「ずっと疑問だったんだけど」
イリヤスフィールが声を上げる。
人差し指を頬にあて、悩んでいる様は本当に可愛らしい。
「ん、なんだイリヤ?」
「シロウはなんでリンを遠坂って呼んでるの?
ムコヨーシにでもいったの?」
ぶは、という不意を突かれたことによるリアクションをして、シロウと凛がげふんげふんと咽る。
私はそっと彼女の肩に手を乗せ、真剣な表情で彼女の目を見つめる。
「イリヤスフィール」
「セイバー、イリヤ」
「ああすいません。イリヤ」
手に軽く力を込めて、ぐぐ、と彼女に詰め寄る。
「いい質問です」
「ちょ、ちょっとセイバー!」
後ろで叫んでいる凛を無視する。
前は『彼女』としか共感できなかった事だが・・・
イリヤならば必ず仲間になる筈だった。
「シロウと凛、二人の仲は聖杯戦争後も深まり、ついに結婚をも目前としたのですが―――
貴方が言うように、いまだシロウの呼び方は変わらなかった。
二人は互いの家を大切に思っているので、籍を入れずに、式だけ上げるという事で落ち着いたのです」
うんうん、と二回頷くイリヤ。
再び後ろで凛が、そして復活したシロウがなにやら叫んでいたが、私達は断固として無視をした。
「しかしそれと呼び名については関係ありません。
凛もそれを前から思っており、私がそれをシロウに指摘し、その挑戦は行われたのですが・・・」
手に拳を作り、ぐぐぐ、と力を込める。
正直、このような事を口にするのも煩わしい。
しかし―――だからこそ言わなければならない事なのだ!
「なんと凛は・・・・
顔を真っ赤にして照れ怒り、シロウを全治1ヶ月の身体にしたのです!」
「ちょっとセイバぁああ!」
「しかもその後シロウは何て言ったと思いますか!?
『いや、遠坂可愛かったし、アレで満足。っていうか正直恥ずかしすぎて名前で呼べない』ですよ!?
付き合い始めて一年や二年じゃありません!
いまさら名前を呼ぶ程度で照れられては一緒に住んでいる私の惨めさはどんなものだと!!」
「シロウ!」
「お、おう!」
「離しなさい、シロウ!
私にはまだ言いたい事が山ほど積もっているのです!」
「落ち着きなさい、セイバー!」
「黙りなさい、凛!
今こそ、今こそルヴィアと積年溜め続けたヒマラヤ山脈を崩すのです!」
『そんなに!?』
「・・・ふうん」
ぞくり、と背筋が凍る。
いえ、私ではなくシロウと凛が。
恐る恐る彼らが向けた視線の先には、私にとっての切り札、彼らにとっての絶望がそこにいる。
「シロウとリンったら、サーヴァントになっても可愛らしいのね」
彼女が微笑む。
それはここにいる誰にもマネできない、小悪魔の笑みだ。
そして私達は呟く、
ああ、なんてジョーカー、と。
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