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「うそ―――」

「だから言っただろう。何事にも例外は存在すると」

わたしの唖然とした呟きに、アーチャーの冷静な声が重なる。

「ってことはやっぱり」

「ああ、サーヴァントの気配が一つ。
 先程去って行った影はランサーだろうから、ここには別のサーヴァントがいるという訳だな」

正直、未だ状況が飲み込めない。
だがしかし、目の前で起こっている事が真実である。
つまりは―――

「これで七人、数が揃ったというわけだ」

軽い、空を切る音がする。
それは塀を乗り越えると、目の前の道路へと着地した。
曇り空の為に、姿の細部はわからない。
だが、それがただの人、いや“人”ですらない圧倒的な何かであることは確かだった。

赤い影がわたしを護るべく立ち塞がる。
わたしと言えば、ただ立ち尽くし、相手が近づいてくるのを見ているだけである。

・・・・・・なぜこの体は動けないのか。
ランサーをも退け、今もなお圧倒的な気配を放つ相手に恐怖しているのか?
いや、決してそれだけではない。

金属の擦れ、触れ合う音。
無骨でしかないはずの金属の鎧を鐘が如く厳かに鳴らし、その姿を月光の下へ晒した。

「お初にお目にかかる。サーヴァント・セイバー、我がマスターの召還に応じ、参上した」

鈴のように流麗な少女の声が、激しく吹き荒れる風を切り払うかの様に響く。

「問おう―――その身はいかなるサーヴァントか?」

わたしが求めた、最強のカード。
剣の英霊にして、聖杯戦争の勝利を運ぶ鍵。
なぜわたしは動けなかったのか?
そう、それに恐怖なんて無粋な理由をつけるわけにはいかない。

ただ・・・・・・そう、ただあんまりにも可愛らしくて、綺麗で。
その姿にどうしようもなく見惚れていただけだったのだ。























――――――――<初回にして再開>――――――――





























「凛、下がっていろ」

アーチャーの腕が、わたしを押す。
それで目が覚めた。
呆けている場合ではなかった。
今、目の前にいるのは敵のサーヴァント。
ランサーの時のように、ただ棒立ちする訳にもいかない。

アーチャーがわたしから離れ、一歩前へと出る。

「我が身はサーヴァント・アーチャー。マスター『遠坂 凛』の召還に応じ、参上した」

もう一歩、足が進む。
いつの間にかアーチャーの手には、二つの短剣、黒と白の双剣が握られていた。

「セイバー、一手お手合わせ願おう」

「―――」

セイバーが構える。
それは了承の合図。

アーチャーの体が深く沈みこみ、少女へと向かって爆ぜるが如く跳んだ。






彼女はその手に何も持っていない用に見える。しかし、違う。
確かに『何か』を持っている。
風が渦巻き、魔力を宿らせた何か。
いや、彼女がセイバーならばアレは剣なのだろう。
その証拠と言うように、アーチャーが跳びこみ振るった双剣を、その見えない剣が迎え撃った。

彼女が何者かはわからない。
だがアーチャーの剣技を見た後のわたしには、それを女性である彼女に捌けるもとのは到底思えない。
実際ランサーと戦っていたときの彼の一撃一撃には、相当な重みと破壊力があったように見えた。
詳しくは判らないが、剣に魔力を込め、目標に当たると同時に起爆させていたのではないかと推察している。
いわば魔力を推進力にした弾丸のようなものだ。
例えセイバーとはいえ、女性である彼女に耐えうるものではない。

ドンッ!

鋼の触れ合う音とは思えないほどの爆発音が、地面を揺らす。
たった一合で、剣は吹き飛んで夜の闇に消えていった。

アーチャーの剣が、である。

桁が違う。
彼女の剣戟のそれは、アーチャーに似て否なるものだった。
剣に魔力を込め、爆発させる。
その魔力量が半端ではない。
アーチャーの一撃など比ではない、もはや剣戟などという軽いものですらない。

あれは、大砲だ。

剣が無くなった右手を隠すように、アーチャーが体をさげる。
彼女の剣が、脇を薙ぎ払うべく振るわれる。
手にした短剣をそれに叩きつけ、遅くなった彼女の剣を後退して避ける。
それで残った短剣も吹き飛んだ。
セイバーが深く踏み込み、剣を掬い上げる。
彼は無手。

死ぬ、あれでは死ぬ。
間に合わないとわかりつつも、宝石を取り出す。
わたしの魔術の狙いは甘い。
このまま撃てばアーチャーも巻き込む事になるが、そんなことを悠長に言ってる暇は無い。
死ななければ、チャンスはまだあるはずだ。
宝石を取り出して―――

ぎぃん!

あるはずのない鋼の交錯に、動きを止められる。
いつのまにか彼の右手には剣が握られていた。
先ほどのと全く同じ、白い短剣だ。

彼が左手を振るう。
風を切る音が響き、セイバーが大きく後退する。
アーチャーの左手には、同じくどこかに吹き飛んだはずの黒い短剣が握られていた。

間合いが開く。
セイバーが地に足をつける前に、アーチャーがあろうことか黒い短剣を投擲した。
空中で軌道を変えるわけにもいかず、手にした剣でそれは弾かれる。
だが難なく弾かれた剣の軌道には、すでにアーチャーが駆け抜けている。
空にある黒い短剣を握ると、勢いをそのままにそれを振り下ろす。

不意打ちにも近い一撃を、あろうことかセイバーは体をひねるだけで避けてみせる。
そのひねりを利用し、駒のように回転して剣を振るう。
片手の剣を叩きつけ、それを犠牲に避けるアーチャー。

甘かった、としか言い様が無い。
二人のサーヴァントの戦いは、互いに休み無く続けられる。
これでは今のわたしは手を出すこともできず、邪魔者にしかすぎない。
ほぼ密着状態を続けているのだ、先ほど言ったとおりにわたしの魔術ではアーチャーすら巻き込んでしまう。
アーチャーとランサーとの戦いの時には、あまりの光景に呆けていたが・・・・・・
これではいくら冷静になろうとも、わたしには何もできない。
進まない思考、だがその間にも戦況は変わっていく。

アーチャーの攻撃が、極度に減っていた。
いや、もはや防戦一方と言っても過言ではない。
大地に足をずっしりとつけ、セイバーの剣を弾き、弾き飛ばされ、また同じ剣を手に持ち、弾く。

「くっ」

彼の焦った声が、剣戟の中に紛れ込む。
もはや限界が近いのだろう、あれだけの攻撃を連打で受けているのだ、体が軋み、手は感覚をなくすだろう。
何合目かの交錯を機に、アーチャーが大きく後退する。
そしてそれに追い討ちをかけるように踏み込むセイバー。
一瞬だけ離れた間合いに、アーチャーが苦し紛れに左手の短剣を投げ放つ。
が、それは最初から外れていたのか、彼女にかすることもなく飛んで行った。
セイバーがトドメとばかりに剣を振り下ろす。
アーチャーの雄たけび。
渾身の力を持って、いままで何度も受け切れなかった剣を受ける。

爆発する魔力。

だが今度は彼の剣は弾き飛ばされず、その手の中に残っていた。
アーチャーの口が歪む。
笑みの形に、だ。

セイバーの後ろ、先ほどアーチャーが投げた黒い短剣が、闇にまぎれて弧を描きながら戻ってくる。
戻る先はセイバーの背中。
そして彼女は渾身の一撃を放った直後で、自由に動けはしない。
もし横に避けようが、それは絶対的な隙をアーチャーに見せることになる。
前にはアーチャー、後ろには飛翔する短剣。
この絶対的な包囲に対して彼女は、

「甘い!」

さらに踏み込み、体当たりをした。
壁に叩きつけられるアーチャー。
短剣は目標を失い、むなしく空を切る。
そして尻餅をついたアーチャーに、彼女の見えない剣がつきつけられる。

「・・・・・・」

沈黙が、夜の闇に溶け込む。

「惜しかったな、アーチャー。しかし私を倒すには足りなかった」

再び、鈴のようなセイバーの声が響く。
今度こそ、アーチャーが殺される。
もう黙ってられない。幸い先ほど出した宝石が、まだ手の中にある。
最悪令呪を使ってでもアーチャーを助ける。
体中の回路に魔力を通し、発動寸前までもっていく。
そして息を吸って、

「おひさしぶりです、変わりはないようで安心しました」

「ああ、君も変わらないな、セイバー」

息が止まった。

「―――は?」

「大丈夫ですか?」

「全く、容赦がないな、君は。っ・・・骨にヒビがはいったかもしれん」

「サーヴァントなのですから、泣き言は言わないように。だいたい、あれでも手加減はしましたよ?」

わたしの疑問符を付けた声を無視して、勝手に和気あいあいとする二人。
あまつさえアーチャーをセイバーが助け起こしている。
さらに何故か談笑しつつ、わたしの方へ二人で歩いてくる。
セイバーが、目の前まできた。

「お初にお目に掛かります、遠坂凛。凛とお呼びしても?」

なんて親しげに話しかけて、右手で握手を求めてきた。

「え、あー。うん」

わたしといえば、その右手を掴みつつ、言葉なのかわからない返事をする。
握った手の、というか鎧の冷たさを感じつつ、利き手の握手は騎士にとって特別な意味があったのではないだろーか?
なんてどうでもいいことを考えてしまった。
セイバーの利き手を知っているわけでもないから、無意味なことだ。

「先ほど名乗りましたが、私のクラスはセイバーです。セイバーとお呼びください」

と、月さえ霞むような微笑と共に、セイバーは言った。

「・・・・・・」

アーチャーを見やる。
わたしの視線に気づくと、気まずそうに彼は苦笑した。
なんていうか、わたしの言いたいことを感じ取ったのだろう。
すなわち。

『どういう事よ』

という心からの疑問。

アーチャーが釣り上げていた口元をさらに歪ませる。
ちなみにもう苦笑ではない、あれは恐怖に引きつった顔という。
その視線に、まあ目の前にいるのだから気づかないわけもないのだが、セイバーが口を開く。

「凛、なにかと困惑はあるでしょうが、事情をお話しますからどうか落ち着いて・・・・・・」

そういったセイバーを見やると、なんだかアーチャーと同じような顔をしている。
ふと、サーヴァント二人をここまで恐れさせているわたしって一体・・・・・・と疑問を感じないでもなかった。

「その前に、少々お待ちください、凛」

セイバーが後ろを振り向き、門の方へと向かっていく。
今の今まで気づいていなかったが、一人の男が、そこに呆けるように突っ立っていた。
セイバーはその男の目の前で止まると、

「シロウ、先ほどと同じ事を言わせるつもりですか? 私は待っていろ、と言ったはずですが」

と、腰に手を当てて、ほほを軽く膨らませて彼を叱責した。
あー、なんつー愛らしいサーヴァントなのかしら。
男の方は、まだ軽く呆けたような顔のままである。

「いや、君がいきなり出ていって、なんか戦いそうな雰囲気だったから・・・止めようと・・・・・・」

「はあ。それはいいですが、あまり良くはないのですが。もう少し気を引き締めてください」

嘆息をつき、続けるように、

「貴方は私のマスターなのですから」

と、言った。





「いや、だから俺はマスターなんてやつにになった覚えは―――――」

「衛宮くん?」

彼の台詞を止め、割り込むように話しかける。
彼はわたしを見ると、今始めて気づいたように・・・・・・実際今気づいたのだろうが、驚いてみせる。

「と、遠さ・・・・・・か?」

なぜか最後を疑問符にし、わたしの名前を呼ぶ衛宮士郎。
そう、彼は衛宮士郎で、わたしは遠坂凛だ。
それを呼ぶ事にお互い意味は無い。
だって確認せずとも見ればわかるのだ、必要がないだろう。
それなのに何故彼はわたしを呼ぶのに、わたしかどうか判らないような声を出すのだろう?
そんなことはどうでもいい。

「衛宮くん?」

意味は無いのに、名前を呼ぶ。
それは何故だろうか。

「凛、気持ちは察するが、まずはおちつグボァ!?」

なんだか横でわめいた物体を、結局使わずに手に持っていた宝石ごと殴りつける。
家を何軒も吹っ飛ばせる威力を持った一撃が、爆発した。
赤い物が塀に張り付く。
だかそんなことはどうでもいい。
わたしはひたすらに前を見つめる。
いや、見つめているのは彼一人だ。
なんだかこそこそと下がっているセイバーらしきものは、視界にすら入っていない。

「衛宮くん?」

彼の顔が目の前にあった。
いつのまにか、無意識の内に歩いていたらしい。
その彼と言えば、ただひたすらに脂汗だか冷や汗をだらだらと流しつつ、なにやら蒼白の顔をして硬直している。
なぜだろうか、わたしは極上の笑みを浮かべているのに。

「エミヤクン?」

「と・・・・・・と?」

遠坂、と言おうとしているのだろうか。またはわたしの知らないどっかの奥地の秘境の言語かもしれない。
わからない。
何もわからない。
アーチャーの正体は判らないし、彼の目的もよくわからない。
セイバーとなんだか知り合いみたいだし、その辺の経緯もよくわからない。
なんでこいつが、わたしが呼び出せず、今アーチャーを圧倒し、聖杯戦争にて最強のカードである彼女―――


―――『セイバー』のマスターであるのか、全くわからない。


わたしは手を優しく上げて、彼の胸に置く。

「と・・・トオサカさん・・・・・・?」

「衛宮くん・・・」

さらにもう片方の手も同じように上げ、彼の胸に頭を当てるように顎を下げる。

「と・・・」

手を血が滲まんばかりに握り、彼の胸倉を掴み上げて顔を限界まで近づける。

「衛宮くん。死にたく無ければ、全て吐きなさい」

左腕を光らせて、殆どガンドの発動直前状態で彼を睨みつけた。






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