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「シロウ、これなに?」

「これは昔ながらの和菓子でな、生地の中にあんこが詰まってるんだ」

「アンコ?」

イリヤスフィールの不思議そうな表情に、シロウが説明を始める。
商店街にきてからというもの、彼女は好奇心の塊のように次々と店を飛び回った。
シロウも最初は困ってはいたが、観念したのか、彼女にとことん付き合うと決めたようだ。
買出しは順調に遅れた。


賑やかな昼下がり。
様々な食品や道具を目の前にし、人々は売買を行っていた。
道行く人々には笑顔があり、活気がある。


その中で一人、私の思考は回り続ける。























――――――――<気楽な商店街>――――――――





























「じゃあコーヒーに紅茶。後はイリヤが欲しいの買ってきてくれ」

「このお金を入れて、ボタンを押すのね。
 分かったわ! 待っててねシロウ!」

「ああ、お釣り忘れないようにしてくれな」

軽い足音と共に、銀の髪の少女が走っていく。
その姿はどこか楽しげで、見ているこちらすら和やかになるようだった。

「シロウ、彼女に任せて大丈夫なのですか?」

「大丈夫だって。
 自動販売機なんて難しい事はないし、別に間違えて違うのを買ってきても大した問題じゃないだろ?」

「・・・それもそうですか」

無用な心配だったのだろう。
私の問いかけに、彼は気楽に応えてくれた。

前へと顔を向きなおす。
目の前にはこざっぱりとした公園が広がっている。

「・・・・」

特に感銘を受ける事も無く、押し黙って空を見上げる。
曇り、ぼやけている空は、どこか自分の心境に相似していた。

――――そう簡単に解決できるなど、思ってはいなかった。
ここに再び召喚される、いや、シロウの元に現れると決めた時から、
・・・いや、それ以前に聖杯戦争を終え、彼らと共に生きると決めた時から、目の前にあり続けたモノ。
一度足りとて忘れた事はないが、ここまで深く考えるのも久しぶりだった。

私は・・・彼になんと言ったか?
誇りと、私は言った。

確かに、自らの信ずる道を行き、全てを賭して駆け抜けた事は、誇るべきなのだろう。
それはあの少年が、赤き英霊に至るという答えで、私に見せ付けてくれた。
決して立ち止まらず、諦める事なく、理想を追い続けた彼は、
誇るべき人生を送ったと、通った道にいかなる敗北、過ちがあろうとも、確信を持って言う事ができた。

ならばそう、私も誇り――――王としての責任を持たねばならない。
その決意は未だ老いる事も、消える事もない。
如何にして、犠牲にした民、戦い散った騎士、彼らに報いる事ができるのか。
自らの失敗の責任を取れるのか。

それを聖杯に頼った。
過去を無くし、新たな、そして相応しい王を選定しなおすと言う事。
それを願い、私は聖杯戦争に参加した。

――――だが、それすら間違っていると、少年と青年は身をもって私に見せ付けた。

・・・未だに目に焼きつき消える事は無い。
鏡を目の前にして、死力を尽くした戦いを。
自らを、そして過去を否定した青年と、ただ美しいと、理想を信じて理想を体現する男に挑んだ少年を。
決して忘れることはない。

だからそう、もはや過去の修正など願う事などはしない。

だからそう、私は道を無くしてしまった。

「・・・バー」

伝説は告げる、王は理想郷へと眠りに付き、再び復活すると。
私の意志さえあれば、世界の意向さえ免れ、あの地に安住する事は可能だろう。

「・・イバー?」

だがそれが答えなのだろうか。
それで本当にいいのだろうか。
私の望みも、それで―――――

「セイバーっ」

「!? は、はい、何でしょうかっ?」

「いや、反応がなくてボーッとしてるからさ。
 なんかあったのか?」

肩を揺さぶられて、意識が今に戻る。
横ではシロウが心配そうな顔をして、こちらを見ていた。

「いえ、すいません。
 少しばかり考え事をして警戒を怠っていました」

「別に怒ってるわけじゃないって。
 やっぱりさ、セイバーなんかあったんだろ。
 朝から様子がおかしかったじゃないか」

「・・・いえ、特に話すような事はありません」

軽く俯き、彼から目をそらす。
相談できるような話しではないし、なにより・・・そういった事で解決するようなモノではない。



私は迷い無く道を切り開いてきた。
いや、迷いならば何度も経験したことではあるが、自分の行動に確信は常に抱いていた。
私の行為は間違っていない。
この選択は、常に国のためになると。
そう信じてきた。



だが、その確信が今は持てない。
進もうとしている道は正しいのか。
その選択は間違っていないのか。

私の・・・私の今の望みは―――――ただの欲望ではないのか。

「――――っ」

膝の上に置いた手を、強く握り締める。
強く、強く握り締め、痛みで自分を支える。
そうでもしないと、自らの存在が希薄になりそうで、恐怖を感じた。

もし、この選択がただの逃亡であるのなら。
私はいるべき場所は、ここではない。

―― 在るのは屍と死者。
   生きているものなどいなく、壊れていないものなどいない。
   無数の剣の墓標に囲まれた丘に立ち、目の前に広がるのは ――

「はい」

たいやきだった。
視界が突然それで埋まり、目は点になる。

「・・・シロウ、これは?」

「たいやきって言ってな、日本のお菓子なんだ。
 小麦粉の生地にアンコを詰めて、魚の形に焼き上げてる昔ながらの食べ物だよ」

「あ、いえ、そういった事ではなくて」

軽く呆然としながらも、それを受け取る。
買ったばかりの為にまだ暖かく、寒い外の空気と相まって持っているだけでも癒されるものがある。
この質感も他にはないものだ。

「ほら、まだ昼食食べてないだろ?
 お茶請けのつもりで買ったけど、家帰ってからすぐ飯ができるってわけじゃないし。
 まあ繋ぎって事で食べちまおう」

そう言って彼は自分の分も袋から取り出し、遠慮なくかぶりついた。
見ているとこちらまで食欲を進められる。
というか、今まで気づいていたかっただけでかなりお腹は空いていた。
意識を頭に廻し過ぎていたのかもしれない。

彼がしたように、私もたいやきにかぶりつく。
生地の味とあんこの甘さが相乗効果を生み出し、絶妙である。
お腹の空いていた為か、甘さがじんわりと広がり、少し幸せな気分になった。

・・・あれだけ思い悩んでいた直後なのに、これだけで幸せを感じている自分が情けない。

しかし食べ物には罪はない。
冷えさせてしまうのも忍びないし、味も落ちてしまう。
あくまでもしょうがなく、口を開いて続きを食べ始める。

「セイバー」

と、たいやきが半分程になった頃に、彼が口を開いた。

「俺さ、セイバーには何度も助けてもらってるし、素人同然の俺に付いてきて貰って感謝してる。
 だからて恩返しってわけじゃなくてさ、こんなんでも一応パートナーだろ?
 俺からも何かしたいって思ってるんだ」

こちらを見て、真っ正直に彼は言う。

「それに一緒に住んでる以上、俺はセイバーの事家族だと思ってる。
 何があったかとか、何を悩んでるとか判らない。
 役に立たないかもしれないし、邪魔になるかもしれないけど・・・
 セイバーが呼んでくれればさ、いつでも力になるよ」

曇り無く、真剣な声。
彼のことだ、どんなに困難なことであったとしても、躊躇わずに挑んでくれるのだろう。

それで思い出す。
私の選択に確信は無くとも、彼の事は信じられると。
だからこその希望、だからこそ―――私はここにいるのだと。

「えっと、やっぱり俺じゃ力不足か?」

「・・・いえ、そんな事はありません」

道の先が見えなくとも、隣を行く人を信じられる。
この未熟な正義の味方に、希望を見たのだから。

「シロウ、あ――」

「あぁー!!」

怒気を含んだ叫び声で、さえぎられる。
振り向けば三つ缶を抱えたイリヤスフィールがこちら、というより手元のたいやきを見ていた。

「待って、って言ったのに、先に食べちゃってる!」

「あ、ごめん。
 それにしてもイリヤ、帰ってくるのが遅かったと思うんだが」

怒りの眼差しで詰め寄る彼女に、押されながらも答えるシロウ。
すると彼女は恨めしい表情を缶に向ける。

「だって、持ったら熱かったんだもん。
 手袋は家に置いてきちゃったし、しょうがないから冷めるまで待ってたのよ」

そう言ってホットコーヒー・・・だったモノをシロウに渡す。
全く持って暖かい物を買った意味がない。

「・・・ク」

抑えきれず、口の端から息が吹き出る。

「ちょっとセイバー、笑うなんて馬鹿にしてるの?」

イリヤスフィールが腰に手を当て、可愛らしく憤慨する。
本人にとってよほど不名誉なことなのだろうが、

「い、いえ・・・決してそういう訳では・・・。
 ただ・・・フフ。お、可笑しくて」

私の意志を無視して、体は痙攣する。
彼女に失礼だと判ってはいるのだが、止める事ができなかった。

「もう。シロウ、わたしにもそれ頂戴っ」

軽く怒っているイリヤスフィールに、彼は袋からたいやきを取り出してその手に乗せる。
私の反対側、シロウの隣に座ると、彼女は黙々とそれを食べ始めた。

「えっとセイバー、これ」

間に挟まれて困り顔のシロウが、紅茶を差し出してくる。
それを受け取った時には、なんとか痙攣は治まっていた。

「ありがとう、シロウ。
 それにすいません、イリヤスフィール」

「おう」

「ふん」

別の反応で、二人が反応を返す。
それがなんだかまた可笑しかったが、それは頑張って抑える事が出来た。









もう悩むことはないだろう。
選択は決めた。いや、決めていたのだから。


彼を一番近くで見届け、その先に答えがあると、信じて。






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