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それは太陽が真上に差し掛かるか否か、そういう時間帯であった。

自らのマスターが家にいる以上、学校に行く必要はなく、そうなるとするべき事も限られてくる。
そして今はそのするべき事、つまりは見張りの為に屋根上にいる。
しかし昼間から攻めてくるような輩はそうはいない。
その為最優先すべき事柄というわけでもないのだが、だからといって他にすべきことはないし、念を入れるに越したこともない。
そういった訳で、自分は来ない筈の襲撃者を警戒していた。

ふと、今まで動きの無かった視界に、何かが映りこむ。
制服を身にまとい、軽く走り出した少年は確かに知っている人物であった。

知らず、ため息をつく。

昨日までの事を全く反省できていない。
一人で出かけると言うことが、今どういう事なのかを理解していない。

全く、頭の悪さは一生変わらないのだな。





庭に足を下ろし、同時に実体化する。
セイバーやイリヤを連れて、まあイリヤは自分からついて行ったようだが、ともかく彼女等は土蔵にいる筈だ。
足を向け、辿り着けば確かに気配はあった。
殺気を纏って、だが。

中を除いて見れば、案の定床に転がっていたスパナを手が白くなるまで握り締めている凛がいる。
大方『アレ』を見たのだろう、彼女の周りに転がっているものが証明していた。

「取り込み中悪いが、失礼するぞ」

一声かけて、階段を下りる。
セイバーとイリヤは気づいていたようで、振り向くだけで特に反応を示さなかった。

「何、今本当に取り込み中なんだけど」

寒気がする程の冷たい声で、振り向きもしないで凛は言う。
彼女は優秀な、そして根本からの魔術師だ。
目の前に出された事実に対して目をそむける事はないが、信じられない異常に戸惑いを感じているのだろう。
戸惑いというより、これは殺意と言ったほうがよいのだろうが。

「こちらも緊急でね。今、衛宮士郎が学校へ向かった」

「なっ!」

「どういう事ですか!?」

凛の驚く声に続き、セイバーが掴み掛からんほどの剣幕で叫ぶ。
イリヤと言えば、驚いたようだが彼女らほどではなかった。

「電話が鳴り、すぐに制服に着替えて出て行った。
 誰かに呼ばれたのは間違いないだろうな」

「・・・アイツ、今がどんな状況かまだ分かってないみたいね」

項垂れ、頭を抱える凛。
よほど驚き呆れたのか、先程の殺気はとうに無くなっていた。

「私が行って、連れ戻してきます」

セイバーが勢い込んで土蔵から出て行こうとする。
しかしそれはさせられない。

「待て、衛宮士郎は一人で行かす」

彼女の足が立ち止まり、凛やイリヤまでが怪訝な表情で私を見やる。

「・・・どういう意味ですか、アーチャー」

「言葉の通りだ。
 奴が向かったのは学校だ、今までのことから考え、一人で行けば確実に敵のマスター現れる」

セイバーの目つきが変わる。
私の言うことを理解したのだろう。

「・・・アーチャー、アンタまさか」

凛までも、険しい顔つきでこちらを睨む。
再び声に冷たさが戻り、まるで敵を前にしたような剣幕を見せる。
しかしそれらには予想していたから動じず、言葉を続ける。

「ああ、君たちの思い描いている通りだ。
 ――――初期の目的通りに、衛宮士郎を餌にする」























――――――――<月下対峙>――――――――





























全く意味がわからなかった。
いや、現在起こっていることはなんとか理解できる。

学校に潜伏していたマスターが慎二で、それに従っていたのは一度戦ったライダーだった。
結界を発動され、俺はボコボコに叩きのめされた挙句に、反撃すら失敗して窓から落とされた。
そして令呪でセイバーを呼ぼうとして、何故かその瞬間に彼女は姿を見せた。
令呪の刻まれた手を見るが、光る紋様は一つしか輝きを失っていない。

「あの、セイバー?」

「喋らないでください、今治療を施します」

俺の傷を見て深い憤りを見せながら、彼女は優しくそれに触れる。
軽い痛みを感じた後、彼女の手が当てられた部分が急速に癒されていく。
彼女の横顔を見て呆けている間に、次々とそれはなされていった。

「えっと、セイバー」

「シロウ、少しだけ大人しくしてください。
 あと少しで完治しますから」

「いや、わかったから。
 あのさ、変なこと聞くけど、セイバーだよな?」

「・・・私が他の何に見えるのですか」

「セイバーにしか見えない。だから戸惑ってるんだ。
 ああいや、来てくれたのは嬉しいけどさ、俺令呪使ってないよな?」

時間差という訳でもなく、手にはまだ二つの輝きがある。
一度使ったから分かるが、俺は確実に使ってはいない。
というか使う前だった。
じゃあ何だってセイバーがこんな早く目の前にいると言うのか。

「シロウ、その事で私は貴方に謝らなくてはならない」

「謝る?」

むしろ助けてもらって感謝してるぞ?

「貴方が家を出た事は、アーチャーが気づいて私達に報告してくれました。
 その後すぐに、私達は身を潜めながらシロウの後を追跡しました」

セイバーは顔を俯け、後悔するように歯を食いしばる。

「アーチャーが貴方を囮にすると言ったのです。
 私は反対したのですが・・・
 いえ、今からでは何を言ったところで言い訳になります。
 私はそれに従い、身を隠して敵が現れるのを待った。
 ――――それが今私がここにいる理由です」

俺の体に当てられている手が、微かに震えている。
見れば、戦いの時にあれだけ強く勇猛であった彼女が、ひどく小さく儚げに見えた。

「すまないシロウ、私は・・・」

ひどく弱々しい声。
彼女は間違ってなんかいない。
元はと言えば一人で外出した俺が悪いんだし、だいたい相手を燻り出すのが俺の目的でもあったのだ。

「アーチャーは間違ってないし、セイバーも間違ってないよ。
 悪いのは俺なんだから、セイバーが気負う事なんてなにもない。
 むしろアイツが言ったことは正しい、何しろ俺たちはそれが目的で組んだんだしな。
 だからありがとう、セイバー」

純粋に、俺を心配してくれる彼女の気持ちが嬉しい。
マスターとかサーヴァントとか関係なしに、俺の身を心配してくれている。
その上命まで助けてもらってるんだ。
彼女の何を責めろって言うんだ。

「シロウ・・・・すいません。いや・・・ありがとう」

セイバーはそう言うと、顔を上げて、少しだけ笑みを浮かべてくれた。
うん、セイバーは美人なんだから笑ってないと駄目だな。

「それでシロウ、傷の方は如何ですか。
 もう大方治療は済みましたが、痛むところはありませんか」

少し顔を赤らめながら、心配そうに聞いてくる。
気づけばアレだけ傷ついていた体は完治し、痛みも綺麗さっぱりなくなっていた。
まあ千切れそうになった腕に違和感が残っているが、それくらいで済んだことに感謝するべきだろう。

「ああ、もう大丈夫だ。
 ・・・ってこんな事してる場合じゃない!
 セイバー、すまないが力を貸してくれ。
 この結界をなんとしても止めるんだ」

そう時間は経っていないが、だからといって油断できるわけではない。
犠牲者なんて絶対に出してはならないのだ。

しかしセイバーは焦ることなく、それどころかひどく落ち着いている。

「その必要はありません、シロウ。
 何故ならば―――」

スウ、と体が軽くなった。
周りを見やれば、赤い檻は消え去り、綺麗な青い空が見える。

「来たのは私だけではありませんから」




















「はい、衛宮です」

――――!?

「ああいえ、遠坂です、藤村先生ですか?」

・・・、―――?

「衛宮くんならいますよ、代わりますか?
 ―――そうですか。
 今日学校で事故があったそうですけど、先生は大事ありませんか?」

―――! ―――。

「よかった、衛宮くんにも伝えておきます。
 ――――あはは、そんなことないと思います。素直に心配してましたから、彼。
 あの、他の生徒は大丈夫だったんですか?」

――――――――、――――。 

「はい、桜も・・・・よかった。
 わざわざご連絡ありがとうございます」

――――、―――――。

「はい、伝えておきます。
 では、失礼します」













「全く、何を考えてるのよシロウは」

煮込んでいるカボチャの様子を見ながら、干物の焼き加減を見る。
干物はまだ火にかけ始めたから大丈夫だが、そろそろカボチャの方は完璧に火が通るだろう。

「確かに昼はマスターが活動しないってのが普通だけど、中には馬鹿だっているんだからね?
 だいたいシロウは警戒しなさすぎなの! わたしだったらいつでも好きに出来ちゃうんだから」

物騒だなあ、と思いつつご飯の方を確かめる。
あと十分程だから、ちょうどおかずの完成と同じになるだろう。
鍋の火を一度止めて、醤油をベースとした数々の調味料を入れる。
っと、そろそろ味噌汁も作らなくては。
汁物が二つになってしまうが、文句を言う人間はいないだろう。

「だからね・・・ちょっとシロウ、聞いてるの?」

水を入れた鍋に火をかけ、一度作業を止めて振り向く。
そこには予想通りに仏頂面をしたイリヤがいた。

「おう、聞いてるぞ」

「もう、悪いことをしたんだからちゃんと反省しなきゃダメよ?」

「おう。ところでイリヤ、この皿運んでおいてくれるか?」

「あ、うん。これね」

素直に皿を持って、机へとそれを運んでいく。
先程からずっとこんな調子で、おかげで机の用意はちゃくちゃくと進んでくれた。
ちなみにセイバーもそれを手伝ってくれているので、何の心配もなくこっちは料理に集中できる。
すると小さな足音と共に、遠坂が今に帰ってきた。

「遠坂、電話誰だった?」

「藤村先生。病院に連れ添いで来れないって言ってたわ。
 ちなみに桜も行ったみたいで、今日は直接家に帰るから来れないって」

「そうか・・・」

再びあの情景が蘇る。
全ての人の生気が奪われ、地獄の沙汰と化したあの世界。
結局俺は何もすることができなかった。

「・・・ちょっと、なに暗い顔してるのよ。
 結界は殆ど張った直後に止めたからそう影響はないはずよ?
 一応検査って事で病院が呼び出されたけど、みんなちょっとした疲労程度で済んだだろうし」

「・・・そうなのか?」

遠坂の言う事だから正しいのだろうが、あれを見た後だとにわかに信じられない。

「ええ、明日も通常通りに学校は開かれるらしいわ。
 先生や桜も、朝食には来るって言ってたわよ」

「そうか。
 ―――よかった」

胸にあった靄が晴れて、心底安心したため息が口から出る。
そうか、よかった。最悪の事態だけは回避できたんだ。

しかし俺が沈んでいた気分を持ち上げたというのに、遠坂といえば何故かこちらをじとーっと睨みつけている。

「? なんだ、まだ何かあるのか?」

「確かに被害は殆どなかったけどさ、それはアンタを抜いてでしょ。
 今回殺されかけた挙句に窓から落とされて。
 ・・・しかもわたし達はアンタを囮にしたのよ。
 何とも思ってないわけ?」

遠坂は何かに遠慮するように、視線を逸らしながら聞いてくる。
むう、セイバーといい遠坂といい、変な事を聞くな。

「思ってるに決まってるじゃないか。
 感謝してる、ありがとう、遠坂」

頭を下げて、素直に感謝の気持ちを言う。
しかしそれに気を良くした様子などなく、遠坂は絶句してこちらを睨んできた。

「む、やっぱりなんか物とかで礼しなきゃ駄目か。
 まいったな、俺遠坂が欲しがるようなモノ持ってないぞ?」

「ちがうわよっ。
 アンタねえ、何の打ち合わせもなく囮に使われたのよ?
 怒るでしょう、普通!」

「怒るって、なんでさ。
 元々今回は俺とセイバーが囮になる予定だったじゃないか。
 むしろ誰にも連絡せずに出かけたのは俺なんだから、怒られる事はあっても怒る事なんてできないぞ」

「――――っ!」

遠坂の目がますます釣り上がる。
むむ、なんか本気で怒ってないか。

「だから――!」

「無駄だ、凛」
 
不意に、今まで聞こえなかった声が遠坂の後ろからした。

「この男がこういう人間である事は、すでに分かっていたことだろう。
 君は正しい事をしたのだし、気に病む必要などどこにもない」

律儀に靴を脱いで、縁側から上がってきた赤い男。
今まで屋根上で見張りをしていたのだろう。

そういえば今回の事、アーチャーが全部片をつけたようなものだったな。
考えてみれば俺は彼にすら何も言えていないじゃないか。

「アーチャー、あんたにも礼を言い忘れてた。ありがとう」

「ほう、私はお前を囮に使ったのだが・・・それに礼を言うか。
 嬲られ、死に掛けたお前が窓から捨てられるのを一部始終影から見ていたわけだが」

「ああ、それでもだ。
 そもそも俺がそうなったのは自業自得だし、アーチャーの行動は最善な行為だと思ってる」

もし俺が殺されたとしても、こいつの行動は正しかった。
あの時はなによりも早くに結界を止める必要があったのだから。

「凛、だそうだが」

「・・・・・・」

遠坂は頭に手を当て、心底呆れたようにため息をつく。
・・・俺そんなにおかしい事いってるかな。

「士郎」

「ん? 何だ遠坂」

「お鍋の水沸騰してる」

「うわ、やべ!」

急いで火を止めて、放って置いてしまった他のおかずも確認する。
よかった、全部無事なようだ。

振り向けば、遠坂はのそりとテーブルへついて、

「はあー」

と肺の空気を全て吐き出すように、項垂れた。













「アイツね、やっぱり通常とは違う契約をしたみたいね。
 たぶん魔力がないから別の物に契約させて、それを持ち歩いていたみたい」

「別の物ってなんだ?」

「慎二がやったのは本みたいね。
 ライダーを倒した瞬間、手に持ってたやつが燃え尽きてたから」

ふむ、そういえば慎二のやつなんか懐から取り出してたな。

「む、そういえば気になってんたんだが、慎二は魔術師じゃないんだよな。
 そもそもどうやって契約したんだ?」

「そこよ、当たり前だけどサーヴァントを呼び出す以上、膨大な魔力を必要とするのよね。
 ・・・まああそこも腐ったとはいえ聖杯戦争の三家の一つだし、裏技の一つや二つ持ってておかしくないけど。
 交流がないからさっぱりわからないけど、あの妖怪爺さんも生きてるって話しだし」

む、今気になる事言ってなかったか?

「え、ああ、言ってなかったけ。
 聖杯のシステムを三つの家が協力して作った、ってのは聞いたわね?」

「遠坂とイリヤの家だろ? もしかして・・・」

「そう、間桐も御三家の中のひとつ。
 まあ元々外来の魔術師で、こっちに移住したんだけど土が合わなかったみたいで、もう魔術回路は絶たれてたってわけ」

土が合わなかったって・・・そんな野菜みたいな。
っとと、集中が乱れる。

「彼らは聖杯戦争の中でも契約、令呪の方面を担当した家よ。
 遠坂なんかよりそっち方面については詳しいし、何か妙な方法でサーヴァントを呼び出してもおかしくないわ」

「・・・よくわからないけど。
 ほら、できたぞ遠坂」

そう言って、手に持っていた物を彼女に渡す。

「ふむ、上出来じゃない。まあ今までのに比べればの話だけど」

遠坂は強化が済んだそれを見ると、満足そうに微笑んだ。
ちなみに机の上には俺が強化し終わった物がごろごろと並んでいる。

「これなら問題ないわね。
 まさかこんなに早く安定するとは思ってなかったけど」

「ああ、俺もそう思う」

あの時から、体は一転した。
今は体中の魔術回路を感じる事ができるし、それを自在に制御する事ができる。
まああくまで、今までと比べてという意味でだが。

「・・・・・」

間が空いたように、互いに沈黙する。
しばらくの間そうして、俺は小さく決意して口を開く。

「あのさ」「あのね」

被った。
互いに驚き、固まる。
先に動き出したのは俺だった。

「え、なんだ遠坂。なんか言いたい事があるなら先に言ってくれ」

「え、あ、いえ、ね。わたしの方は大したことじゃないから、士郎の方から先に言ってちょうだい」

あたふたとし、遠坂すらも焦って言葉をまくしたてる。
何か聞きにくい事でもあったのかもしれないが。

「じゃあ悪いけど。
 そのさ・・・慎二の事なんだが」

「・・・」

遠坂が眉根を一度寄せ、真顔へと戻る。
情のない冷たい声で口を開いた。

「まあ自業自得じゃない?
 ああなったのもそうだけど、先に士郎に手を出したのもアイツだし」

「そうだけどさ・・・」

未だ心に残る。
俺が知っている間桐慎二は、誤解されやすい奴だが本当にそういう人間ではなかった。
皮肉屋で人には厳しかったが・・・
何があいつをあそこまで狂わせたのだろうか。

「・・・まあいいけどね。
 衛宮くんが気にする事じゃないと思うわ」

「ああ」

「話は終わり? じゃあ今日はもういいわ。
 まだアンタも本調子じゃないだろうし、早く戻って寝なさい」

これで話は終わりとばかりにそっぽを向く遠坂。
俺もそれに頷き、ドアノブに手をかけてから、ふと立ち止まる。

「そういえば遠坂の話はいいのか?」

「え? あー・・・」

本気で忘れていたようで、遠坂は一瞬呆けた用に口を開けた。
そして口元を押さえながら少しだけ押し黙る。

「いえ、いいわ。
 早く戻りなさい」

「? わかった」

おやすみ、と一声かけて廊下へと出て行く。
遠坂はそれ以上何にも言ってこなかった。



夜遅いためできるだけ静かに歩きながら、自室へと戻る。
途中寄って行こうかとも思ったのだが、行ってどうするのか全くわからず、そのまま戻る事にした。
窓から外を見ると、綺麗な月が見えていた。

「―――シロウ?」

縁側へ辿り着いた直後、セイバーの透き通った声が俺を呼んだ。
彼女は縁側に腰掛け、こちらを振り向くようにして見ている。

「セイバー、まだ起きてたのか」

「ええ、マスターが起きているというのに先に寝るわけにもいきませんから。
 それでシロウ、体のほうは如何でしたか」

「大丈夫だってさ。
 魔力の方は安定したし、体も問題なさそうだ。
 それもこれもセイバーのおかげだ。ありがとうな」

「いえ」

優しく微笑み、彼女は空を見上げる。
俺も釣られるようにして顔を上げた。

青白い光が、暗闇全てに色をつける。
ふと思う、セイバーも昔同じように、空を見上げてこの月を見ていたのか。
俺は彼女の事を何も知らない。
セイバーが聞くなと言ったのだから、聞くつもりは全くない。
だが、少しだけ気になる。

彼女が今見ている月は、本当に今なのだろうか、と。

気づけば、彼女に触れようとしているのか、手が前へと出ていた。
すぐに引っ込める。
彼女との約束なのだから、それを俺から破るわけにはいかない。

「シロウ、今日はアレだけの怪我を負ったのだ、早めに睡眠を取ってください」

「あ、ああ。そうするよ。
 セイバーはまだ寝ないのか?」

「私は―――」

こちらを見た顔が、再び空へと向けられる。
その表情は、決して俺が見た事のあるものではなく。

「私はもう少しこうしています。
 すぐに戻りますので、シロウは先に」

「分かった、あんまり夜更かしするなよ?」

彼女は笑って返事をした。
止めていた足を動かし、部屋へと戻る。

・・・寂しそうに見えた彼女の顔を、頭のどこかに焼き付けながら。













「全く、こういう時だけ鋭いのだから困る」

どこか自嘲気味に笑い、彼が去った方を見やる。
もちろん姿など見えず、そこにあるのは月に照らされた風景のみだ。

息を深く吐き、静かに彼を待つ。

今から自分がしようとしている事が、正しいかは自分にはわからない。
もしかしたらそれが最悪の事態を引き起こすかもしれない。
決して自信などなく、確かなものなどではない。

だがしかし、やらなくてはならない。

向かい合わなければならないのは、彼だけではないのだ。

小さく、床が揺れる。
人が歩いている振動が、木で作られたこの家には確かに感じられる。
やがて彼は幾秒と待つこともなく、奥の部屋から現れた。

「・・・なんで僕はここにいるんだ」

男性の声で、それは言う。
それは衛宮士郎のものではなく、屋根の上で立ち続けているものでもない。

「目覚めましたか」

私も立ち上がり、庭へと一歩踏み出す。





振り返り、対峙する男の名は、聖杯戦争にマスターとして現れた、間桐慎二というものだった。






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