「大変よ!」

そう言って、というより叫んで衛宮家に入ってきた人物は、可愛らしい銀髪赤眼の少女だった。
この場にいる家主こと俺、そしてここの居候や、なぜかいる一部の人間にとって顔見知りの人物である。

その少女、もといイリヤがそういった訪問をするのはそう珍しいことでもなかったので、特別な対応無しで彼女を向かいいれた。
そう、背後に現れた白い使用人服の女性が、肩にもう一人の少女を担いでいなかったら、だが。

「遠坂!?」

だらりと、体を担がれたままになっている少女は、間違いなく遠坂凛その人だった。
ゆっくりとその体を寝かし、遠坂を担いでいた女性、リーゼリットは静かに口を開く。

「見た目よりおもかった」

「いや、こういう時の言葉としてそれは違うだろ、リズ」

「リンは見た目は細いけど、筋肉がついてるからちょっとおもい」

追い討ちである。
あんな馬鹿でかいハルバードぶん回せて何を言っているんだという気がするのだが、今はそれどころではない。
床に寝かされた遠坂の体は、いまだピクリとも動いていないのだ。

「リズ……いや、イリヤ。遠坂は大丈夫なのか!?」

「何があった、って先に聞かない?
 まあ体の心配をしてるなら、大丈夫よ、寝てるだけだから」

「寝てるだけ?」

そう言われてよく見直してみれば、遠坂の胸が小さく上下していた。
安らかな顔といい、冷静に見ればなんてことのない、健やかな寝顔にしか見えない。

「なんだ、よかった」

「馬鹿者が、よくなどない。
 彼女は“大変だ”と言ったのだ」

横から伸びてきた腕が、遠坂の体を支えるように持ち上げる。
アーチャーのその行動にも反応せず、こんこんと眠りについたままの遠坂。
もう一方の片手でぺちぺちと顔を叩いているが、表情が少し渋いものに変わっただけで、遠坂は起きるそぶりも見せなかった。
『ぶっころすわよ、しろ…』とか言ってるが、やはり起きない。所でシロって誰だ。犬か?

「呪いか」

「流石ね、アーチャー」

ノロイ? 呪いだって…?

「ど、どういう事だよ、イリヤ」

「どうもこうも、つまりリンは呪いで寝ているって訳よ。……決して目覚めない、ね」

なっ。

「何があったのですか、イリヤ」

混乱で真っ白になりかけた頭に、セイバーの冷静な声が通り抜ける。

「そうだな、まずは事情を知りたい」

「い、いや、二人とも冷静過ぎじゃないか?
 いくら遠坂が無事だっていっても、目覚めない呪いなんだぞ?」

だがまだ頭は冷えてないようで、二人の様子に食って掛かってしまう。
焦ろ、というのも可笑しいが、

「遠坂が敵に襲われたんだ。現状把握も判るけど、心配するなり、敵襲を警戒しないでどうするんだ」

二人は全くの無警戒、そう、冷静というよりはどこか楽天的な様に見える。
だが、経験値も無く青い俺に対するのは厳しい視線――――ではなく、どこか呆れた様な表情。

「シロウ、貴方の言いたい事も判りますが、まずは凛の状態をよく視てください」

「見ても何も、俺には寝てるようにしか……」

「馬鹿者、セイバーは表面ではなく、魔力の流れを感じろと言っているんだ」

魔力の流れ……?
セイバーの助言と、アーチャーの叱責に従い、遠坂の状態を『視る』。

「……別におかしな流れとか、変な魔術とかは……感じないな」

そう、遠坂の体には見た目どおり、何の異変も感じられなかった。
遠坂の体には何処かが滞っていたり、著しく消耗している様な事もなく、至って健康なの魔力の流れが見えた。
他の誰の魔力を感じるでもない―――

「……いや、おかしいじゃないか。敵の呪術だっていうなら、そいつの残滓ぐらいある筈だろ?」

「その通りです。つまり凛は、他者からの魔術で眠っている訳ではないという事です」

「…は?」

目覚めない呪いを受けているのに、他者からの魔術で眠っている訳ではない?
判らない。先ほどから疑問符だらけだ。

「えっと、つまりは?」

「つまりはね」

イリヤが困った声が居間に響く。
そしてその答えは、聞いてもいまいち判らないものだった。

「リンは自分の魔術で眠ってるって訳よ」
















【眠り姫】

















「実験の失敗?」

「そ、わたしと共同……っていう訳でもないか。
 単にわたしがパトロンになって、お金とか施設を貸してあげて実験をしてたのよ」

そういえば最近、妙に遠坂とイリヤが一緒にいると思っていた。
なるほど、裏ではそんな事やってたのか。

「確か今回は完璧だ、うまくいっている、などと言っていたな。
 だから心配をしてはいたのだ……」

「成る程、それは確かに嫌な予感がする言葉ですね」

サーヴァント二人からいいように言われる遠坂さん。
いや、俺もそう思うけどさ。

「それでね。そろそろ大詰めみたいだし、私も心配して実験室を訪ねたのよ。そしたら…」

「この状態だった、って訳か」

お腹をボリボリと掻きながら、ゴロンと寝返る美少女、遠坂凛。
なんだか見てると涙が出てくるのは、俺の中の夢がまだ覚めていない証拠なのだろうか。

「で、解呪できないのか?」

「一応やれる事はやってみたんだけど……駄目ね、わたしには手のつけられようがなかったわ。
 睡眠って欲求の結果に、睡眠が繋がってループしてるのよ。
 どっちを解呪した所で結果は睡眠にしかならなかったの」

「いまいちよく判らん」

「要は寝て、起きるっていう通常の動作がすりかわってるの。
 寝て、寝るっていうのが今のリンの通常動作な訳ね」

いや、何の研究してたんだろうね、遠坂は。

「いまいち緊迫感がないんだが……やっぱりこれって大事なんじゃないのか」

「そうでもないわ。用は原因を消すんじゃなくて、吸い出せばいいのよ。
 リンの中にあるもう一つの睡眠という概念が別に移れば、それに結末を与えず、睡眠と睡眠はつながりを切れるわ」

……よくわからん。

「つまりは『睡眠A』と『睡眠B』が現状繋がっている為、どちからに結末を与えるとAからBへ、
 BからAへと移動してしまうためにキリがありませんが、
 そのどちらかを凛の中から消さずに移動すれば、
 AとB、どちらも存在しながらも凛の中のループは途切れる、という訳ですね」

「ご名答。剣士の割りには理解が早いわね、セイバー」

「いえ、こういう経験だけは長いものでして…」

深くため息をつくセイバー。
どうもこういう状況にはどこか慣れているようだ。
やはり剣と魔術が跋扈していた時代には、こういった事態は日常茶飯事だったのだろうか。

「じゃあ、遠坂は治るんだな?」

「ええ、まあ。だけと一つ問題があって……」

「問題?」

「うん。『睡眠』ていう概念である以上、それを消さないようにするからには人から人へ移すしかないんだけど」

「もしかして吸い出した人が、目覚めなくなるのか」

「全部吸い出せばね。やるとしても、吸い出すのは少しでいいの。
 そうすれば、どちらもしばらく睡眠時間が増えるくらいで、大きな影響は無い筈、なんだけど」

「じゃあ問題ないじゃないか」

確かにちょっと日常生活に悪影響がありそうだが、それくらいで遠坂が助かるなら軽いものだ。

「イリヤ、なんなら俺がやるよ。やり方を教えてくれ」

「……やっぱりシロウならそう言うと思ったわ。
 でもね、そのやり方が問題なのよ」

「ふむ、衛宮士郎ではできない、よほど高度な術というわけか」

ずずい、と前へ出てくるアーチャー。

「私がやろう。何しろ大切なマスターの体だからな。
 この未熟者に任せる訳にはいかん」

ぐぬぬ……
確かに俺はこいつに比べれば経験値不足だ。
悔しいが、ここはアーチャーに任せた方がよいだろう。

「それで、どうすればいいのだ」

「えーとね…」

イリヤにしては珍しく言いよどむ。
それ程までに困難な術なのだろうか。

何だかんだ言っても遠坂の身が心配なのか、アーチャーが次の言葉を急き立てる。

「イリヤ」

「判ったわよ! もうっ。
 リンの治し方はね……」

「治し方は…?」

「……キスよ」







キ…………ス?

「キスよ。クッス。この国だと……セップクって言うんだっけ?」

「接吻、の事ではないでしょうか」

腹切りに対するセイバーの突っ込みにキレが無い。
いや、それだけ衝撃的な発言だったのだから仕様が無い。

「…イリヤ、それは何の冗談だ?」

「こんなつまらない冗談を言うわけないでしょう?
 キスっていうのは、最もポピュラーな魔術の一つなのよ。
 眠り姫なんて童話にも使われてたじゃない」

「いや、確かにそれは知ってるけど、ただの物語じゃないのか?」

「物語はいつでも真実を織り交ぜるものよ。
 睡眠中、人間は外部の情報に対して鈍くなり、基本的に外界との接触を断つわ。
 でも、呼吸器だけは違う。寝ていても、息吹だけは止まる事はない。
 つまりキスっていうものは、気を失っている相手に対しても効果がある、基礎にして、基本的な対人魔術なのよ」

どこか投げやりな調子で講釈をするイリヤ。
イリヤは先生体質なのか、人に物を教えている時はいつも楽しそうなのだが、今日ばかりはこの調子である。

「で、どうするの、シロウ」

「どうするって、何がだ」

「リンに……キス、するの?」

探り出すような、イリヤの慎重な言葉。

確かに、解呪の魔術行使に比べれば簡単だろう。
だが、それはあくまでキスをするという行為だけの話であり、意志や配慮を除去した場合だ。
そういったものは、少なくとも日本では、さらに言うと俺自身の意見としては、恋人以上の関係になった者同士がするものだ。
古い考えと馬鹿にするのもいいだろう。
だが、例えそれが解呪の為だとはいえ、相手の意思なしにそんな事をする訳にもいかない。
それが命に関わる様な話ならば別だが、この現状が切羽詰っているという訳でもない。
いや、しかしこのままという訳にもいかない事も確かだ。

どうすればいい。
遠坂を助ける為には、キスをしなきゃならない。
だが、それは遠坂の大切なモノを――まあこれも俺の杞憂かもしれないが――奪ってしまう行為な訳だ。
そんな勝手な行為は許されないし、許してはいけないと思う。
だが、これは人命救助なのだ。
直接的に死は関わっていないが、永遠に眠り続けるなんて十分に大事ではある。
助ける事ができるならば、助けるのが人としての、そして俺が目指す正義の味方としての生き方ではないのか。
それに、したいかしたくないかと聞かれればしたいようなしたくないような気もしないでもない。

……いや、やはり遠坂の意志も聞かずに勝手な事をする訳にもいかないだろう。

「やっぱり俺はで「駄目です!」き、ない」

俺の発言に重なる叫び声。

「……セイバー?」

それは先ほどまで泰然としていたセイバーその人。
ひどく焦っていて、いつもの冷静さはどこへやら。

「セイバー、いきなりどうしたんだ? なんかまずい事でもあるか?」

「あ、あ、いえっ。まずい事と言えばまずい事なのですが」

「遠坂の症状で何か気づいたのか。やっぱり俺なんかじゃなくて、正しい術者の方がいいのか?」

「いえ、そういう事ではなくて。いえでも、シロウではない方がいいというのもあながち間違いではなく…」

赤くなってしどろもどろとするセイバー。
なんだろう、本当にいつのもセイバーらしくないぞ。

「そ、そうです! やはり凛の意向なくキスというのは彼女への配慮がありません。
 特に同年代、しかも同じ学び舎の二人がそういう行為をしたとあっては、後に残る影響も大きいでしょう!
 ここは、シロウ以外の選択をするべきです!」

「ああいや、俺もそう思ったから断ろうとしてたんだけど……」

「あ、はい、そうですか……」

あはは、と顔を真っ赤にしながら立ち上がり、部屋を出て行くセイバーさん。
むぅ、サーヴァントも風邪をひいたりするのだろうか。

「どうしたんだろうなあ、セイバー」

「彼女も複雑なのよ」

ほろり、ともらい泣きするイリヤ。
なんだろうか、どうもイリヤさんは俺の知らない事情を知っているようで。








「ふむ、ならばやはり私がやるしかあるまいか」

そう言ってずい、と出てきたのは赤い男、アーチャー。

「イリヤ。聞くが、キスをするだけでいいんだな」

「え、ええ。あえて言うなら、できるだけ凛の呼吸はさせて上げて。
 息の循環が解呪に繋がるから」

「判った」

アーチャーはイリヤの戸惑った表情にも揺るがず、あっさりと受け答えて遠坂の上体を抱える。
流れる様に片手で遠坂の頬に手を当て、静かに口付けを―――

「ま、待った!」

再び居間に響く叫び声。
とは言っても、今度はセイバーではなく俺自身の口から出たものなのだが。

「なんだ、衛宮士郎」

「いや……あの、さ。まじでやるのか?」

「貴様がやらないのなら、私がやるしかあるまい」

「確かにそうなんだが……だけどさ、やっぱり―――って待て待て待て!」

人の話の途中で事を行おうとする男、アーチャー。
流石英霊だけあって、油断も隙もない。こんなところで理解したくない言葉だったが。

「何だ、言いたいことがあるなら手短に言え」

「いや、やっぱりさ。遠坂の気持ちを確認せずにこういうのって悪いと思うんだ、うん」

「その本人がこの状態なのだから、こうするしかなかろう」

「ぐっ」

それは判っている。
それは判っているのだが……やはり目の前で同級生の唇が奪われようとしているのを黙って見ている訳にもいかない。
しかもそれが、昔憧れていた―――まあ実際は今もその気持ちは薄れていないのだが、憧れの遠坂の唇なのだ。
大人しくしていろというのが無理な話である。

「それにだアーチャー、お前はなんとも思わないのか?
 遠坂に悪いな、とか遠慮の気持ちがさ。
 それとも、サーヴァントだからマスターを助けるのに手段は選ばないっていうのか?」

「私もそこまで割り切れている人間ではない。
 凛の一大事だからこそ、動くのは当然だろう。
 それに、私と彼女の関係は―――――関係、は」

言いかけた途中でフリーズするアーチャー。
そのまま、俯き気味で独り言を呟きだした。

「考えてみれば……凛であって遠坂では……
 いや、今後を考えれば――――――しかし世界が連続しているとも限らんし……」

「? おい、アーチャー」

「――――――」

呼びかけは届かず。
アーチャーは一人、自分の世界へ入ってしまった。

「……どうしたんだろ、これ」

「あー、英霊といえども思うところあるんでしょうねえ。
 主に奥さんとマスターとの板ばさみで」

ふむ…? 妻帯者故の悩みだろうか。

「……確かに、お前の言う事にも一理あるな」

数秒で一人瞑想から復活したアーチャー。

「たかがサーヴァントが、許可無く主の唇を奪う訳にはいかんな。
 差し迫った状況でもなし、ここは静観せざるを得まい」

こんな感じであっさりと前言を撤回し、潔く引き下がる。
まあ個人的には安心だが、拍子抜けした感も否めなかった。









「アーチャーもやらない、っていうなら……結局誰がやるのよ」

「う…」

「むう」

イリヤの言うこともごもっともである。
俺とアーチャー、二人して唸ってみるが、それで事態が解決する訳でもない。
一体どうすれば―――







―――なら、オレの出番だな。






「その、声は……!」

振り向いた先には、奴が!

「ドランサえもん!」

「犬か」

「魚屋のおじさん!」

「青狸でもなければ犬でもおじさんでもねえ!」

絶叫する青い槍の人。今はアロハの人。そして衛宮家に置ける魚屋さん。
ちなみに発言の順番は俺、アーチャー、イリヤである。

「眠り姫を救うのは、白馬に乗った王子と決まってるってもんだ。
 ほらどけ、都合により白馬もねーし王子じゃねえがよ。血縁だけど」

それはもはや何者でもないじゃないか、という突っ込みを待たずして遠坂を抱き起こすランサー。
そのままの勢いで顎に手をやり、食いつく様にキスを―――

『止まれ』

させてたまるものか、と待ったを掛ける。
アーチャーとの奇跡的なシンクロを見せた。

「お前みたいな節操無しに、遠坂の唇を奪わせるもんか」

「同感だ。私の目が黒い「もう大分黒くないわよ」……ともかく、私がいる限り貴様なんぞに凛の唇はやれん」

俺達の意志は、遠坂の唇を前にして一つになっている。
今ならば、例え金色の方のアーチャーが襲ってきても、撃退できる自信があるぞ。

「遠坂を床に下ろせ」

「ゆっくりに、だ。そして手を上げろ、妙な動きをしてみろ……唯では済まさんぞ」

「判った、わあーったって! 痛っ、判ったから剣降ろせよこの朴訥コンビ!」

両手を挙げて遠坂から下がるランサーを見て、背中に突き当てていたダブル干将・莫耶を降ろす俺等。
ちなみに少し刺さってたみたいで奴の背中からはちょっぴり赤い染みができていた。

「くそ、いいだろうが別に、キスぐらいで喚き立てる年でもねえだろう」

「うるさい、っていうかどういうつもりだよお前。
 遠坂はまだ若いから手を出さないって言ってたじゃないか」

ランサー曰く、俺等の年齢ではまだガキの域を越えていないらしい。
まだ眼中に無いとはっきり言っていたし、ライダーぐらいの年になってからどうの、とほざいていたのをよく覚えているんだぞこっちは。

「そりゃな、食うのも奪うのももう少し先の話だな。
 だがよ、味見するぐらいは別に構わないだろ?」

『構うわ!』

事、ランサーの原始的恋愛感に関して、俺とアーチャーは同意見なようだった。










「どすんの、これ」

大分飽きたのか、もはやいろんな意味でぞんざいな態度のイリヤ。
実際、俺もサーヴァント二人のおかげで精神的にやたら疲れている。

「とは言ってもなあ」

自分でやる訳にもいかない。が、アーチャーやランサーにやらせる訳にもいかない。
いかないというかさせたくない、見たくない。
いや、別に俺は遠坂の何でも無い訳なんだけどね……

「全く、男ってこれだから面倒ね」

肩をすくめて大人の女の発言をするイリヤ。
事実だけに反論一つも出ないのだが―――うん?

「なあ、イリヤ。この解呪って男じゃなくちゃできないのか?」

そう、確かにアーチャーやランサー、もしくは他の男が遠坂にキスをするのは見たくはないが―――
それが女性なら問題ないじゃないか! 個人的に!

「え? わたし男じゃなきゃいけないなんて言った?」

「言ってないけど……なんだ、ならイリヤがやってくれればいいじゃないか」

相手が同性なら遠坂のダメージも少ないだろう。
というか、解決法まで知っていて何故イリヤは遠坂を放って置いたのだろうか?

「嫌よ、リンとキスなんて」

あ、そうすか。

「シロウがわたしにキスしてくれるっていうならー、考えなくもないけど?」

「それは個人的にも世間的にもマズイからダメだなー」

ダメな理由として主に俺が捕まってしまう。
最近は色々怖いしな、ア○○○とか。

ぶーぶー言っているイリヤをいなして、考え込む。
誰ならば遠坂を傷つけず、俺とアーチャーが許せて、後腐れなく済むだろうか……

「失礼します。突然部屋を出て申し訳ありませんでした……凛はどうですか?」

そこに傷心風のセイバーが帰ってくる。
ん? セイバー……

「そうだ、セイバーだ!」

「な、なんですか突然?」

「セイバーなら遠坂も嫌がらない、っていうか喜ぶんじゃないか!?」

遠坂のやつセイバー好きだし!
後セイバーなら俺も文句はないし。というかちょっと見てみたいし。

「ふむ、確かにセイバーならば私も彼女を預けられるな」

「は? あの、一体どういう」

「セイバー、頼む。遠坂を助ける為だ、一思いにやってあげてくれ」

「あ、あのシロウ? やると申しましてももしかしてその」

「ああ、ちょっと待てよ。今から携帯録画モードにするからよ」

「そして貴方だけは一体何を言ってるんですか!
 キャスターに売る? させませんよさせませんよ!」

「頼む、セイバーにしかできないんだ、セイバーじゃなきゃ駄目なんだ!」

「あ、貴方はそういう台詞をこういう場所で使いますか!」














「あー、盛り上がってるわねえ」

「リン、人気者」

「そうねえ。でもあれじゃあ何時までも決まりそうもないわねえ。
 まあ私的には思った通りの展開になって楽しめたけど」

「計画通りっ…?」

「うん。シロウがワタワタしてるの見れたし、余は満足じゃ。
 ま、リンの方はわたし的にはこのままでも特に問題ないし、結局はセイバーあたりに落ち着くでしょ。
 後は時間の問題―――――あれ? 貴方今までどこに……って、あっ、あっ!」

ぶちうぅぅぅぅぅぅぅ……



















「くぁ……んーっ、うるさいわねえー」

近くで騒ぎ立てている誰かの声を聞いて、目を覚ます。
なんだかやったらと眠いのだが、こう五月蝿くては寝ていられない。

「あ、お、おはよう、リン」

「おはようございます、姉さん! ごちそうさまです!」

「うえっ? あ、あー、おはようイリヤ、桜」

元気のないイリヤと、なんだかとても元気でやたら近い桜の挨拶を受ける。
ぐぬう、一応起きたものの、なんだかとても眠い。

「あ゛〜、う゛〜」

「はい姉さん、ミルクどうぞ」

「あ、あんがと」

白く、並々と注がれた牛乳が美しく、眩しい。
その昼、ミルクに出会う。

「ん……ん……ぷは! おしっ、目ぇ覚めた!
 ってあれ? なんでわたしこんな所で寝てるのよ」

イリヤ城に居た筈なのに、見渡せばここは士郎の家の居間。
寝起きに聞いた喧騒の主を見てみると、サーヴァント三騎士+士郎がわきゃわきゃと騒ぎ立てている。

「なにあれ。何してんの?」

「姉さんはモテモテだって事ですよっ」

「は?」

「ああうん、大体あってるわそれで」

やたらニコヤカな桜に、どこか皮肉の笑みを浮かべるイリヤ。
そしてわたしが起きた事にも気づかず、まだ騒いでる四人。




はて、わたしが寝ている間に何が起こっていたのだろうか?





































「姉さん! 姉さん! もう一度眠ってもいいですよ!」

「何言ってるのよ、あんた……」








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