肩に鋭い痛みが走る。
それもそうだ、昨日には風穴が開いていた場所なのだから。
だがこれはこれで役に立つ。
起きたばかりの頭に活が入るし、なにより昨日の事を鮮明に思い出せる。
自分がやらなくてはならない事をはっきりとさせる。
そして今日からするべき事を考え、起き上がる。
―――まあ最初はなによりも食事の用意なのだけども。
――――――――<決意は鉄に>――――――――
-2/6-
「学校を休む?」
全員の顔ぶれが揃っている朝の食卓で、藤ねえが声を上げる。
俺が学校を休む、と言ったのに対してオウム返しに聞き返してきたのだ。
「先輩、お体の調子が悪いんですか?」
「ああ、そういうわけでもないんだけどさ」
桜の心配そうな声に、できるだけ自然に見えるように笑う。
実際体の調子は快調というわけではないが、動けるのだからそれは休む理由にならない。
「詳しくは言えないけど、やる事ができたんだ。
今の俺にはそれが重要なんだ。
別に学校を重要視していない、ってわけじゃあないからさ」
藤ねえ達を巻き込むわけにはいかないとはいえ、嘘をつくのは嫌だ。
こんな下手な言い方しかできないが、これが俺のせいいっぱいだ。
「・・・もう、そんな風に言われちゃあ聞くこともできないじゃない」
多少不機嫌にしたようだが、それで藤ねえは納得してくれた。
桜の方は気になってはいたみたいだが、これ以上は聞いてこなかった。
「何故学校を休まれたのですか?」
朝食を終え、朝練の藤ねえと桜を送り、最後に遠坂を送り、今俺は道場にいる。
ちなみにセイバーも学校に行かず、俺と共に家に残ってここにいる。
まあ彼女は学校に入学していたわけでもないし、問題もないだろう。
道場に入りすぐに、セイバーは少し肩を怒らせて聞いてきた。
事情を話さず勝手に休むことを決めたのが悪かったのかもしれない。
「まずかったか?」
「いえ、危険が減ると言う意味ではむしろ正しい行為です。
しかし何の相談もなく、突然話されたので気になりました」
静かな声で、彼女は無機質に言う。
戦っている時のセイバーはこんな感じだが、話しているときはいつも穏やかだ。
ということはやはり相当怒っているのだろうか・・・
「えっと、セイバー?」
「はい」
あくまでも無表情に、彼女は一言で応じる。
セイバーって結構根に持つタイプなのかもしれない。
「ほら、昨日はああいう事になっちゃったけど。
俺だけ何もできなかっただろ?
セイバーや遠坂の足手まといにはなりたくないし、なら少しでも強くならないと」
そう、少しでも強くならないと。
―――また誰かを守れず、傷つけてしまうかもしれない。
あんなことは許せない。
それを行った者より、それを止められなかった自分がなにより許せない。
「・・・シロウ」
セイバーの心配そうな声が聞こえた。
いつのまにか、知らずに拳を握り締めていたらしい。
「シロウ、貴方は・・・」
辛そうに、何かを耐えるように彼女は声を絞り出す。
「いえ、分かりました。
できる限りの時間を鍛錬に使用しましょう」
「ああ、付き合わせて悪いな」
「気に病むことはありません。
私は貴方のサーヴァントなのですから」
そう言って微笑み、彼女は竹刀を構える。
「しかし貴方が本気になったとしても、私がする事に変わりはありません。
時間の許す限り打ち合い、戦いの空気を貴方に理解してもらうしかないのですから」
そう言って顔から表情を無くし、俺に構えることを促す。
剣を正眼に構え、セイバーをしっかりと視界に納める。
その顔を見て、なんとなく思った。
先ほどの彼女の笑みは、本当は泣いていたんじゃないかなんて、根拠のないことを。
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