その者の辿る道は、まさしく剣であった。
全てを剣に賭け、自らの信念に従い国を治めた。
女性であることを捨て、人としての感情を捨て、人間を捨てた。
王となった後も、村を捨て、人を捨て、様々なものを切り捨てた。
そして呟かれる。
『王は人の心がわからない』
当然だ、彼女は王となり、心など余計な物は捨てたのだから。
王とはいっても、自らの為にその力を酷使した事はない。
彼女は"王"と言う歯車。
自分でさえ、国を栄える為の駒にしか考えていなかった。
だから、笑った事もない。
彼女は剣を携え、ただ遠くに視線を送る。
その先には荒野しかなく、空に見える青空さえ寂しく見えた。
一人。
誰もいない丘。
それなのに――――
それなのに何故、心はこうも暖かい気持ちでいっぱいなのだろうか。
――――――――<状況整理しよう>――――――――
-2/3-
天井が見える。
「む」
意味もなく、唸る。
鳥のさえずる声が響き、日の光が今朝である事を教えてくれる。
「・・・む」
また、意味もなく唸る。
なんと言うか、色々ぼやけている。
自分がいつ寝たのかとか、昨日何をしていたのだとか・・・さっぱり思い出せない。
「寝起きはいい方だと思ってたんだけどな」
どうやら寝ぼけているようだ。
確か今日は日曜日だが、だからといってずっと寝こけているわけにもいかない。
洗面所に行って、顔でも洗って目を冷ますとしよう。
腹筋に力をいれ、体を起こす。
すると激しい痛みが背中に走った。
「っ・・・つぅ」
思わず、口から声が漏れる。
背中を触って見ると、特に怪我らしい怪我はなさそうなのだが・・・
なにか激しい筋肉痛のような痛みが、背中を中心に体全体に広がっている。
むう。
俺はいったい寝る前に何をしたのだろうか。
「シロウ!」
部屋の入り口から、鈴鳴りの様な女性の声がした。
硬直、する。
太陽の日差しを受け、輝きを増した金色の髪。
朝日さえ霞むような、心の底からの笑顔。
「シロウ、目が覚めたのですね。よかった」
少女は俺の目の前に座ると、そう言って安堵のため息をつく。
華のような笑顔、とは先人もよく言ったものだ。
「? シロウ、まだ体の調子が悪いのですか」
「あ、いや。なんでもないよ。・・・セイバー」
彼女の顔をまともに見れない。
赤くなった顔を隠すため、横を向いて深呼吸をする。
くそ、なんだって着替えているんだ、彼女は。
昨日は鎧を身にまとい、あれ程の戦闘をこなしていたため、現実感ってものがなかった。
だが、鎧を脱いで洋服を着ているためか、こうやって目の前にいられると普通の少女に・・・
いや、まさに人知の外と言っても過言ではない、美少女だという事を再確認できてしまう。
あの巨人を目の前にした時も恐怖で硬直したものだが、彼女は別の意味で・・・
・・・巨人?
―――眩しい程の月明かりの下、恐怖の塊が体をなして佇んでいる光景を、思い出した。
「セイバー! 怪我はないのか!?」
自分の声の大きさが頭に響き、使われた筋肉が悲鳴を上げたが、気にしている場合ではない。
俺が見た最後の光景。
あの巨人との"戦争"で、生み出された岩の雨。
あれを身に受けようものなら、彼女がいかに人外の英霊とはいえ、怪我どころの話しではない。
「はい、私には怪我といえるようなものはありませんが。それよりシロウの」
「そうか、よかった」
知らず、安堵の為か深いため息が出る。
セイバーのような女の子に、怪我をさせるなんてもってのほかだ。
「・・・・・・」
む、なにか空気に重苦しいものが混じる。
顔を上げて見ると、セイバーが押し黙って正座しているだけ。
先程と違う所は、笑顔が真顔になったといことだけだが・・・
「えっと、セイバー。怒ってるか?」
「ええ、マスター。私は非常に貴方に対して憤りを感じています」
まさに怒りを押し込めた声で、セイバーが言う。
「貴方がしたことは、確かに評価されるべき事柄かもしれません。
しかし自分の身が守れぬ者に、他人の心配をする資格はありません。
ただでさえシロウの傷は、下手をすれば死に関わるほどの傷だったのです。
まずは自分の身を案じることを覚えてください」
セイバーが張りのある声で説教を始める。
いや、彼女の言う事はいちいちごもっともだ。
正義の味方を理想とする俺が、人を守れたとしてもそのまま倒れてしまっては元も子もない。
それに俺はこの聖杯戦争で勝ちぬくと決めたのだ。
こんな所で落ちるわけにはいかないし、こんな事では彼女に申し分も立たない。
「すまなかった、セイバー」
「私に謝る事はありません。
今回は私がいた為に助かりましたが、常に同じような幸運があるとは限りません。
もう少しシロウは自重を覚えてください」
「ってことは、セイバーが直してくれたのか」
背中に触れてみる。
痛みこそあるものの、あれだけ深く刺さっていた筈なのに傷一つない。
「ええと・・・厳密には違うのですが、まあそのようなものと思ってください。
ですがシロウ、これで私の魔力を消費するのはあたりまえの事ですし、なにより毎回治るとも限りません。
私の能力がある、と過信しすぎる事なきようお願いします」
何故か一瞬言いよどんでから、セイバーははっきりとした口調で俺を諌めた。
確かに、なんのペナルティもなしに傷が治るなど、うまい話しはないだろう。
「わかってる。今度は自分も守れるよう、努力するよ」
「・・・シロウには人よりまず、自分の事を考える必要があるのですが。
今回はそれで許してあげましょう」
そういって、再びやわらかい笑みを浮かべるセイバー。
「――っ!」
思わず目をそむける。
全く、情けない事この上ない。
セイバーが綺麗な洋服なんて着てるから、どうにも意識してしまう。
っと、そういえば。
「セイバー、その服どうしたんだ?」
確かにあの鎧姿でうろつきまわるのは色々と問題がある。
だからといって服が魔法のように現れる、なんてことはないだろう。
「ああ、此方は凛にお借りしました」
「む、遠坂か」
正直助かる。
だけど遠坂がこんな服を持っているというのが、正直想像出来ない話しではあるが。
・・・・・・って。
「セイバー! 遠坂はどうしたんだ!?」
セイバーの無事な姿を見れて安心したせいか、所々気が緩んでいた。
最後に自分は彼女を守れたつもりであったが、その後の事はなんにもわかっていないのだ。
「凛ですか。彼女なら――」
「ここにいるわよ。おかげ様で傷一つなくね」
そういって、開いたふすまの向こうから、遠坂が姿を現した。
「元気みたいね、まあ傷は治ってるんだしあたりまえか。ああ、セイバー隣いい?」
遠坂は笑顔ひとつ浮かべることなくそう言うと、セイバーの隣に座りこんだ。
「えっと、遠坂。怪我ないのか」
「ええ、さっきも言ったけど貴方のおかげで傷一つないわ」
内容の割には、遠坂の声はどちらかと言うと怒っているようにも聞こえる。
・・・遠坂といいセイバーといい。
今日はひたすら説教をされる日なのだろうか。
「衛宮くん、貴方調子は悪くないの?」
「む、とりあえずは大丈夫だとおもう。
筋肉痛みたいな痛みはあるし、多少吐き気もあるけど・・・
少なくとも病院に行く必要はないと思う」
「そう」
と、今度はふてくされたように、目をそらす。
「どうしたんだ、遠坂。やっぱりお前も怪我したんじゃないのか?」
「してないわよ・・・ちょっとセイバー、席はずしてくれないかな」
セイバーは小さく頷くと、あとでお水をお持ちします、とふすまの向こうへ消えて行った。
「さて」
遠坂が息をついて、此方を見る。
やはり厳しい表情で、その目は怒っているようにも見える。
「衛宮くん、貴方はなんであんなことをしたのかしら?」
なんてやっぱり怒っている声で、静かに言ってきた。
「あんなことって・・・」
「わたしを守って、自分を身代わりにした事を言っているのよ」
遠坂の目がさらに厳しくつりあがる。
どうやら本気で怒っているようだ。
「余計だったか、遠坂」
「・・・そういうわけでもないけど。いえ、そうね、正直助かったわ。
考えて見ればお礼も言ってなかったわ。ありがとう」
今度は目をそらし、不貞腐れたように言ってきた。
「いや、別にいいけどさ。
でもなんで怒ってるんだ?
確かに自分も守れ切れなかったのは反省してるけど、遠坂が怒ることじゃないだろ」
「――はぁ。
わたしはそんなことを怒っているんじゃないの。
いい、衛宮くん。わたしと貴方は今、何に参加してどんな立場にいるの?」
呆れた声をだして、聞かれる。
そんなの確かめるまでもないじゃないか。
「聖杯戦争に参加して、お互いマスターなんだろ?」
「そう、そしてわたし達はあの場で一時的に協力していたけど、それが終われば敵対関係よ。
それなのに何故、味方どころか敵のわたしを助けるのかしら」
何故って。
「あの時は協力関係だったんだろ?
だったら別に遠坂を助けてもおかしくないじゃないか」
「わかった、言い方を変えるわ。
何故命を賭けてまで、敵になる筈のわたしを助けたのかしら」
何故って、それは。
「命を賭けるなんて、それ相応の覚悟と、相手との関係が必要な筈よ。
貴方にはそのどちらもなかったわけだし、なによりね、普通はまず保身に入るのよ。
自分の命と、ただ少し話した程度の他人。
しかも敵対関係になる相手とを天秤にかけて、自分を捨てるなんて異常者の取る行動よ」
空気が重い。
遠坂は本当に怒ってる。
確かに遠坂の言っている事は正しい。
でも俺は、彼女が傷つくのを見るのは嫌だった。
それに自分を省みる暇なんて、ないも同然だった。
「・・・別に、あの時は恐怖が麻痺してただけだ。
とっさの事だったし、もうあんなことは二度と出来ない」
嘘をつく。
遠坂は本気で怒っているが、それと同時に俺を心配してくれてる。
そんな感情を向けてくれる遠坂に嘘をつくのは忍びないが、俺はこんな自分を直すことなんてできない。
「・・・まあいいわ。正直、助けてもらった分際で強くも言えないし」
強くもなかったが優しくもなかったぞ、遠坂。
「どっちにしろ、わたしを助ける必要は貴方にはないのよ。
そこを理解しないと、またすぐに死の淵を彷徨うわよ」
「おう、できるだけ気をつける」
「・・・わかってなさそうね」
はぁ、と昨日から何度めかのため息。
俺は相当呆れられているんだろうなあ。
「シロウ、水をお持ちしました」
セイバーが持ってきた水を、礼を言って受け取る。
そういえば今さらだが、遠坂のサーヴァントであるあの赤い騎士がいない。
セイバーも遠坂もこんな調子だし、あいつだけ怪我とかいうことは無いと思うんだが。
・・・だいたいあの巨人からどうやって生き残ったというのか。
「あのさ、結局どうなったんだ、俺が倒れた後」
セイバーと遠坂はそれを聞くと、二人で目を合わせて同時にため息をついた。
「? なんか俺変な事言ったか?」
「いえ、別にそういうわけではないのですが・・・」
セイバーが困った顔で答える。
遠坂も遠坂で、返答に困っているかのように見える。
「・・・何があったんだ、いったい?」
「はあ、そうね。実際に会って見た方が、話しが早いかな」
会うって、誰にさ。
「よかった。傷は治ったんだね、お兄ちゃん!」
なんて嬉しげに腕に抱きついてくる、銀の髪をした少女が、居間にいた。
「二度目になるけど自己紹介するね。
わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
バーサーカーのマスターだよ」
笑顔で、はっきりとした発音で自己紹介するイリヤスフィール。
「えっと、俺は衛宮士郎だ。
一応セイバーのマスターってことになってる」
そういってセイバーを見やると、なんとも複雑な表情をしている。
・・・まあ俺もそう余裕のあるわけじゃあないけど。
「・・・・・・」
遠坂といえば、ただ押し黙っているだけで口を開こうとしない。
「遠坂、自己紹介しないのか?」
「・・・あのねえ」
「平気よお兄ちゃん。リンもわたしも、自己紹介くらいの事だったら、お互いわかっているんだから」
どこか楽しそうに言う少女。
「知り合いなのか? その、遠坂とイリヤスフィールは」
「イリヤって呼んで頂戴、シロウ」
むー、とほほを膨らませる少女。
ころころと表情が変わるものだ。
「知ってるってわけでもないけどね。まあ知らないってわけでもないけど」
「? さっぱりわからないぞ、遠坂」
「つまりは会った事はないけど、お互いの家の事は知ってるってことよ」
「遠坂とアインツベルンは、聖杯戦争のシステムをつくった三家の内の二つだからね。
お互いの情報くらい知ってて当然なのよ」
遠坂に続くように、イリヤが言う。
そうか、聖杯戦争を作った人間が、それに参加しないなんてことはないか。
「まあ自己紹介が終わったところで、一体なんだってイリヤがここにいるんだ?」
「む、なによ。わたしが此処にいちゃいけないって言うの、シロウは」
「いや、そういう意味じゃなくてだな、正直さっぱり経緯がわからないんだ。」
「なんだ、セイバーとリンはまだ話してないんだ」
それなら、と語り始めるイリヤ。
かいつまんで言うと、俺が倒れた後、イリヤにアーチャーが賭けを持ち出したらしい。
アイツとバーサーカーとの一騎打ち、という条件でだ。
結果的には、辛くも勝利を収めたアーチャー。
そして勝利したアーチャーの言った事と言うのが―――
「『一時的に敵対関係を止め、我々にしばらくついて来い』?」
と、言うことだったらしい。
「なんか微妙だな」
味方になれ、でも協力しろ、でもない。
一時的、というからにはいつ敵になってもおかしくはないし。
しばらく、というからには聖杯戦争が終わるまで、という意味でもないだろう。
なんだってアーチャーは、こんな条件をだしたんだ?
「で、イリヤはその条件を飲んだのか」
「そうよ、じゃないとわたしが此処にいる筈がないじゃない」
なんて気楽に言ってお茶を飲むイリヤ。
正直今こうして話しているのが、不思議でしょうがない。
あの時相対した時は、こうして話せるなんて思いもよらなかったわけだし。
「遠坂、なんでアーチャーはそんな条件を出したんだ?」
「・・・知らないわよ。あいつが勝手にしただけで、わたしは何にも言ってないわ」
「アーチャーに聞いてないのか?」
「ええ、朝までだれかさんの看病を、セイバーと付っきりでしてましたからね」
と、当てつけるかのようにすばらしい笑顔で言ってくる遠坂。
「む、すまなかった。それとありがとうな、遠坂。セイバーも」
「――っ。別に、大したことはしてないわよ」
「はい、私はサーヴァントとして当然の事をしたまでですから」
そっぽを向く遠坂に、優しい笑顔でセイバー。
うん、セイバーはお姉さんみたいで優しいな。
ちなみに藤ねえに似ている、というわけではない。
あれは姉なんて規格にはいないから、除外だ。
「それで、アーチャーはどこにいるんだ?」
「屋根の上。ここの結界は侵入者の警告だけみたいだから、上で監視させてるわ。
そうね、本人に直接聞こうじゃないの」
遠坂がアーチャーを呼ぶ。
すると数秒待つ事もなく、庭にアーチャーが現れた。
「・・・なにしてるのよ、アーチャー」
「まあ少々待て」
と、アーチャーは縁側に腰掛け、ブーツを脱ぎながら答える。
「あんた今まで霊体化してたんでしょう? 汚れなんてないんだからそのまま入ってきなさいよ」
「それは違うぞ、凛。靴を脱いで家に上がるのは、礼儀の問題であろう」
「それはそうだけど・・・」
そう言いながらアーチャーは、いまだブーツを脱ぐ作業に没頭している。
脱ぎにくそうだな、あの靴。
「よし、それで凛。私を呼んだ理由はなにかね?」
聞くまでもないだろう、と睨む遠坂。
まあ確かに、色々と疑問に思うところではあるが。
「ふむ、昨日の事かね」
アーチャーは腕を組み、どうしたものかとため息をつく。
「では凛、君ならば何が最善だったのかね?」
逆に聞き返され、戸惑う遠坂。
「・・・そうね、バーサーカーがなんなのかは分からなかったけど、まともに戦って勝てるとも思わなかったわ。
士郎もあんな調子だったし、なんとかして逃げるってとこかしらね」
「ふむ、ふむ。懸命な凛らしい判断だ」
満足そうに、笑顔を浮かべて頷くアーチャー。
自分のお気に入りの生徒が、100点を取って喜んでいる教師にも見えなくもない。
「だが凛。君の言う事ももっともだが、イリヤスフィールが」
「イリヤって呼んで頂戴」
「――イリヤがむざむざ我々を逃がすと思うのかね。ただでさえ、怪我人という荷物がいた我々を」
少女の割り込みに、彼は冷静に続ける。
「待ちなさい、そもそも帰ろうとするイリヤスフィールを、引き止めたのはアンタじゃない」
アーチャーをそう言って睨む遠坂。
俺の時とはまた違った、敵意さえ持つような怒り方である。
しかし遠坂にはとりあわずに、アーチャーはイリヤに視線を向ける。
「イリヤ、君はあの時帰ったとして、次にどうするのかね?
夜が開ければ、そのまま我々を狙ってきたのか」
「そうね。わざわざ帰った後、またシロウ達を殺しに行くなんてなんかマヌケだし。
別のサーヴァントの所にいったかな。それでシロウ達は最後にすると思うわ」
「それで、もしそれが学校であったり、人目につく可能性がある場所だったとしてだ。
君はそれでどうするのかね。その場は去って、あきらめるのかね」
「ん〜。そもそも夜は人目に付かないんでしょ?
だったら問題ないとおもうけど、見つかったらそうね、殺さないといけないんでしょ。
魔術は隠匿しないといけないから、一般人に見られたら消すのがあたりまえってお爺さまに聞いたわ」
次々と、話しが進んでいく。
というか二人とも、随分と気があっているようだが。
気楽な口調に反して、内容はかなり危険なものなのも気になる。
「聞いたか、凛。つまりは彼女を放って置けば、それだけ被害が増える可能性があるということだ。
君とて一般人に危害が及ぶのは、望むところではないのだろう。
私なりに、今後の事も踏まえた上で、最善を選んだつもりなのだがな」
「・・・じゃあ『一時的に敵対行為を止め』ってのはどうなのよ。
味方になれ、でも令呪を破棄しろ、でもなくて。
そんなんじゃいつ敵になってもかまわない、って言っているようなものじゃない」
「では君の言う通りに言ったとしてだ。
君ならばその通りにするのかね、追い詰められたわけでもなく、まだサーヴァントが健在であるというのに」
確かにその通りだ。
俺だとしても、味方になれというのならまだしも、令呪を破棄しろ、なんて言われてもできるものではない。
セイバーの信頼を裏切ることになるし、たかが賭けの内容にしては条件がきつすぎる。
「つまりはイリヤが条件を飲み、我々にとっても有益なものという条件で、ギリギリのものを出したのだ。
これ以下では意味はないし、これ以上なら契約は組めなかっただろう」
これで終わりだ、と言わんばかりに口を閉じるアーチャー。
遠坂と言えば理解はできたものの、納得はできないといまだアイツを睨んでる。
「もういいじゃないか、アーチャーの言うことは正しいし。
俺もできるなら殺し合いなんてしたくない。
皆生きてるんだから問題なんてないだろ?」
「死にかけたアンタに言われちゃあね・・・」
俺の言葉に頭を抑えて、唸るように言ってくる。
少しすると真顔に戻って、いきなり席を立った。
「ん、遠坂どうしたんだ?」
「帰るわ、もうここには用はないし。
それにね、衛宮くん。もう少しマスターとしての自覚を持ったほうがいいわよ。
戦いたくないとか、甘い事言ってると長く生きれないからね」
「む、そうだな。わかった、最後までありがとうな、遠坂」
「・・・・・・・」
遠坂の目が、またもやつり上がる、
なんだか今日は怒らせてばかりだな、俺。
「衛宮くん、なんでそこで礼がでるのかしら」
「だって遠坂には助けられっぱなしじゃないか。
聖杯戦争について教えてもらったり、看病してもらったり」
「だからそういう余計なことは考えないようにしなさい。
わたしと貴方は敵同士だし、本来殺し会う立場にあるのよ?
だいたいわたしは貴方に借りがあるんだし、そんなのチャラどころか、お釣りがくるじゃない」
「だから俺は遠坂と戦う気なんてこれっぽっちもないぞ。
それに借りってなんだ。俺は遠坂になんか貸した覚えなんてないぞ」
「何言ってるのよ、命を助けてもらったでしょうが、わたしは」
む、それは破片から遠坂を守った事をいっているのだろうか。
「それこそどうだっていいじゃないか。
遠坂が言うように気にする事はないし、俺が勝手にやった事なんだから気に病む事もないぞ」
「・・・全く。なんだってのよ、アンタは。ちょっとセイバーからも言ってくれない?」
心底呆れたように、遠坂がセイバーにふる。
確かに甘いかもしれないが、俺は間違った事は言ってないぞ。
「はあ、そうですね。では私から一つ提案があるのですが」
セイバーはあくまで穏やかに答える。
「シロウと凛で、共同戦線を結んではいかかでしょうか」
遠坂が面白いくらいに口を開け、唖然としてセイバーを見る。
・・・どうでもいいけど、なんだかもう疲れた。
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