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冷たい空気が、体を引き締める。

暖かい日差しの中、眼を開けて前を見る。

そこには真剣な顔つきをした、まだ幼さの残る面持ちをした青年がいる。

互いに竹で出来た武器を構え、同じく正眼の構えへと型を作る。

軽く息を吸い、頭を切り替えた。

「はじめましょう」

張り詰めた空気の中に、通すように声を放ち―――

ッダン!!

―――互いに地を蹴って、前へと踏み出した。























――――――――<想いは剣に>――――――――





























「はぁ・・・はぁ・・・っはぁ・・・」

彼が荒い息遣いで呼吸をする。
さすがに常人より優れた肉体を持っているとはいえ、2時間以上続けて打ち合っているのだから疲れもしよう。
だがここで容赦するつもりはない。
これはシロウが望んで始めた事であり、私自身も好ましく思っているからだ。

「くっ」

息を整わせることもなく、彼は必死の形相で踏み込む。
休む必要があるのだろうが、そんな事は私が許さないということを知っているのだ。

正眼に構えていた竹刀を振り上げ、真っ正直に脳天に振り下ろしてくる。
十分避けられる速度、タイミングではあるが、そうしてしまうと彼の修行にはならない。
今の私はあくまで、彼の一段上の剣士を仮想し、打ち合う必要があるのだから。

竹刀を横に構え、彼の一撃を受け流す。
横に流された竹刀は、むなしく地を叩いた。
隙だらけになる彼の体。
それに追い討ちをかける様に竹刀を構え、

―――ッズパン!

鋭い踏む込みと共に繰り出された一撃を竹刀で防いだ。

次の一撃を避けるべく軽く間合いを離す。
思いの通りに次撃はあったが、私はすでに彼の攻撃の範囲外。
再び隙を見せた彼に踏み込んで竹刀を振る。
だがそれは、必死ながらも構えを直した彼に受け止められた。

逃げるように地を蹴り、彼は間合いを取る。

「っはあ、はあ、はあ」

激しい息遣いをしつつ、竹刀を何とか構えなおす。

先ほどからこれの繰り返しが続いている。
私自身、先日と比べて手を抜いているつもりはない。
いや、それ以上の力で打ち合っている。
だというのに、今日は彼に一撃も入れてはいない。

まああくまで意識を奪うほどの一撃、という意味なのだが。

私自身に原因がないのなら、彼にあるという事になる。
・・・まあ気づいていないわけではないのだが、認めたくないというかなんというか。

「シロウ、一度休憩にしましょう」

声をかけて、同時に構えていた竹刀を下ろす。

「? なんでさ、確かに疲れてきたけど、まだやれないこともないぞ」

昨日と比べ、自分の体が動いてくれるのが後押ししているのか、まだ飽き足らないようだ。
かなり集中して打ち込めているためか、他の事まで気が回っていないようだが。

「いえ、根を詰めすぎるのもよくありません。
 それにそろそろ昼食の時間になりますが、その用意も必要でしょう」

私の言うことを聞いても、未だ不満がありそうに見える。
一つのことに打ち込むと、キリのいいところまで止めないのが、彼の長所であり短所だろう。
まったく・・・

「それにこれ以上放って置くのでしたら、どうなっても知りませんよ?」

そう言って、視線を道場の入り口へと向けた。
何のことか分からなかったのか、彼は私の視線に釣られるようにそちらを見て、固まった。

視線の先には、膝を抱えてほほを膨らませた、銀の少女が居た。

「あ・・・れ、イリヤいつからそこにいたんだ?」

シロウが呆けるように言う。
それを聞いた当の本人は、それを聞いてさらにほほを膨らます。

「・・・ずっと最初の方からいたわ。
 何回か話しかけたんだけど、シロウは返事もしなかった」

う、と何かが詰まったように彼は呻く。
よほど後ろめたいのか彼女を直視せず、錆びた鉄のような音を鳴らしながらこちらを見る。

「セイバー、あのさ」

「はい、それでは休憩としましょう」

冷や汗をかいて引きつった表情をした彼に、私は笑いながら答えてあげた。











「今日は家にいる、っていうから楽しみにしてたのに・・・」

イリヤスフィールが愚痴を言いつつ、オムライスにスプーンをいれる。
掬い上げたそれに息を吹きかけて、すこしだけ冷ましてから口へと運ぶ。
彼女は未だ気を悪くしているが、その仕草の一つ一つは行儀がよく、愛らしい。

彼女の愚痴を受けつつ、シロウは苦笑いをしながら自らも食事を取る。




あの後すぐに彼は台所へ行き、昼食の準備をし始めた。
口では何を言っても聞いてもらえないということが分かったのだろう。
オムライス、という選択が彼女のご機嫌取りとしか取れない事が証拠だ。

それにしても、やはり彼の作った食事はすばらしい。
時間がなかったためか、ソースはケチャップだけなのだが、他の食材が十分味を引き立てている。
薄い赤色をしたライスに、細かく刻まれたたまねぎ。
小さく切られている鶏肉が、赤の中に綺麗な白を散りばめている。
チキンライスだけでも十分満足できる代物ではあるが、そこはやはり彼が作ったオムライス。
卵にも十分な細工がされていた。
ふわり、と柔らかな卵が綺麗に楕円を描いている。
卵自体にもなんらかの味付けがしているらしく、それがライスとケチャップにとても合う。
見た目、味の調和が見事なまでに整っている一品だ。

その効力といえば、今まで押し黙っていたイリヤスフィールを、たった一口で開かせる程の物だ。
まあ幾分か機嫌を直したとはいっても、未だ愚痴は続いているのだが。

「今回は許してあげる。
 それに十分稽古はしてたみたいだし、もうこの後は遊んでくれるのよね?」

彼女は期待に眼を輝かせる。
だがシロウは心底悪いように首を横に振り、謝った。

「悪いけどセイバーとの鍛錬は止められない。
 自分からやり始めたことだし、俺には必要な事なんだ」

なだめる様に、優しく彼は言う。
もちろんそれがわからない彼女ではないが、だからといって納得はできないのだろう。

「じゃあシロウはわたしと何時遊んでくれるのよ」

再びほほを膨らませ、睨むようにシロウを見やる。
それを彼はどうしたものか、という表情で考え込む。
やがて何か思いついたのか、もしくは結局思いつかなかったのか、指を立てて、

「じゃあ聖杯戦争が終わったら、イリヤに好きなだけ付き合うってのはどうだ?」

なんの躊躇もなく、彼はそういった。

「え―――」

イリヤスフィールの表情が固まり、停止する。

・・・彼女は聖杯戦争の"後"など考えたこともないだろう。
何故ならば彼女は聖杯戦争の為に生み出され、その為にここにいるのだから。
だからそう、後のことなど未知の話。

「あ、そうか、聖杯戦争が終わったらイリヤは家に帰っちゃうのか?」

「あ―――ううん。帰る必要なんて、ない・・・けど・・・」

戸惑いながら、なんとかして答える。
彼女にとって、彼の言葉は本当に予想の外にあったのだろう。

「ふうん? ならさ、そう言う事なら駄目か?
 なんだったらイリヤの気の済むまで家に居てくれても構わないぞ」

彼は当たり前のように、とんでもないことを言う。
彼女にとってどれほど意味のある言葉で―――どれほど欲しかった言葉かも分からずに。

本当に欲しいものを、当たり前のようにくれる。

それが彼の甘さであり、暖かさである。
・・・本当に、何度胸を打たれたか分からない。

「・・・イリヤ?」

押し黙った彼女に対し、心配そうに声をかけるシロウ。
自分がどれだけの事を言ったのか、分かっていない鈍さは流石だ。
全く、これに何度泣かされたかもわからない。

「・・・そうね、シロウがそういうなら、居てあげないこともないわ」

イリヤスフィールは顔を上げると、軽く頬を染めながら食事を再開した。
照れがあるのか、全くもって素直ではない。
だが隠し切れない感情が、顔に表情となって出ていた。

「ああ、色々連れてってやるから、期待しててくれ」

聞こえているのか聞こえていないのか、彼女はそれを聞いても反応せず、上機嫌に食事に集中しだした。
む、それはそれとしてだ。

「イリヤスフィール」

一言声をかけ、彼女の髪を押さえる。
突然のことで分からなかったのか、疑問符を浮かべたまま、彼女は固まった。
嬉しさのせいか注意力が足りなくなっているようだ。

彼女の後ろへと廻り、髪を結わく。
私の首元に着けられているリボンを解いて使ったのだ。

「あと少しで、髪が汚れるところでした。
 貴方のその髪が汚れては、見ている私達の方が忍びないのですから、気をつけてください」

「ん・・・ありがとう」

彼女は意外にも大人しく受け入れ、少し照れたように俯いた。
席に戻り、再び食事を再開する。
するとシロウがこちらを見て、何故か嬉しそうに表情を柔らかくしていた。

「シロウ、何か?」

「あ、いや。二人とも仲がいいんだな」

表情と同じく、嬉しそうに彼は言う。
・・・私とイリヤスフィールが?

彼女へ視線を移せば、少しだけ私を見て、すぐにそっぽを向いた。
未だ赤く染まっている頬は、否定しているわけではなさそうだ。
知らず、笑みが浮かぶ。

「そうですね。私もイリヤスフィールも、同じですから」

そういって、私は食事を再開した。
シロウにはよくわからなかったようだが、特に詮索する気もなく、嬉しそうにスプーンを動かす。

本当に、何がそこまで嬉しいというのだろうか。
私とイリヤスフィールは互いに疑問浮かべた顔を合わせて、一瞬だけ、笑いあった。






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