「いやぁー、士郎のご飯が身に染みるぅー!
心底嬉しそうに食卓に着く藤ねえ。
いやいや、喜んでもらえてなによりだ。
「お疲れ様、今日は藤ねえの好物ばっかり用意したから、十分に堪能してくれ」
「やっほーい! 流石士郎! わかってるぅ!」
そういって揚げたてのコロッケを一口で食べる藤ねえ。
いや、熱いし一口サイズじゃないし突っ込みどころが沢山だな。
「それにしてもお疲れ様でした藤村先生。
これであの時の事はひとまず終わったんですね」
「そ、みんな復学おめでとうっ! てね!」
『あの時の事』とはつまり、俺たちの学園内で起きたガス事故による集団中毒事件の事だ。
だが、それはあくまでも表向きの話。
真実は宝具による生命力の吸収による、衰弱。
聖杯戦争中に起きて、つい昨今まで残っていた戦いの爪痕だ。
それも今日、ようやく全生徒の復学という形で終わったのだ。
少し気まずそうにしているライダーや、直接は無関係であれマスターである桜としては吉報である。
簡単に許されるような事ではない。
だが、これで少しでも彼女達の気が楽になれば良いと、心の底から思うのが正直な気持ちだ。
「いやまあ不幸中の幸いで被害の大きさの割りには重態の子はいなかったのよね。
むしろ事故を引き起こした学園としていろいろと面倒くさい事だらけで大変だったわよ。
もう、先に生徒の心配をしなさいよね、アッタマくるわー」
「教育機関に敏感な社会ですから。
むしろあれくらいで済んでよかった方ですよ」
「まあね。というかそれについても微妙におかしいのよね。
内容が内容だから警察沙汰かなー、とは思ってたんだけど、ちょっと調べたら帰っちゃうし。
テレビや雑誌も騒いでたのは最初だけで、あっさりと引き下がったし。
まあこの街で全体的に起こっていた事故みたいだし、皆そっちで忙しかったのかしらねえ。
結局原因もわからず終いだし」
そこはまあ、裏で怖い人たちが色々動いた結果だったりする。
詳しくは知らないが、この土地の管理者である遠坂も尽力したようだ。
だからこそ『あれくらいで済んでよかった』なんて言葉が出たんだろう。
聞きようによってはまるっきり当事者だしな、その発言。
「まあいろいろ思う所はあるけど、それも今日で終わり!
みーんな学校に帰ってきたし、何でか壊れてた部分も修繕終了!
これでよーやく気が楽になったわー!」
「お疲れ様です、大河。
貴方の教師としての尽力は、我が事の様に誇らしく思います」
「ありがとうね、セイバーちゃん。
いやあ、セイバーちゃんにも色々迷惑掛けちゃったわね」
と、うちの虎は妙なことを言う。
「? タイガ、私は貴方に迷惑を掛けられた覚えはありませんが」
「何言ってるのよー、ずいぶん待たせちゃったじゃない。
この頃っていったら大切な時期なのにねえ」
「すみませんタイガ、私は貴方が何を言っているかが判らないのですが……」
「ありゃ、本当に覚えてないの?
まあ色々ゴタゴタしてたし、間もずいぶん開いちゃったしねえ」
うんうん、と一人で納得する藤ねえ。
「で、結局なんの事なんだよ。
はっきり言ってくれないと気持ち悪いじゃないか」
「だからあ、入学よ、入学!」
「? だから誰のだよ」
「セイバーちゃんの!」
………………
『は?』
――――――――<スクールセイバー!>――――――――
「今日からこの学び舎へ参加させて頂きます、セイバーです。
その、色々と身についていない常識があり、ご迷惑を掛けるでしょうが、どうかよろしくお願いします」
『……………………』
――――静まり返る教室。
開幕から何か不手際をしただろうか、と思い始めた直後、
『うおおおおおおおお!!』
歓声、というよりも絶叫が木霊した。
「セイバーさん久しぶり! わたし、わたしの事は覚えてる!?」
「ええ、お久しぶりですエリコ。体は健康のようで安心しました」
「私は!? 授業で一緒のグループになったよね!」
「はい、ユリ。あの時は丁寧な解説ありがとうございました」
「セイバーさん元気だった!?」
「元気ですよ、貴方もそのようですね、コウジ」
「セイバーさんお帰り! 俺は? 俺らはどうよ!?」
「ただいま戻りました、タダシ、カズマ、ユウキ。
相変わらず仲が良いのですね」
「また一緒に授業受けれるんだな!」
「ええ、そうですね。
というかヒトシ、貴方は隣のクラスだった筈ですが……?」
「愛してるセイバーさん!」
「その告白癖を治さないといい加減斬られますよ? タツノリ」
「あの、そろそろホームルームを始めたいのですけど……」
「おわおー! ホントにセイバーさんだ!」
1時間目が終了し、休み時間。
そこに騒がしく訪ねて来たのは……
「楓」
「おあおー! ホントにセイバーさんだ!」
「蒔ちゃんそれ二回目」
「正確には『わ』と『あ』が異なるが。
まあ意味のない叫びだ、同じであることに違いはないな」
「由紀香、それに鐘も。
私に会いに来てくれたのですか?」
「はい、お久しぶりですセイバーさん。
入学されたんですね、これから一緒に勉強できると思うと、うれしいです」
「ええ、私も貴方達と同じ学園に通える事を、とても嬉しく思います」
「――――いやはや、やはりセイバー嬢は違うな」
「ん、んーむ。なんというかかんというか、ほら由紀っち」
「えっ、えっと。垢抜けてる、かな?」
「?」
「あの、授業始めたいんですけど……」
「おお、ほんとだ」
「わたしの言っていた通りでしょう?」
「おや、凛に綾子」
「こんちわ、セイバーさん。今日からうちの生徒なんだって?」
「ええ、学園の先達者として、これからどうかご教授お願いします」
「あはは、そんなにかしこまらなくてもいいよ。
でもセイバーさんの先輩かあ、なんかいいねえ」
「でしょう? この子に『お願いします先輩……!』と言われたら何でも叶えてあげたくなるもの」
「凛……そういうのはどうか人のいない所でやってください」
「これはほっといてさ、ねえセイバーさん、部活とか興味ない?」
「部活、ですか?
確か綾子や桜が入っているような活動団体ですね」
「そ、セイバーさんならすぐに上達すると思うよ。
というか絶対する、優勝する。
ああでも剣道でもいいなあ。藤村先生を倒す腕、誰よりあたしが実感したいっ」
「あ、生憎ですが綾子、わたしにはやるべき事がありますので時間外活動はあまり……」
「なんでよ!? セイバーさんなら日本一、いや世界を獲れる器だってのに!」
「剣道着セイバーですか……新しいジャンルね」
「あの、お二方、廻りの皆が怯えてますので今日はこの辺で……」
「遠坂、美綴。教室へ戻れ…………お願いだから戻ってくれ」
「よう、セイバー」
「士郎? 来てくれたのですか」
「ああ、ちょっと様子見にな。それに、」
「おはようございます、セイバーさん。
今日は俺にとって、否、学園にとっても素晴らしい日です」
「おはようございます、イッセイ。
貴方も私に会いに来てくれたのですか?」
「ええ、セイバーさんが我が学園に入学されたと聞いて、いてもたってもいられず。
柳洞一成として、何より生徒会長として、挨拶せねばならんと思い立ちまして」
「ありがとうございます。
それはともかく生徒会長としてとは? それに素晴らしい日というのもどういう意味でしょうか」
「言葉の通りです。
今日という日、この時から、この学園は生まれ変わるのですから」
「?」
「おい一成、なんかセイバーが入学したって聞いてからおかしくないか?」
「ええい、おかしくなどはない。
今後の命運を掛けた、大事な用件だ」
「命運……話を聞きましょう」
「いや、そんな真面目にならなくても」
「今、この学園は危機に瀕しているのです。
あるべき所にあるべきものが無い、居るべき所に居る人がいない。
すぐさまにでも動き出さなければ、この学園は瞬く間に欲界へと堕ちてしまう。
再びあの不均衡と不平等をこの世に蔓延らせない為にも、導き手が必要なのです!」
「何で演説じみてるんだよ、というかここ、2年生の教室だから落ち着けって」
「この学園を、否この世を正しく護る為に!
セイバーさん、俺に代わって生徒会長を務めては頂けませんか!」
「えええええっ! 今日入学した人に生徒会長勧めるか普通! 冗談きついぞ!」
「俺は本気だ!」
「危機、導き手……そうか、この学園はそれほどまでに救世主を求めて」
「いやいや違うぞっ、そんな一国を救うノリになるなって!
ヘルプ誰か! この優等生等止めてくれ!」
「柳洞、衛宮。これから倫理の授業だ、退出しなさい」
「あ、セイバーさん」
「桜――――お一人ですか?」
「?(何か警戒してる?) そうですけど。
あ、はいこれ。この後の授業はわたしと被りませんから、教科書と今までのノートお貸しします」
「これは……ありがとう桜」
「いえいえ、教科書が用意できるまではいくらでも頼ってくださいね」
「…………」
「……どうかしました?」
「あ、いえ。ひどく和みまして」
「はあ……?」
「はーい、皆大好き英語の授業よー!
あれ、桜ちゃん―――もとい間桐さんだ、なんなら一緒に受けてく?」
昼休み。
『頂きます』
「それでセイバー、学園一日目はどう?」
「常時注目の的ですから、肩がこります。
それに物見遊山で遊びにこられた方が騒いでいくのでいちいち教師の方に怒られます」
「うっ」
「あーいや、一成の方はなんとかしとくからさ」
「すいませんセイバーさん、ご迷惑でしたか?」
「いえ、桜。貴方はとても素晴らしい」
「は、はあ?」
つづく?
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