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「さて、どれを見ようかしら」

「俺は全部見たことないけど・・・」

「『フェイト/ゼロ』とかどう? 英霊が呼び出されて戦う話なんだけど。
 アーサー王とか出てくるし、入り込みやすいかもしれないわよ」

「どこかで聞いたような話だな・・・・・・面白いのか?」

「戦闘機からもぎ取ったガトリングぶっ放したりするけど」

「人の事は言えないけどとんでもないな」
















【デートしよう! その2】

















「まさか犯人がヤスだとは・・・」

「最後の猫缶を譲り合いは印象深かったわねえ。
 結局殴りあいの奪い合いだったけど」

お互いに見た事がない、という事から『ネコアルク ザ・ムービー』観賞した後から数十分。
俺たちは映画の感想を語り合いつつも、次の目的地へと移動していた。

まあ、感想というかなんというか―――

「いやあ、素敵なニクキュウだったわね」

「なんとも言えないキャットフードだった」

ただこのやるせない気持ちを何とかしたいが故に、お互いを誤魔化し合っている、といった方が正しいか。
隣でダミ声の人が「これはひどい」と言っていたのが印象に残っている。

なんとも混沌とした映画だった。
どおりで俺達より前の上映を見ていた観客の顔がげっそりとしていた訳だ。

ちなみに、誤解なきよう言っておくが、決してつまらなくはなかった。
ただ、なんとなく遠い目をしたくなるだけである。

「――――ん」

そんな事をしている間に視界が開けた。
少し強い風に、潮のにおいが意識をはっきりとさせる。

「海浜公園・・・・・・久しぶりだな」

「うん、この町で外を満喫するならやっぱりここね」

手を上げ、猫の様に伸びをする遠坂。
絹糸のような黒髪がサラサラと風に流れて、うん、とても綺麗だ。

「あー、昼寝に最適な陽気ねえ」

「まさかとは思ったけど、寝るためにここに来たんじゃないだろうな」

「ま、それも悪くはないわね。判ってるとは思うけど、ようやくコレの出番がきたのよ」

と、掲げてみせるのはデートの初めから持っていたバスケット。
そういえば映画館に入る時も当然持っていたが、よく持ち込み注意をされなかったものだ。

「どこかで飲み物でも買って、これを――――と、あら?」

会話を途中で止めて、公園を見渡してた遠坂の視線が止まる。
訝しんでその視線の先を追うと、そこには見知った顔が歩いていた。










さて、どうするかね。と心の中で独り言ちる。

天気が良く、弓道部は休みで、特に個人的な用事もない。
しかしこんなに天気が良いのだから、ただ家にいるというのも勿体無い。
そんな理由で外へと出てから数十分、行く当ても見つからず気付けば海浜公園まで来ていた。

(ゲーセン、は一人で行ってもつまらんし。特に買いたい本も服もない)

誰かを呼べばこの退屈も紛れようが、今日はなんとなくそういう気分ではない。
パーっと騒ぐより、まったりとこの退屈な午後を過ごしたい思いが在る。
となるとやはり無軌道な見るだけショッピングが候補として挙がるが、大した用もなしに新都まで足を運ぶのはなんとも面倒くさい。

そんな栓の無い事をぐるぐると考えていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「美綴さん」

振り向く、とやはり見知った顔―――なのだが、初めて会う人がそこに居た。

「へ? ・・・・・・と、あれ?」

「こんにちわ、美綴さん。今日は散歩かしら?」

知っているんだが初めて見る女性は、優しくあたしに微笑みかける。
いや、知っているというより見たことがある、と言った方がいいのか。
まず間違いなく、こんな美人・・・・・・そう、こんな美女と一度でも出くわしていれば、忘れる筈がない。
しかしどう頭の中を探してもこの人と出合った記憶はなく、だがその顔にはやたらと見覚えがあるのだ。

「あ、あの、その、失礼ですがどなたでしょうか・・・・・・?」

もどかしい思いをしながら、美女に思ったままを問いかける。
彼女は何故かいたずらな笑みを浮かべて、くつくつと笑う。

「ああ、ごめんなさいね。貴方の事は彼女から聞いて耳にしていたものだから」

まるで何回も会った事がある様に思えて、と美女は言う。
同じような思いはあたしにもあるが、彼女の感覚とはまた違ったものだろう。
なんというか・・・・・・そう、既視感だ。
彼女との会話をまるで実際にあったものの様に感じる。

というかなんだ、つまり日常的に会うやつにそっくりなんだ。
よく知っている『アレ』が何年か経ったらこうなるんじゃないか、という感じの。

「あの、もしかして―――」

「おい、ジャグラー」

あたしの声を遮り、背の大きな男が美女の後ろから現れた。

「あまり人を混乱させるな」

「あら、ごめんなさい。可愛くってつい、ね」

とても親しそうな様子で、美女を嗜める男。

(ん、んんっ?)

突如現れた男性。
長身の、赤みがかった白髪で、黒に統一されたスラックスとワイシャツの下に色黒の肌。
こちらも見覚えがあるような、かといって思い出そうとしても記憶があやふやで出てこない。

(なんだ、なんなんだこの二人!?)

背筋がぞわぞわする。
不快というわけじゃないが、言いようの無い感覚が体中をまさぐる。
この感覚を言葉にして言い表せられない。
喉まで出掛かったものが、詰まったまま喉を締め付けているような・・・・・・

「そうだ、美綴さん。昼食は取られたかしら? もしよければ、御一緒しません?」

そう言ってバスケットを軽く掲げる美女。
あたしはなんとも言い難い気分のまま、断る理由も見つからず、それに頷いた。










「遠坂の親戚、ですか」

「ええ、まあそのようなものよ」

俺が買ってきた紅茶の缶を口にしつつ、3人でバスケットを囲んで談笑する。
今の状況を説明するとそんな感じだった。

「それで彼がわたしの夫で、遠坂のお嬢さんの保護者、という所よ」

「アーチャーだ、凛がお世話になっている」

そう言って頭を下げたが、相手が相手だけにどうも違和感がある。
言われた方も生返事を返すだけだし、まあ社交辞令のようなものだ。

「さっき彼が呼んでいたけど、わたしの事はジャグラーと呼んで頂いて構いません。
 ちなみにこれ、二人とも本名じゃありませんから」

ぶっ、と噴出しそうになる。
行き成りばらしてどうすんだこの人!

「は?」

「ほら、ジャグラーとアーチャーって、名前としてはどう考えても可笑しいでしょう?
 ふふ、別に手品もボール投げもできないのにジャグラーってとんでもないわ」

だらだらと嫌な背汗をかく。
遠坂はやたらと楽しそうだが、こっちの心臓は加速しっぱなしだ。

「まあ通称というか愛称というか、役職っていうのが近いかしら。
 そういうものだと思って、気軽に呼んで下さい。
 あ、本名は内緒ですよ?」

「ああ、はい」

もはや混乱も極みであろう美綴。
そりゃあ行き成り偽名を名乗って本名は秘密、なんて人がいたら訝しんで当然だろう。

「あ、この卵サンド美味しい」

「マスタードと黒胡椒がワンポイントです。
 あと暖かいまま食べるつもりではないのなら、卵は少し冷やしてからの方がマヨネーズを分離させないので味を保てますよ」

「ふーん、参考になります」

しかし、もはや思考を放棄しはじめた美綴。
そりゃあまあここまで堂々とされたら問い詰める気もなくなるだろう。
遠坂はそれを狙った、と言う訳でもなくただからかって遊んでるだけなんだろうが。

「それで美綴さん、貴方好きな人はいないのかしら?」

・・・・・・やっぱりからかってるだけなんだな。

「―――へ?」

「貴方程に器量が良ければ、男性とお付き合いしててもおかしくはありません。
 ですが貴方にはそういう話が一切無いと聞きまして」

「と、遠坂のやつそんな事まで・・・・・・っ」

ワナワナと震える美綴の拳。
まさしく手玉に取られている状態だ。

「柳洞くん、という方はどうなんでしょう?
 真面目すぎるくらい、誠実な方と聞きましたが」

「え、と。これ答えないといけないですかね」

「ええ、できれば」

ニコニコと笑う魔性の女、遠坂凛。
そしてお昼を御馳走になったというだけで断りきれない義理の女、美綴綾子。
経験値の差からして、もはや彼女からは逃げられないのである。

「あー・・・・・・まあ柳洞の奴は良い奴だとは思いますけど。
 別に男として見たりはしてません」

「あらそう」

おや、本命はあっさり流されたな。

「なら間桐くんなんかどうかしら。
 ほら、ええと、妹に桜がいるじゃない?」

「ないですね。というかあいつどっか行ってますし。
 いや、確かにあの娘が義妹になるのはいいかもしれませんが」

本人全否定である。
あいつはあいつで良い奴だと思うんだが・・・・・・
彼女らにとって桜しか好評価ポイントはないのか。

「そう、じゃあ―――」

遠坂は機から見れば柔和と受け取れ、見るものが見れば小悪魔的と取れる微笑みを浮かべた。
ニヤリ、という擬音が似合いそうな口元が、嫌な予感を感じさせる。

「衛宮くん、とかどうかしら」

ブッ! と噴出しそうになるのを眉を顰める程度に抑え、今日二度目の動揺を何とか押さえ込む。
こいつは自分の旦那をどうしようというのだ。
いや、その衛宮は俺であって俺ではない訳だけども。

「衛宮、ってないない! それはないですよ!」

遠坂の意味深な攻め方の割りには、豪快に笑ってあっさりと受け流す美綴。

「あらそうなの? 聞けば貴方は衛宮くんに御執心だと聞いていたのだけど」

「いや、執着してるのはあいつの射であって、あいつ自身じゃないですから」

美綴は実際かなりの腕前だったくせに、やたらと俺の弓に拘っていた。
それは学校を卒業してから続き、何度かロンドンまで足を運んで来たほどだ。
あいつは大会やら何やらでかなりの結果を出したにも関わらず、結局弓を手放すまでその拘りも持ったままだった。
弓の世界じゃ名前を知られた人物が、名前どころか段位すら格下の相手に挑戦するという、今思えばおかしい光景だったかもしれない。

「そう、本当にそれだけ?」

「それだけです。そりゃ人間として嫌いって訳じゃないですけど」

「それだけなら、彼が弓を手放した後に執着する必要はないじゃない」

「完全に手放した、っていうならあたしも執着しませんよ。
 でもあいつまだ未練があるみたいだし、体は鍛えてるみたいだから望みはあるかなって」

美綴は理屈の通った否定をするが、存外にしつこく問い詰める遠坂。
はて、本当に一体どういうつもりなのだろうか。

「なら貴方は、衛宮くんが弓を持っていなかったらただの友人の一人だった、と言いたい訳ね」

「それは・・・・・・そうですよ」

「本当にそう? 貴方が衛宮くんと交流を深めても、興味を持ったのは弓だけだった?」

「・・・・・・」

眉をひそめて、困りつつ思い悩んだ表情をする美綴。
どうにも雲行きが変わってきた。

「彼の人間性そのものに、何かを感じているんじゃないのかしら。
 そもそも彼の射を見た時の印象と、彼自身の人間性に、違いはあったのかしら」

「それ・・・・・・は」

「その二つを同一視できてしまうなら、貴方が抱いている憧憬――――
 いえ、もう一目惚れと言っても過言じゃないかもしれないわね。
 それは彼の射だけでなく、彼自身に対するものと同じなんじゃないかしら」

「え、いや・・・・・・でも」

遠坂の巧みな話術が美綴を追い詰めていく。
赤くなったり、青ざめたり、頭を抱えて低く唸ったりと、判りやすく混乱が極まり始める。

「いやいやいや! やっぱり違いますって!
 確かに男の中じゃ特別ですけど・・・・・・あれ、やっぱり特別なのか、いやそういうのじゃないから!」

「正直になりなさい、美綴さん。
 気付かなかっただけで、もう貴方は恋する乙女なのよ!」

「いやああああ!?」
















それからも散々洗脳・・・・・・もといからかい尽くして数十分。
頭から煙を出して憔悴しきった美綴と分かれた後。

「それで、どういうつもりだったんだあれ」

「ほら、この世界のわたしや士郎ってイマイチ進行してないじゃない。
 だからちょっとした刺激をあげればあの娘も焦るかなあって」

「当て馬代わりか」

「言い方は悪いし、使い方も違うわよ。
 ちなみに綾子の方は心配しなくても平気よ。
 鈍くて不器用だけど、士郎に対するのは恋愛感情とは違うから」

「そういう心配はしてないから大丈夫だ」

「・・・・・・ま、可能性ゼロじゃあないけどね」

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