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教会をでて、坂道を降りてすぐの分かれ道。
わたしは衛宮士郎とセイバーとは別に、新都で他のサーヴァントを探しに行こうとした。

少し話しただけだが・・・彼とう人間のつかみ所がどうにもわからない。
魔術師であるというのに、まあへっぽこではあるが。
とにかく彼は、セイバーをサーヴァントに関わらず人間の女性扱いし、敵であるわたしに――
その・・・「好き」とか言い出したのだ。
彼は別に恋愛感情持ち出して言ったわけではないのだろうが。
「いい奴なんだな」だの「敵同士にはなりたくない」だのと・・・
唐突に前触れもなく言い出してくる。

わたし達聖杯戦争に参加する魔術師にとって、令呪を持つマスターは殺すべき対象でしかない。
だというのに、こいつは・・・まったく。
これ以上関わっていると、わたしも正常な判断を失いそうだ。
そうそうに去って、他のサーヴァントを探しに行こう。

―――とした矢先に。






「―――ねえ、お話は終わり?」






小さく可愛らしい声が、恐怖を連れて夜の闇に響いた。























――――――――<分岐>――――――――





























イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
彼女はそう名乗った。
見た事もない、始めて会った少女。
だがわたしはその名に覚えがあった。
アインツベルン。
聖杯の作り手にして、聖杯戦争のシステムを作成した、三家の内のひとつ。
だが今はそんな事はどうでもいい。
目の前にある、圧倒的な死を目の前にして、余分な事を考える余裕はなかった。

バーサーカー。

鉄の塊にも似た、巨人。
肥大した筋肉で固められたその体は、異常なほどの均整がとられていて不快感などはなく、逆に美さえ感じられる。
その巨体が、少女の一言によって、跳んだ。

「シロウ、リン、下がってください」

がしゃり、と鋼の音が鳴った。
セイバーが武装化し、巨人の着地点へと疾走する。
少女は、あの細身で化け物と切り結ぼうというのか。

「っ、アーチャー! 援護を!」

空を切る弾丸が三つ、巨人へと向かう。
わたしが言うまでもなく、アーチャーはすでに弓を構え、街灯の上へと陣取っていた。
彼が放ったのは矢だ。
だがそれは人の身を超えた者から放たれた、脅威の一撃。
あの矢は直撃さえすれば、岩盤ですら抉る事は間違いない。
その必殺の矢は、空にいる巨人には避ける術なく、顔面へと直撃する。

咆哮。

巨人が勢いと共に、セイバーの見えない剣に切りかかる。
いや、あれが狙うのは剣でなくセイバー自身。
そして切りかかる技術などなく、あれができるのはただ叩きつぶすのみ。
そう、巨人はアーチャーの攻撃を直撃してなお、傷一つなかったのだ。
セイバーが巨人の剣を打ち払う。
爆音、剣と剣がぶつかり合う音は、本来はありえない音を作り出す。
一撃、爆音、ニ連撃、爆音、三連撃・・・・
あの巨人は本当に規格外だ。
自身と並ぼう程の剣を振り回す腕力といい、その巨体を軽々と動かせる敏捷性といい。
単純な能力では、ここにいる誰よりも勝っている。
だが―――

「っは!」

爆音。
セイバーの剣が、振るわれる猛威の全てを弾き返す。
あれだけの攻撃を受け続けながら、彼女は全く怯むことなく交錯を繰り返す。
自分よりも能力で勝っている相手に、互角に切り結ぶ。
彼女がどれだけの魔力量をもって剣を振るっているのか、もはや理解の外だ。

アーチャーの弾丸じみたあの"矢"は、今だ続けられているものの効果を一切上げていない。

「いいよ、うるさいのは無視しなさい。
 どうせアーチャーの攻撃じゃ、アナタの宝具を超えられないんだから」

そう、つまりアレはただ頑丈だから効かないのではない。
なんらかの魔術、いや、バーサーカーに魔術など使えないのだから、呪いといったところか。
法則性に守られた、自動性を持つ不死。
ただ在るだけで危険な巨人は、さらに脅威の能力を持った無敵の化け物であるわけだ。

「冗談・・!」

法則性がある以上、それは崩すことができる。
宝石を使い、アーチャーの弓に魔術を乗せる。
そうすれば不死身の化け物が相手であろうが、少なくとも腕の一本くらいは!

「アーチャー!」

彼に呼びかける。
タイミングを合わせないと、飛翔している物に魔術を乗せることは難しい。
彼が片目で合図をし、返事をした。
その返事はわたしが予期したものではなく、

(必要ない)

そう、語っていた。



アーチャーから何本もの弾丸が放たれる。
それは巨人に当たりさえすれど、傷一つ付けること無く弾かれる。

ならば今までなぜ放ち続けていたのか。

自棄になっているわけではない。彼は何かを狙う鷹の目で、幾条もの矢を打ち出しているのだから。
ダムを破壊する小さな傷を作るように、同じ場所を何度も狙っているようでもない。
放たれる弾丸の行く先を見やる。
手、手、足、顔面、手、剣、足、手・・・
何度も繰り返し当たる矢は、巨人に当たりつつも空しく弾かれ、全く効果を上げない。
いや、多少の邪魔にはなっているのか、当たるたびに少しの反動はあるようだが。
戦況は全く変わらない、たとえ二対一であろうとも、アーチャーの攻撃は全く―――

いや、待て。
なぜ戦況が変わらないのか。
セイバーとバーサーカーでは、基本的なスペックからして違う。
あの狂戦士から振るわれる一撃は、抗いようもない脅威だ。
たとえセイバーが何者であろうと、今の彼女を見る限り、その攻撃を受け続けるには足りない筈だ。

アーチャーの弓が矢を放ち、絶えず巨人へと繰り出されていく。
その度に巨人は動きに多少のぶれを見せる。

つまりはこうだ。
今この場で何より、その少しの邪魔が、セイバーへの最大の支援となっている。

それはどんな神技か。
バーサーカーの動きを予測し、セイバーの動きを把握し、激しく動く戦況に一瞬の隙を作る。
確かにバーサーカーにとっては痛みもない、意味のない一撃。
だがそれが今、何より戦況を不動にさせていた。

狂戦士が吼える。
動かぬ戦況に怒りを感じたのか、強引に間合いを詰めて、剣を振るう。
さすがにアーチャーの一撃でも弱める事はできなかったのか、セイバーはそれを受けきれず大きく後ろへ飛ばされる。
離れる間合い。
さらなる追撃をするつもりか、巨人は離れたセイバーへと駆ける。
そして踏み出した足が、

陥没した地面に、取られた。

一瞬だが、確かに見た。
弾かれ、無為に散らばっていたアーチャーの矢が、小規模ながらも爆発を起こしたのだ。
そして作られた小さな穴。
それが巨人の踏み込む先にあった。
バランスが崩れ、作られた大きな隙。
そして吹き飛ばされたはずのセイバーが、流星の如く巨人へと疾走した。
飛ばされたのもワザとだったのか、彼女の動きに鈍いところなどはない。
完璧なタイミング。
一撃であの巨人を倒せるとも思えないが、彼女ならばかなりの痛手を負わせられる筈だ。
例えあの状態で、バーサーカーが苦し紛れに彼女へ剣を振るおうが、それこそ大きな隙を見せるだけになる。
この勝負、もらった!

「■■■■■■―――!!」

巨人が咆哮する。
苦し紛れに剣を振り上げ、叩き落とす。
その先には、対象であるセイバーはいない。
だいたい、まだ彼女の刃が届く距離でもない。
ならば何を狙って剣を振るうのか・・・

「なっ!?」

セイバーが驚愕の声を上げる。
それもその筈だ、向かう先が爆発しているのだから。

剣は、コンクリートで固められた地面へと落とされたのだ。
コンクリートの欠片、いや、欠片といってもセイバーとそう大きさの変わらないサイズもあるのだが。
それが幾つも礫となって、無作為に飛び跳ねる。
さすがにその中に突っ込むわけにもいかないのか、セイバーはその場に止まって岩石を弾く。
むろんのことアーチャーも、この中で矢を放とうが意味が無いのだろう、こちらを向いて何かを―――

「凛、避けろ!」

アーチャーの切羽詰った声が、爆音の中で何故か届いた。
ふと、上を見上げる。
頭くらいの大きさをもった欠片が、物凄い速度でわたしに迫っていた。
狙いはわたしの心臓か。
すでに距離は5メートルもなく、避ける事も、魔術で防ぐ時間すらもない。
死んだ。
あれを食らってはわたしに命はない。
そうどこか冷静に考えているうちに。
ドス、という意外と小さな音と。
肉を貫き、骨に突き刺さる嫌な感触が、どこか人事の様に伝わってきた。













しまった。
バーサーカーとの戦いに集中し過ぎて、飛び跳ねる欠片全てを把握しきれなかった。
街灯から降りて、凛達のもとへ行く。
セイバーは既に、彼女等の所まで既にたどり着いている。
そこでは、

「シロウ!」
「ちょ、衛宮くん!?」

欠片を背に刺し、血を流して倒れている男がいた。
あの傷では意識が残っている方が奇跡なのだろうが、彼は顔上げ、あろうことか何事か凛に呟いた。

「あ、うん・・・大丈夫だけど・・・って、ちょっと、衛宮くん!」

何ということか、ここにきて彼女の心配をしていたらしい。
その一言で力尽きたらしく、彼は彼女にのしかかったまま意識を失った。

ぞっとする。

死の淵にいるというのに、自らを省みず、他人を気遣う壊れた精神。
これが俺の異常性。
彼女が恐れた"自己の無い"俺。
自分では当たり前と思っていたが、いざ第三者の目で見ると恐ろしいものがある。
俺も彼女がいなければ、"アイツ"と同じ道を歩む事になっていたのだろう。


「―――なにそれ」


少女の唖然とした声が響く。
振り向けば、主の命を待つ巨人と、こちらの隙を攻めることなく、ただ立ち尽くす少女。
余りに呆気なく倒れた男に興味を無くしたのか、ため息をついて殺気を霧散させる。

「・・・つまらない。帰ろう、バーサーカー」

気の抜けた声で、少女が巨人を呼び下げる。

傷を負い、倒れる衛宮士郎。
巨人を連れ、去ってゆくイリヤスフィール。

このままこの場で別れれば、再会は彼女の死に目になってしまう。
助ける所か、なにもできなかったあの時の様に。

―――正義の味方で在ろうとして、そしてそれを貫いてきた。
自分の道が間違っていようが、それだけは信じていこうと決めた。
そんな俺が遠坂と共にいて、正しい道を選べた。
なのに。
結局駄目なのか。
彼女をまた目の前で助けられず、死なせてしまうのか。
知ってしまったあの"事実"を身に持ちながら。

・・・そんなことは、


「待て」


少女が立ち止まる。
余程彼の行動が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せて坂の上からこちらを見下げる。

「何かしら、わたしは今機嫌が悪いの。邪魔するなら殺すわよ」

憎悪にも似た、それだけで相手を呪い殺せるかの様な視線を浮かべて、刺すように此方を見る。
彼女を止めなければならない。
ここでそれができなければ、もう手立ては無いかもしれない。
そう、そんなことは、認められない。

「賭けをしないか、イリヤスフィール」

決意を込め、口を開く。

決めたんだ。
絶対に君達を助けると。






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