなくてそのままだが。
ともかく物凄い剣幕でまくし立てる。
怒り心頭、それどころか殺気すら撒き散らし、服の上からでも左腕が光りだすのが見え始める。
やばい、本気で暴れだしかねない。というより暴れだすぞこれ。

「今すぐ出て行ってもらうわ。
 いう事を聞こうが聞くまいが、実力行使で――――」

「―――Schlaf(眠れ。)

パタン、クークー。

「・・・は?」

遠坂を止めようとして踏み出した足を止めて、間の抜けた声を出してしまう。
アレだけ騒ぎ立てた遠坂はジャグラーの一言、いや、魔術によってあっさり寝てしまった。
彼女ほどの魔術師を、しかも魔術を起動寸前までの状態であったにも関わらず、たった一節の魔術で陥落する。
それはいかなる魔術で、いかなる魔力があってできる事なのか。

「じゃ、聞こえないと思うけどアーチャーは借りてくわね。
 ほら、アンタも突っ立ってないでさっさと出るわよ」

「君な、もう少し穏やかに事を進められないのか」

「うるさいわね、文句なら後で聞くわよ。
 あ、この子の事頼むわね、衛宮くん」

遠坂を指差し、すたすたと廊下へと歩いていくジャグラー、そしてそれについて行くアーチャー。
俺といえば呆気に取られて動く事すらできない。

こうして彼女は、嵐のように事を荒立てながら、あっさりと出て行ってしまった。






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