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聖杯戦争。

七人の魔術師による、聖杯を得る為の殺しあい。

本来は戦闘を得手としない彼等が、この奇跡を得るために奇跡を用いる。

サーヴァント。

七つの器を与えられし七人の英霊達が、最後の一組になるまで相手を打倒する。

そしてその魔術師であり、マスターである私、遠坂凛。

私はこの戦いを一人で勝ち抜き、ただ一人の勝利者となるつもりだ。

・・・そのつもりだったのだが。























――――――――<正体を聞いてみよう>――――――――





























「なーんで始まってそうそうこんな事してるのかしら」

椅子に座り、こぼれるように愚痴が口から漏れる。
目の前にはせっせと仕事をこなす、その存在自体が奇跡とも言えるサーヴァントがいる。
アーチャー。
彼がこの聖杯戦争においての私のパートナーであり、考えて見ればはなっからの失敗と問題なのだ。

「はあ。よかったなあ、セイバー・・・」

今でも鮮明に思い出せる。
金の砂を撒いたかのような、肌理の細かい髪。
引き締まった表情は、まるでよくできた彫刻の様で。
無骨なはずの鎧は、青と銀で彩られたドレスかの如く。
彼女が戦う姿は、まるで舞うかのように美しく見えた。
・・・全く、本当に失敗した。
彼女さえ手に入れば、私の勝利は確実だったというのに。
それに比べて、

「凛、いつまでも座っていないで、少しは手伝うか何かしてくれ。
 大体、どれだけの量を持って行くと言うのだ。
 もはやちょっとした引越しだぞ、これでは」

これだ。
セイバーは強い上に、あんなにかわいらしいというのに。
こいつはなんか生意気だし、かわいくないし、セイバーには負けるし、料理はおいしいし、よく気がきくし。
・・・少しだけ評価を上げてやってもいいかもしれない。

「凛」

「ああもう分かったわよ。じゃあ次はこれとこれとこれ、バックの中に詰めておいてね」

「・・・凛、それは命令であって手伝いではないと思うのだが」

「なんか文句ある?」

「問題ない。了解した、マスター」

と、軽いため息をついて作業に手を戻すアーチャー。
素直でよろしいことだ。

わたしはわたしの方で、やることがある。
自分の服の着替えや、代えを用意しなくてはならない。
同盟を組み、さらに衛宮士郎の面倒を見る以上、彼の家に泊まった方が都合がいい為だ。
ちなみにアーチャーとわたしが今までいたのは地下。
魔術関連の道具が置かれている、わたしの工房だ。
何を運ぶかある程度は話しておいたし、あとはまかせておいて大丈夫だろう。
アーチャーに一声かけて、わたしは二階に上がる事にした。






脱いだ制服が皺にならない用に、ハンガーで洋服タンスにかける。
さらにこれから着る私服を選び、服に袖を通す。
着替え終わり、ベットに腰掛けて一息つく。
考えるべき事は大量にある。
この後すべき事、サーヴァント同士の戦いに、いかにして自らを守り、相手を打倒するかという事。
そして、なにより今確認しなくてはならないのは―――ー

「アーチャーの正体を確かめる事・・・」

わたしのサーヴァントであり、得体の知れないあの男。
弓兵、という存在でありながら、剣技でランサーを圧倒し、セイバーと切り結んだ。
そしてなにより、バーサーカーを一度といえ倒して見せた。

アーチャーの話しを信じるならば、バーサーカーは恐るべきサーヴァントだ。
狂戦士という、元々は弱い英霊を強化するためのクラス。
だがその余りの異能さに、マスターになったものは悉く制御に失敗している。
ただそれだけで恐ろしい存在なのに、その弱いはずの英霊も規格外の相手だ。
ヘラクレス。
剣や弓、はては格闘さえも優れ、数々の偉業を成し遂げ、能力や知名度共に最強と言える男。
それを制御しているイリヤスフィールも十分恐ろしい相手だが、そのサーヴァントまで脅威ときたものだ。
正直、今のわたし達では尻尾を撒いて逃げる以外の選択肢がない。

だがその相手を、殺すまではいかないが、倒して見せたのだ。
バーサーカーのあの蘇生力も大したものだが、それ以上にアーチャーの得体がしれない。
最初は記憶が混濁しているとか言っていたが、あとで元に戻ったとか言ってたし・・・
早めに真名を聞いておこう。

うむ、そうと決めたら早速作業の再開だ。
服を用意し、携帯用の宝石など、色々と準備をしなくては。






一階に下りて見ると、すでに準備は終わっていたようで、アーチャーがお茶を入れていた。

「こちらは終わったぞ、凛。もう十時過ぎだが、朝食はどうするかね?」

「・・・いらない。お茶だけお願いするわ」

「ふむ、不本意だがしょうがあるまい。今からでは昼食にも影響するからな」

少し残念そうに、お茶を入れてくれるアーチャー。
なんでこんな奴が英霊なんだか、全くもって謎でしょうがない。
椅子に座り、お茶を受け取る。
相変わらず温度といい濃さといい、絶妙な仕事をしている。
だがここで和んではいけないのだ。

「アーチャー」

「なんだ、凛」

「記憶が戻った、って言ってたわね。昨日」

柔らかかったアーチャーの双眸が、真剣なものに引き締められる。
片付けようとしていた食器を置いて、椅子に座り直した。

「その通りだ」

「・・・この際なんで言わなかったか、って言うのはどうでもいいわ。
 わたしが聞きたいのはそんなことじゃない。
 アーチャー、貴方の真名はなにかしら?」

「・・・」

沈黙が、空気を重くする。
彼は弓兵でありながら、他のサーヴァントと剣で切り結び、自らを魔術師と言った。
そしてバーサーカーと戦ったその力。
彼が無名などということはありえない筈だ。

「先に謝っておこう。すまないが、私の真名を明かすことはできない」

「・・・どういう事よ」

「すまないが事情も話せん。その事情こそが話せない理由であるからだ」

「ふうん。じゃあ令呪を使う、って言ったらどうするのかしら?」

そう言って、右手を掲げる。
腕には光る紋様が、仄かな光を上げて発動を待っている。

だがそれを見ても、アーチャーの表情は変わらない。
その瞳は、揺れることなく、ただ

"信じて欲しい"

と語っていた。
・・・全く。

「分かったわよ、真名についてはこれ以上聞かないわ」

「すまない、凛」

ふん、あんな顔されたんじゃ聞くに聞けないじゃない。
だがこれ以上に重要な事がひとつある。
実際正体が分かろうとも、それが分からなければ知っていても意味がない。

「アーチャー、記憶が戻ってるなら、もちろん自分の宝具もわかるわね?」

「む、宝具か」

「こればっかりは引き下がれないわよ。真名が分かってしまうから、なんて理由でもね。
 知っているのと、知らないのとでは大きく違うんだから。
 最悪令呪を使ってでも聞き出すわよ」

「ふむ、残念ながらその心配はない」

「残念ってなによ。やっぱりそれも話せないわけ?」

「いや、そういう事ではない。なぜなら私には宝具というもの自体を所有していないからだ」

宝具を・・・・持っていない・・・・?

「そう」

脱力するように、頭を下げる。
息を搾り取るように吐いて、胸一杯になるまで吸い直す。

「り・・・凛?」

アーチャーの声が、ああ、これは怯えた声だろうか。
いつもより情けない、動揺を見せた声だ。
だがそんなことは関係ない。
よりにもよってこいつは、

「記憶が混乱して、自分の真名が分からなくて。
 ランサーと戦っているときに、いきなり思い出したとか言って。
 今度は自分の真名を明かせない、そして事情も話せないときて」

顔を上げる。
アーチャーの引きつっている顔が、よく見える。

「い、いや、待て、と・・・凛」

「あまつさえ宝具が無い、って言うわけね、アーチャーは」

わたしは極上の笑みを浮かべて、彼を睨みつける。
ガタ、と後ろから音がたつ。
わたしが立った事で、押しやられて椅子が倒れたのだ。

「凛、まずはおちついて、だな」

すう、と再び大きく息を吸う。
それは前準備だ。
むろん、大きく吐き出す為の。












「だれがそんなこと信じられるってのよ、この馬鹿!!」



「くっ、いや凛、待ってくれ!」

「ああもう、ぶち切れた! いいわ、令呪を使って洗いざらい吐いてもらおうじゃないの!!」

「だから、待てと言っているんだ!
 私には剣、鎧のような武装の宝具を所有していないだけで、ちゃんと該当するものは持っている!」

「・・・・・本当でしょうね。
 ちなみにこれ以上ふざけた事言ったら、今度こそ令呪でブッチギルわよ?」

「落ち着いてくれ、凛」

冷や汗をかいて、わたしを落ち着かせるように座らせるアーチャー。

「先程も言ったように、私には武器、盾、鎧のような宝具は持ち合わせていない」

「あの黒と白の短剣はなんなのよ?」

「あれは確かに強力な概念をもった武器ではあるが、宝具の域まで達していない。
 私の宝具はそういったものではないのだ」

「もったいぶらないで早く教えなさい。
 はぐらかそうとしてるんだったら、今すぐにでも・・・」

「いや、今話すから落ち着いてくれ。
 私の宝具は――」

今までの怯えた表情を消し、真面目な顔をアーチャーは作る。
さんざんわたしを怒らせた、その男の口からでたものは、









「固有結界だ」









なんて、フザケタ代物だった。






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