英雄の腕に抱えられ、わたしは闇夜の空を翔る――――
そんな幻想的なものとは無縁の移動方法で、わたし達は衛宮くんの家へと向かっていた。
具体的には、そこらへんでアーチャーが拾った(盗んだ)バイクで移動している。
……うん、借りてるだけ。ちゃんと後で返します。
彼の背中へしがみ付き、気持ちのよい風を感じながら、赤い外套の背中へと語りかける。
「ねえ、アーチャー」
「何だいお譲ちゃん」
「いい加減に名前覚えなさいよ。
……貴方は結局、何者なの?」
「男の秘密を探るなら、もう少し女を磨きな」
ここから先はR指定さ
今日はとんでもない日だ。
アーチャーとランサーの『戦争』。
死にかけた同級生を救う為に、お父様の遺品である宝石を聖杯戦争が始まって早々に使用。
肉体的にも精神的にも疲れての帰宅。
再び彼が狙われる可能性を思い出して慌てて移動。
辿り着けば先ほどまで死人同然だった男、衛宮士郎と、召還されたてのサーヴァントの姿。
何も知らない彼を教会へと案内し、説明とマスターの登録を行い帰還、その道中。
―――とんでもない化け物と出会った。
それはさながら暴風だった。
剣の一振りで地面がめくり上がり、電柱が枯葉の様に吹き飛ぶ。
存在するだけで死の恐怖を想起させるそれは、もはや個人ではなく災害だ。
「バーサーカーにヘラクレスを当てるだなんて……
出鱈目過ぎるわね、アインツベルン」
マスターに許された特権、サーヴァントの性能を見る“眼”が今は煩わしい。
全てにおいてこちらを上回る相手など、見せられても何の対策も打ちようが無い。
セイバーは何とか戦えている。
あの災害へと怯まず挑み、真正面から立ち回る彼女の姿に見惚れすらする。
だがそれもそう長くは無い筈だ。
一撃一撃を受けるたびに歪むセイバーの表情が、それを何よりも色濃く物語っていた。
「っ―――アーチャー、援護を!」
隣にいる、自分のサーヴァントに命令する。
戦いが始まったというのに、こいつといえば高みの見物をしているのだ。
「アーチャー!」
「ん、いるのか? 援護」
「見れば判るでしょう!」
「混ぜてもらいたいのは山々だが……ヘイ、セイバー!」
目の前の惨状にも関わらず、気軽に声を上げるアーチャー。
「手助けはいるかい?」
「無用です! 背中を気にして戦える相手ではありません!」
「だとよ」
……全く、頑固者と能天気が相手じゃ話にならない!
セイバーが下がったと同時に、宝石を繰り出す。
解き放たれるは風の三連弾。
当たれば家の1〜2軒は吹き飛ばす!
「■■■■■■■■■!」
着弾と共に、巨人の咆哮。
悲鳴や絶叫―――ではない。
なにしろ、巨人には傷一つないのだから。
「無視しなさい、バーサーカー。
どうせリン程度の攻撃じゃ、貴方には届かないもの」
「っ―――」
悔しいが、事実だ。
経過がどうあれ、究極の神秘でもあるサーヴァントにわたし程度の魔術が通用する筈もなかった。
「……弱気になりすぎね」
どうも、あの巨人の威圧感に当てられすぎているようだ。
冷静に考えれば、サーヴァントと言えど今のを防御も無しに無傷はありえない。
なんらかの宝具で耐えたのか、キャンセルされたのか……
「セイバー!」
衛宮くんがの叫び声が、思考を妨げる。
見やれば、セイバーが苦悶の表情で片膝を付いていた。
大きな外傷は無いが…………劣勢は明らかだった。
「俺からも頼む、セイバーを援護してくれ!」
彼はそう言うと、真っ直ぐにアーチャーを見上げる。
それに対してアーチャーは、いつも浮かべていた薄い笑みを消し、珍しくも不満げな表情を見せた。
「坊や、女を守りたかったら自分の力でやったらどうだい」
「っ……」
余りにも無茶な言動に、衛宮くんは悔しそうに押し黙る。
マスターがサーヴァントに挑むなど論外にも程があるのだが、あらゆる意味で素人の彼には随分と応える一撃だったようだ。
だからといって、彼の足が前へと進む事はない。
険しい表情の奥に見える恐怖の色は、自分の無力さを本能で理解している故だ。
もちろん、責める事なんてしない。
彼が行動しないことは、マスターとして、人として正しい。
「■■■■■■■■■!」
再び響き渡る、巨人の咆哮。
同時に、衛宮くんの悲痛な叫び声が続いた。
それは、かろうじて保っていた天秤が傾いた証拠に他ならない。
離れているサーヴァント二人の距離。
足元には鮮血。
そして、胸から赤い血を零す少女の姿。
「っ――――」
セイバーはまだ立っている。
剣を構え、佇んでいる。
だがそれも時間の問題だ。
致命傷でないにしろ、セイバーにはもうあの化け物と戦いになるだけの余力はない。
二桁の打ち合いを待たずして、巨人の一撃に切り伏せられるだろう。
巨人に慈悲はない、その知能がない。
今だ敵として佇む彼女に、変わらぬ勢いで斬りかかる。
そして、死を目の前にしてなお雄々しく構えるセイバーの元へ、決定的な一撃が振り下ろされた。
「えっ?」
それは、何人かが同時に零した驚きの声。
あの絶体絶命に追い込まれていたセイバーまでもが、同じように間の抜けた声を出すほどの可笑しな光景。
セイバーは倒れていた。
だが、その体に新たな傷は刻まれていない。
代わりとばかりに、戦場へ紛れ込んだもう一人がいる。
セイバーを庇い、背中を真っ赤に染めた少年の姿―――
「セ、イバー。無事か……?」
「シロウ! あ、あなたという人は一体何を!」
「あれ、血が……なんだ、俺のか」
致命傷の大きな傷を受けながら、あろう事かセイバーを気遣う言葉。
怒りや、困惑、浮かぶ様々な感情で目の前がチカチカする。
「あ、あんた何やっ―――ばか! 早く逃げなさい!」
会話をしてる余裕などない。
わたし達が衛宮くんに目を奪われている中でも、バーサーカーは止まっていなかった。
再び振り下ろされる斬撃。
セイバーは衛宮くんが邪魔で動けない。
咄嗟に宝石を取り出したが、間に合わないしそもそも効かない。
何度目かの絶望。
だが、その視界の中で赤い何かが輝き―――爆裂音と共に、バーサーカーの剣が跳ね飛ばされていた。
「男を見せたな、坊や」
漂う火薬の匂い。
見れば、いつの間にか彼等を庇う様に立つ、アーチャーの姿。
その手には硝煙を残す散弾銃。
赤き外套のサーヴァントは、ひどく嬉しそうな笑みを浮かべて、そこに立っていた。
「■■■■■■■■■!」
その割り込みを挑戦と見たのか、バーサーカーが吼える。
近距離で散弾銃を浴びせられた斧剣は健在のまま、やはり化け物じみた速度で剣戟を振り下ろす―――!
「トロいな!」
だがそれが触れる前にアーチャーはバーサーカーの懐へと移動し、突き出した散弾銃を炸裂させていた。
巨体が衝撃に負け、吹き飛ぶ。
十メートル程度の放物線を描き、無様に背中から倒れ落ちた。
「ヘイ! どうしたマヌケ!」
挑発に応じる様に立ち上がるバーサーカー。
派手に吹き飛んだ割りには傷ひとつ無い。
「He he... そうでなきゃあな」
アーチャーの軽口が続くが、絶望的な状況に変わりはない。
なにしろ今の一撃は、彼の渾身の一撃である筈だからだ。
魔力を混めた散弾銃の密着射撃。
今日見た中でも、あれ以上の火力は思いつかない。
だが、ゆっくりと攻略法を考えている暇などない。
バーサーカーが咆哮をあげて迫る。
そして旋風を巻き起こす斬撃の嵐。
対して、アーチャーは右に左に、下に上にと、華麗なステップで脅威から逃れる。
敏捷さでは今日会ったサーヴァント全てに及ばない筈だ。
上手さというべきか、一度受ければ即死の攻撃を、彼は気軽に躱して行く。
そしてすれ違いざまに散弾銃、双銃を抜いては、がら空きの胴体を打ち抜いてゆく。
「チッ……タフだな」
だが、それら全てが通らない。
幾ら撃ちぬいても傷ひとつつかない。
――――撤退だ。
勝負にすらならない、アレは前準備無しで挑める相手じゃない。
だが、相手に背を向けて逃げるなんて事は自殺行為以外の何者でもない。
どうすれば……
「じゃあ、こういうのはどうだい?」
人の葛藤を読み解いた様に、アーチャーが答える。
「Rebellion!!」
タタンッ、と足を踏み鳴らす。
すると何もない虚空から長剣が現れ、彼の前に突き刺さった。
全身銀色の両手剣に、趣味の悪い髑髏が装飾された巨大な剣。
「ハッハー!」
それを引き抜き、ウォーミングアップとばかりに振り回す。
円を基調とした動作に、時折放たれる強烈な突き。
ランサーの槍で見せた時と同じ、いや、その時以上に華麗な演舞で人を魅了する。
だが、
「馬鹿! 遊んでる場合じゃないでしょう!」
その間にもバーサーカーが迫る。
無駄な剣舞にも、弓兵が慣れぬ剣を扱うという点も、あの化け物にとっては遊びでしかない。
あの強力な魔力を持ったセイバーですら耐え切れなかった。
特に筋力で大きく劣る彼で、まともな戦いになる筈がない。
「そうかい? じゃあもう少し真面目に遊ぼうか!」
――――Sword Master!!―――
アーチャーが指をパチンと打ち鳴らし、呟く。
体から炎のような光が揺らめき、その一瞬で消えた。
そして姿形は何も変わらぬ赤い外套の背中。
「は?」
だからこそ、その見た目に現れぬ変化は、わたしにとって驚愕の極地だった。
「フッ!」
赤い閃光を纏った突進。
それは再びバーサーカーの斬撃をくぐり抜け、その体に叩き込まれる。
揺れる巨体、まるで貼り付けられたかのように止まる体。
その体に数撃、数十撃と斬撃を叩きこむ。
斬り下ろしから斬り上げ、振り回すような旋風斬り、残像しか見えない連続刺突。
バーサーカーの体が一撃の度に揺れ、少しずつ後ずさる。
さらに追撃と力を込めた3連撃。
赤い魔力が宿る大剣を振り回し、あろうことか、冗談見たいな事に、あの巨体が“空へ打ち上げられた”。
唖然とその光景を見ていると、地にいるアーチャーが何やら構えを取る。
半身になり剣を前へと付きだして、袖口と肩の間に一瞬指をかける。
片足を引き、両手で掴んだ大剣を振りかぶって――――
「Get outta here!!」
落ちてきたバーサーカーを“カッ飛ばした”。
重い衝撃音。
水平に飛んでいったバーサーカーは、坂の上で地面へと叩き付けられた。
「嘘……」
信じられない光景に、自然とアーチャーへと視線が映る。
目を何度擦っても変わらない。
銀色な髪に、真っ赤外套。
外観こそ何も変わらないが、今の彼はアーチャーであって、アーチャーではない。
マスターに与えられる、サーヴァントの能力を見る特権。
筋力や敏捷、魔力といった単純な力を知ることの出来る戦略上重要なシステム。
もちろん、味方を知らずに戦いへ出るわたしではない。
魔力と幸運が優秀なものの、それ以外はそう高くないのは確認済みだった。
だが、今の彼はそれと全くの別物になっている。
筋力や敏捷が引き上げられ、まさしく“剣士”そのものになっている。
そんな馬鹿な事はありえない。
魔力で強化するならまだ判るが、それで根本的なステータスに変化は無い。
そう、あれは強化の魔術とか、そういった理解のしやすいものじゃない。
自分の体を“作り替えて”いる。
―――より、剣を扱うに適した体へと。
「■■■■■■■■■!」
何度目かの雄叫び。
その声色に今までとは違う、怒りの音が交じっている。
「へぇ、まだまだイケる見たいだな」
アーチャーは笑う。
あの化物を相手に、本気で愉快そうに。
「それじゃあ、派手におっぱじめようか!」
バーサーカーの嵐の様な剣戟を、ダンスが如くアーチャーの剣が打ち返す。
耳を劈く硬質音が、魂を削る巨人の咆哮が、今はもう怖くなかった。
胸が熱くなる。
弾き鳴る破裂音が、気づけばわたしには音楽に聞こえていた。
荘厳さなどカケラもない。
重低音で心臓を揺さぶり、割れっぱなしの音で掻き乱す、ロックンロールが。
◆ ◆ ◆
「Blast off!」
ダンテの斬り上げがバーサーカーの大剣を弾きあげる。
その勢いのまま、ダンテは宙へと見を翻す。
そしてそのまま4連撃。
身の丈近い大剣を片手でやすやすと振り回し、バサーカーの頭上から襲い掛かる。
対する巨人も引かない。
打ち上げられた斧剣を構え直し、その全てを受けきる。
『狂人』のクラスとは思えない、見事な受け流しだった。
その印象を再び覆すような、咆哮を伴う一撃。
無闇に飛び上がったダンテにとって、回避不可の横薙ぎだ。
風を切り裂く轟音、そして続く様に肉を裂く音―――の代わりに、トン、と小さな音が響く。
ダンテは、高速で迫る斧剣を足場に、さらに高くまで飛び上がっていた。
見上げるバーサーカー、視線の先には両手で高く掲げた大剣を振り下ろすダンテ。
「ハァ!」
体重を乗せた、兜割り。
受け流せないと感じたのか、斧剣を両手で構え、バーサーカーは防御を取った。
弾ける火花、爆発する衝撃音。
防ぎきった、だが、その足が一歩下がる。
「何をしてるの、バーサーカー!
さっさとそんなの捻り潰しなさい!」
それが白い少女の癇に障ったのか、巨人の背に恫喝が届く。
呼応し、巨人が吠える。
お返しとばかりに全体重を乗せた、振り下ろし。
対するダンテは、片手での振り上げ。
だが、彼の振り上げは少々タイミングが早い。
互いの剣が出会う前に頂点を通り過ぎ、くるりと回転して手前に戻る。
―――― Prop and ...
縦に高速回転する大剣は、触れるものを容赦なく弾き返す。
バーサーカーの斧剣とて例外ではなく、ジッ、と火花が散ると共に大きく弾かれた。
―――― Shredder!!
そして一歩踏み込み、今度は逆回転でバーサーカーの体を削り切る。
だがやはりダンテの攻撃は通らない。
表面をただガリガリと引っ掻くだけで、ついには無理やり攻撃を割りこまれた。
それを見てダンテは軽くステップを踏み、斧剣の届く範囲から逃れた。
「っと、なかなかいい風じゃないか。
アンタがいちいち仰いでくれるから、ホットな体も良い感じに涼めてるよ」
「――――っ」
それは、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンにとって最大級の屈辱だった。
どこともしれない有象無象のサーヴァントに、最強のヘラクレスが貶められたのだ。
ただの挑発ならば強者としての余裕で流せただろう。
だが、彼女の目から見ても自慢のサーヴァントは“あしらわれて”いた。
決して崩れず、痛むはずの無い完全無比の城が、凡夫相手に泥で汚されている。
「そう、じゃあもう少し強くしてあげる」
だからこそ、彼女はソレを惜しまなかった。
「狂いなさい、バーサーカー。
アナタの暴風で、あの小喧しい犬をミンチにしなさい」
なんの魔力も篭っていない、だたの少女の一言。
その瞬間、空間が冷ややかに凍りつき――――
「■■■■■■■■■――――!」
全てを砕いて、恐怖の塊が爆発した。
◆ ◆ ◆
「な」
言葉にならない。
アーチャーの恐ろしいまで高い戦闘技術に魅せられ、希望を見た直後。
再び絶望に叩き落された。
『狂化』とは、バーサーカーというクラスの特性。
本来なら力の無い英霊を、知能と宝具を引換に能力を向上させるもの。
ヘラクレスなどという規格外にそれを当てただけでも信じられないというのに……
なんの冗談か、あのアインツベルンの少女は今までそれをしていなかったと語る。
ああ、だがそれが虚言の類ではない事がはっきりと判る。
脳裏に映る能力数値だけではない。
アレが視界にあるだけで心臓が締め付けられるような感覚。
震える足が、歪む視界が、一刻でも早くここから逃げ出したいと叫んでいる。
殺される。
頭の上から指の先まで尽くを地の染みにさせられる。
それは変えようの無い真実で、例え自分のサーヴァントでも例外ではない。
あれは、人間、いや神ですら縊り殺す化物なのだから!
「アーチャー! にげ」
渾身の思いで捻り出した言葉は、狂人の突進でかき消される。
工夫の一つもない、斧剣のなぎ払い。
だがそれは今までとは比較にならない速度と力を持って振るわれ、
「くっ!」
躱すこともできずそれを受けたアーチャーを、勢いも変えずに吹き飛ばした。
地を踏みしめ、なんとか踏みとどまるアーチャー。
ここで初めて、彼の表情が苦悶に歪んでいるのを見る。
バーサーカーの突進は止まらない。
そして今までの剣士の斬撃ではなく、力に任せた振り回し。
それがまさしく嵐の如く襲いかかり、大地を、壁を、視界にあるもの全てを打ち砕く!
「ふっ、は!
こりゃ、随分といきなり獣臭いな!」
いつもと変わらないアーチャーの軽口。
だが、バーサーカーの攻撃を避ける度に彼の体は傷ついていく。
斧剣に切り裂かれている訳ではない。
紙一重でバーサーカーの攻撃を躱しても、風圧が刃となって襲いかかっているのだ。
英霊の技術や経験など二の次。
力と速度さえあれば、如何なる敵も打倒できると、彼らは自らを持って証明している。
「あは! これでもっと涼しくなったでしょ、アーチャー!
飛び回るだけの虫けらが大口叩いたこと、後悔させてあげるんだから」
「虫けらねえ」
不意に、アーチャーの体が宙へ跳ぶ。
バーサーカーの超反応が、彼を追う。
先程見たばかりの光景だが、今のバーサーカー相手に曲芸じみた事ができると思えない。
「それじゃあソレらしく」
だが、変わらず笑みを浮かべるアーチャーは、何のつもりか指先を前へ付きだし、
「空を飛ぼうか!」
そう、訳の分からない事を叫んだ。
――――Trick Star!!―――
ポン、と何かを跳ねる用な音がした。
その先には、バーサーカーの振るう斧剣の軌跡。
そこにあった筈のアーチャーの体は消え失せ、何も無い。
いや、先ほどまで彼がいた場所に、赤い魔法陣が現れている。
そして当の本人といえば、バーサーカーの肩へ腰掛け、あろう事かくつろいでいた。
今度は斧剣を足場にした訳でも、ましてや消えた訳でも無い。
彼は宙空に赤い魔法陣を展開すると、それを足場に飛んだのだ。
「おっと」
アーチャーを掴もうとする腕を逃れ、彼は再び宙へと舞う。
そして襲い来る斧剣。
だが、やはり同様の方法でそれを躱し、バーサーカーの顔面を踏みつけてさらに宙へ。
「おいおい払ってるばかりじゃ捕まえられないぜ。
脳みそに筋肉以外詰まってるのか?」
一歩間違えれば汚い花火になる中で、彼はなおまだ余裕を見せつける。
まるでバーサーカーを中心に球体の壁があるかのように、縦横無尽に飛び回り、翻弄する。
だが、いつまでも続くと思われたそのサーカスにも、やはり終わりが来る。
振るわれる斧剣、魔法陣を足場に空を翔けるアーチャー。
その進行先に、突然無骨な腕が現れた。
それは単純な話で、奇術とか魔術といった事態ではない。
バーサーカーは両手で振るっていた斧剣を片手に戻し、アーチャーの体を掴みに来たのだ。
アーチャーは空中移動をした直後。
軌道変更し直すには急すぎるし、体制が悪すぎる。
振るわれる豪腕。
だが、その振りきった手の中に赤い外套はない。
アーチャーは、いつの間にかバーサーカーの頭上へ移動し、再び難を逃れていた。
「成る程、言われた事を覚えるぐらいの頭は有ったか」
そしてそのままバーサーカーを踏み台に、再び宙空へ。
……馬鹿げている。
先ほどから大道芸じみた身のこなしを見せていたが、それがここに来て極まった。
あろう事かあの男は、魔術師を目の前にして、『一度消えて別の場所へ現れた』のだ。
―――空間転移。
人が空を飛ぶこの時代になってなお、魔法とされる神秘の一つ。
それをあの男は、事も無げ発動し、しかも使いまわし始めた。
緻密な魔術の構成など見えない。
まるで体質であるかのように、ごく自然に。
「ぐ―――――!」
だがそれも、あの化物を前にしては移動手段の一つに過ぎなかった。
空を駆け、空間すらも渡るアーチャーを、バーサーカーはついに斧剣で捉える。
転移の直後を狙われた彼は、直撃コースのそれを自身の大剣で受け止め、派手に吹き飛ばされた。
マズイ。
塀に叩き付けられたアーチャーもだが、それ以上にマズイのは宙に舞う彼の大剣。
それは弾かれた反動で闇夜に飛んでいき、行方を暗ませてしまう。
「チィ、馬鹿の一つ覚えっていうのもなかなかに厄介だな」
猫の様にしなやかに宙空にて体制を変え、地へと降りたった彼だが当然ながら無手。
銃こそ無事だろうが、アレ相手に何の効果も上げない事は証明済みだ。
だというのに、アーチャーは焦るどころか逃げることもせず、
「それじゃあお次はこいつだ」
そう言って半身になって構えると、差し出した片手をクイっと引き上げる。
「Hurry up baby」
言葉も出ない。
武器を失ってなお、挑発の一つも入れないと気が済まないらしい。
「ば、馬鹿にして―――! 終わらせなさい、バーサーカー!」
イリヤスフィールに従い、狂人が止めの一撃を振るう。
避けるどころか、微動だにせず構えを続けるアーチャー。
彼の頭上から振り下ろされる斧剣は、
――――Royal Guard!!―――
ガァン!という激しい音と共に、弾かれていた。
「……?」
起こったことがよく理解できない。
結果だけ見れば、アーチャーはバーサーカーの一撃を弾き返した。
だが、その方法がよく判らない。
何しろ彼はその場を一歩たりとも動かず、そして構え一つ変えていないのだ。
バーサーカーの斬撃は続く。
2連、3連、止まらず続く連撃で、一瞬にして十を超える斬撃がアーチャーを襲う。
だが、それが彼に直撃する寸前、あの音と共に斧剣はバネの様に弾かれ続けた。
目を凝らし、はっきりとその瞬間を目視する。
斧剣が風を引き裂いて振り下ろされ、アーチャーを切り裂く直前、彼の腕が上がる。
―――瞬間、その腕が赤く輝く。
それに斧剣が触れると、あの激しい音と共に斬撃がはじけ飛んでいた。
そこまで見て、ようやくこの現象を理解した。
タネさえ解れば単純な事だった。
ただ単に魔力の盾を手元へ作り、それが斧剣の一撃を上回っていただけ。
魔力は一点に集中する程に力を持つし、それが瞬間であれば消費量も少ない。
あれならば空間転移に比べて単純で、驚くに値しない。
だがまあ、コンマ数秒という一瞬に、自分の命を賭ける度胸と技術があるのなら、の話だが。
「■■■■■■■■■!」
いつまでも倒れぬ相手に苛立ちを感じたのか、狂人が吠える。
そして今夜幾度目かの、両手を用いた渾身の一撃。
その時、アーチャーの構えが変わった。
盾にしていた腕を後ろに引き絞り、握りしめた拳を斧剣へと撃ち合わせる!
――――Royal Release!!―――
眩い閃光。
両者の一撃が交差した瞬間、白い光が闇夜を照らし上げた。
反射的に目蓋を閉じ、開いた後に写った映像に驚愕する。
五体無事なまま、拳を撃ちぬいた余韻に浸るアーチャー。
そして、空高く弾かれて飛ぶ斧剣と、玩具の様に吹き飛ぶ巨人の姿。
それは強烈なカウンター。
岩の塊のような斧剣の上から、もろともバーサーカーを吹き飛ばす程に。
しかも、ただの拳でだ。
「Yeah! Ha ha!!」
高く掲げた手の平へ、差しあわせた様に収まる斧剣。
「Foooo!!」
2mは軽く超えているバーサーカーが持って『大剣』に見えるそれだ。
細身な槍でもない身の丈以上の武器を持てば、当然不可思議な光景になる。
だが、それを板切れの様に振り回すその姿は、不可思議どころか異常だった。
「VAOOOOOOOOO!!」
アーチャーが吠える。
大地を踏み砕き、今までのダンスもかくやという華麗さを捨てて。
その姿は、まさしく先ほどまでその斧剣を所有していた狂人そのものだった。
技も型も無い、力で振り下ろすだけの斬撃。
倒れ伏すバーサーカーに迫るそれは、ギィン! という硬質音に遮られた。
「――――――」
色濃く舞う土煙が薄れ始め、巨人の姿が現れる。
泰然と構えるその手の中には、髑髏の装飾があしらわれた銀色の大剣が握られていた。
それに全くの躊躇も無しに、力任せに斧剣を振るうアーチャー。
まるで人が変わったかの様に、洗練された剣技を見せるバーサーカー。
図られた様に武器が入れ替わり、当然の如く反転する剣技。
弓兵の何処にそんな筋力があるのか。
どうして狂戦士が理性を用いて技術を振るうのか。
英霊という高次元の存在の中でも、型破りかつ異常な光景。
始まって間もない聖杯戦争だが、今夜こそが最大の戦いであると行っても過言ではない。
まさしく、神話級の闘争が目の前にあるのだから。
互いの渾身の一撃が重なり、爆風を生む。
必然と体重の軽いアーチャーが吹き飛び、バーサーカーが大きく仰け反った。
「Freeze!!」
吹き飛ばされながらもアーチャーが振りかぶり、高速回転させた斧剣をブーメランの様に投げつける。
対するバーサーカーも大剣を頭の上に振り上げると、弾丸の様な速度でそれを射出した。
「ホッ、ハァ!」
アーチャーは撃ちだされた大剣の刀身を蹴りあげ、頭を向けた握りを掴み取る。
一方、高速回転して迫る斧剣を、バーサーカーは強引に素手で受け止める。
―――空気が変わる。
アーチャーの体制が低く沈み込み、手にした大剣が魔力で赤く染め上げられる。
それに気づいたバーサーカーも眼の色を変える。
背が見える程に体を捻って斧剣を振りかぶると、そのままピタリと止まって力を篭め始める。
一瞬の硬直、無音。
踏み出したのは、アーチャーが先だった。
地面が抉り、赤き外套をはためかせての高速突進。
それをなぎ払うべく、暴風を纏って振るわれる斧剣の一撃。
絶対的な死が届く直前、突進するアーチャーが渾身の突きを放つ!
「Break down!!」
ゴォン! という重い音を立てて、背後から何かが崩れる音がする。
振り向けば、アーチャーの体が壁に埋め込まれていた。
「ちょ、ちょっと! だいじょ」
「ふっ、と」
まるでちょっと重いものを持ち上げる様な気軽さで、コンクリートを砕きながら這い出るアーチャー。
服の埃をパパっと払うと、何か用か?と薄ら笑いを見せてくれた。
……この男を心配するだけ無駄だ。
「ヘイ、伊達男!
これで終わりじゃないよな!」
アーチャーは坂の上へと語りかける。
彼と同様に吹き飛んでいたバーサーカーが、ゆっくりと立ち上がった。
彫刻の様な超然さは、変わらず保っている。
「いいね、ガッツがある。
こんなにもイカれたパーティーだ、まだまだ踊り足りねえよな!」
双銃を突き出すアーチャー、斧剣を構えるバーサーカー。
「止まりなさい、バーサーカー」
膨れ上がりかけた闘気を押しとどめたのは、白い少女の一言だった。
「まるで悪い夢でも見てるみたいね。
バーサーカーと真正面から戦える相手がいるとは思わなかったわ。
……しかも、宝具も使わず“一度殺される”だなんて考えもしなかった」
語るイリヤスフィールに、苦々しい表情が張り付いている。
それはそうだ、わたしもヘラクレスを相手にマトモな戦闘などできるとは思っていなかった。
「おいおいお嬢ちゃん、今いい所なんだよ。
大人の趣味に口を出さないでくれるか」
「ふん、遊び感覚って訳?
悪いけどお付き合いはできないわ、おじさま。
それに……二人同時に相手する程、貴方を過小評価していないもの」
いつの間にかアーチャーの横に並ぶように、セイバーが構えている。
先程の傷は癒えたようで、少なくとも外観上は万全に見えた。
「ほんと、予想外よ。
そこのセイバー程度なら二人いてもあしらえる自信はあるのに」
「……ならば我が宝剣、その身で試してみるか」
「やめておくって言ったでしょ?
今日は全然思い通りにならないし、もう帰るわ。
せいぜい勝ち上がりなさい、凛。
貴方のサーヴァントは、いずれわたしのバーサーカーが直々に捻り潰してあげる」
バーサーカーが少女を肩に乗せ、去っていく。
その姿が完全に視界から消えてから、戦いが始まってからようやく息をつけた。
「……セイバー、傷は大丈夫なの?」
「アーチャーが戦っている時間に何とか。
感謝します、経緯はどうあれ貴方達に助けられた」
「っていうかお嬢ちゃん、普通は自分のサーヴァントを先に心配するだろう」
「うるさいわね。戦えっつったら戦わず、そのくせ勝手に手を出す様なやつに心配なんて無駄でしょう」
「こいつは手厳しいな」
対して気にして無い様に薄ら笑いを浮かべるアーチャー。
冷たくは言い放ったが、今回は彼に助けられた。
お陰で被害もほとんど出なかったし、賞賛の言葉一つでも――――
「あっ、衛宮くんは!?」
次々に展開されるトンデモ光景に目を奪われ、すっかり彼の事を忘れていた!
あれから十分程度しか経っていない筈だが、放置して置けるような傷ではなかった筈だ。
「大丈夫です。治療魔術を心得ていたようで、既に完治しています。
体力が尽きたのか、先程気を失われましたが……」
「そ、そう」
衛宮くんが治癒魔術?
そんな器用なタイプには見えなかった、というより素人魔術師ではなかったのか。
だが見る限り外傷はなくなっているし、特に問題は見当たらないことも確かだ。
「はあ……とりあえず一度衛宮くんの家に戻りましょう。
念の為、一応しっかり診て置いた方がいいし、貴方も自分の陣地の方が安心でしょう?」
「はい、ですがいいのですか?
もう凛にはわたし達と居るメリットはないと思いますが」
「乗りかかった船ってやつよ。
それに気を失ったままハイ次から敵同士、っていうのも寝覚め悪いし。
わたし達全員消耗してるんだからその方が敵も手を出しにくいでしょ。
ついでにセイバーも診てあげる、治したの表面だけでしょ?」
「……確かに貴方の言う通りだ。
では、今夜は引き続き休戦という事で」
衛宮くんを担ぎ、歩き始めるセイバー。
彼女も疲弊しているお陰か、素直にこちらの提案へ乗ってくれた。
諍いなく応じてもらい非常に助かる。
何しろ今夜は色々と事が起こりすぎた、一度落ち着いて考える時間が欲しい。
「アーチャー、行きましょう……ちょっと?」
「ん? ああ」
彼は感慨深げに戦いの傷跡を眺めて、気のない返事を返す。
「言っておくけど、落ち着いたら追求するわよ。
貴方の正体とか、宝具について、誤魔化させないから」
「オーライ」
◆ ◆ ◆
「Hmm...」
聖杯戦争、魔術師、マスター、そしてサーヴァント。
ダンテはここに来てようやく、召喚時に手に入れた知識を吟味する。
彼は人間という存在を高く評価している。
戦闘力ではなく、本当の意味での“強さ”を。
だが、今日目にしたものはその考えを覆すような剛の者ばかりだった。
彼が今までに出会った悪魔達に勝るとも劣らない、まさしく伝説級の強さ。
「面倒な事に巻き込まれたな」
弱気とも取れるような、呟き。
だが、その表情に憂いはない。
そこには、先を楽しむ様に不敵な笑みを浮かべた男が一人、立っていた。
END
戻る
【おまけ】
ダンテ「よお、お疲れさん」
凛「……人が働いてるってのに随分と寛いでるじゃない、アーチャー」
ダンテ「お前も俺の戦いの間に観戦してたじゃないか、金取るぜ?」
凛「くっ……サーヴァントが戦うのは当然でしょ。そこにマスターが手を出せってのが間違ってるの」
ダンテ「あの坊やは中々のもんだったなぁ。青いが見所がある」
凛「だ、だから……」
ダンテ「冗談だ。女子供を好んで戦わせる趣味はねえよ(例外もいるけどな)」
凛「全く。そんな事よりも言うことがあるでしょ?」
ダンテ「Hmm...? ああ、ピザのデリバリーならオリーブオイル抜きで頼む」
凛「違うわよ! アンタの正体! 名前だけじゃなくて能力とか宝具とか、全部洗いざらい吐きなさいって言ってるの!」
ダンテ「悪魔でデビルハンター」
凛「……? あくまでデビルハンター?」
ダンテ「まあ、全部話すとなると長くなる。
明日話してやるから、今日の所はオネンネしな」
凛「それよりも情報の共有が必要よ。
今日のわたし自身は対して魔力を消費してないし、ここで1時間話しても十分回復できるわ」
ダンテ「…………」
凛「ちょっと、何よ一人でニヤついて」
ダンテ「お嬢ちゃん、今日俺が消費した魔力がどれ位か解るか?」
凛「? そりゃあサーヴァントとマスターは繋がってるんだし、
わたしの消費量から考えれば大体の推測はできるけど…………
そういえばアレだけ戦った割には減ってないわね。
ひょっとして貴方ってとことん燃費良いの?」
ダンテ「さて、お嬢ちゃんの魔力容量を500とするとだ」
凛「突然何よ」
ダンテ「まあ聞けって。
で、俺が今日消費した魔力は…………大体1000ってとこだな」
凛「1000…………はあっ!? 1000!?」
ダンテ「だから、寝とけ。お前が寝てる内に少しづつ貰っていくから、休まねえと一瞬で枯れ果てるぜ?」
凛「う、うそ。だって宝具も無しにそんな消費する筈が―――大体アンタまだ余裕あるみたいだし」
ダンテ「余裕はあるさ、休憩を入れれば連続7戦ぐらいできなくはない。
サーヴァントの体でなきゃあ何戦やろうが回復できるんだが、
今はお嬢ちゃんから貰うしかねえ見たいだしな、不便なもんだ」
凛「……とことんデタラメね、悪い意味でも」
【おまけ終了】
○おまけのおまけ(燃費のお話)
と、こんな感じで燃費最悪のダンテさんという構想です。
全部が全部魔術ではなく、魔力のゴリ押しで戦っているので、凄い効率が悪いという事になっております。
ダンテが魔術を1から構成してるとか考えにくいじゃないですか。
Air Hike とか Trick Star の転移とか、本来は繊細な術式を要する筈なのに、
ダンテは魔力と悪魔本来の性質・特性で使っている感じ。
ちなみにバージル(兄貴)はそこの所しっかりしてる気がする。
○ダンテ無双の根拠(妄想)
それで今回はランサー、バーサーカーと戦っていただいた訳ですが……
まあ随分と余裕ありそうに書かせていただきました。
力関係としてはWEB拍手のレスでも書きましたが、
『魔界>>超えられない壁>>人間界』
なのではないか、と思っております。
神話では人間界にも悪魔が出てきますが、これは魔界からというより人間界で育った、もしくは生まれた悪魔なので、
DMCシリーズに出てくる悪魔のように、魔帝の直属部下や炎獄最強のベリアルさんとかとは比べ物にならないぐらい弱い、
という勝手な妄想で描かせて頂いております。
まあそうでなくとも、並み居る悪魔達を一人で一日そこらで全滅し、しかも挑発を入れる余裕を持つダンテは
ぶっ飛んで強いという認識です。まさしくチート。
まあそこん所、プレイヤーの腕次第ですが。
○ダンテの宝具
当然リベリオン、エボニー&アイボリーです。
んが、このダンテはDMC4以降のダンテです。
(時系列的には DMC3→1→4→2らしい。2は特筆すべき所がないのであってもなくても)
それまでに入手した魔具は全部使えるなんて事になっております。
大体質屋に入っているんですが、呼べば応える腐れ縁なんです。
ランサー相手にケルベロス(犬)振り回したり、
バーサーカー相手にギルガメス(or ベオウルフ)でガチ殴り合いしたり、
ギルガメッシュ相手にルシフェルでアディオス・アミーゴしたり、
キャスターとライダーを口説いたりします。ヘーイ ベイビーちゃーん。
○バーサーカー戦の補足
さて、このダンテはDMC4のシステムを基準にしております。
プレイしていない方に一応補足をしますと、DMC4では
・Trickster : 移動主体
・Swordmaster : 近接武器主体
・Gunslinger : 銃器主体
・Royalguard : ガード主体
というモードをゲーム中リアルタイムに変更できます。
見たことが無い方はDMC4のプレイ動画を是非見ていただきたいです。惚れます。
それでこの『スタイルチェンジ』というシステム。
これを私は『肉体変化』と解釈いたしました。
SS内でも遠坂さんが語っていましたが、肉体そのものを目的に合った形状に作り変える事により、
状況に適した体を作り上げる、というダンテの特殊能力です。
DMC3ではセーブポイント(時空神像)でしかこの切替はできないんですが、
これは当時の若いダンテでは短時間での変化に耐え切れない為、アイテムに頼らざるを得なかった、
という解釈をしております。
(まあ、本当はPS2のスペック限界でああいうシステムだったんでしょうが。
リアルタイムスタイルチェンジとか、武器を3つ切り替えとか、当時のPS2では容量が足りないそうです)
んで、これをFateの世界観に当てるとなると、
擬似的なリアルタイムクラスチェンジという考えでいける訳です(断言)。
まあ実際の所はセイバー⇔アーチャー程度の変化ですが、
ステータス表記としては別人レベルに変わると思われます。
はい、チートです。
○ゲイボルクで生きてた理由
ダンテの肉体がゲイボルク以上の神秘だから、という台無しなお知らせ。
一応回復おそいなー? 的な効果はあると思います。
ただまあ、きのこ氏が言うにはゲイボルクは二十七祖みたいな化物にも効果あるらしいので、
不死性そのものを殺される可能性があります。
でも正直ダンテって自分の体が宝具(EX)なので死なないかも!
でもサーヴァントですげえ弱体してるし本当の体じゃないから死なないかも!
でも刺されて死ぬダンテなんてダンテじゃないからやっぱり死なないわ!
○Fate/zero
まあこのご時世ですので、当然この方向性も考えておりました。
またもやランサー(ディル)に貫かれてピンピンするダンテ。
何スロットさんにギルガメスを(わざと)奪われ、ベオウルフを装着し愉しそうに殴りあったり。
高速形態パンドラ(妄想)でギルガメッシュと空中戦したり。
イスカンダルとやっぱりバイク(レディの?)で走り回り。
○聖杯のナカミ
アヴェンジャー。
ソレはやはり最強の敵にして、最愛の男。
I need ...
「お、遅ぇじゃねえか色男」
彼の目の前に現れた男は、皮肉な笑みを浮かべた中肉中背の青年だった。
どこか見たことのある相貌は悪趣味な刺青で覆われ、それが裸の上半身にまで行き届いている。
服(というよりボロ布)の合間から見える肌も同じで、どうも全身そんな状態らしい。
黒と赤の、おぞましい模様。
それはまるで生きているかの様に蠢き、怪しく姿を変える。
「百年と十年。こっちも増え続けた筈なんだが、気づけば俺一人になっちまった。
いやはや大量虐殺にも程があるね!
無限の筈である“俺達”が、たったそれだけの短期間で絶滅危惧種だ!」
ケタケタと、心底面白い事を話している様に男は笑う。
話を聞く限りその男自身も殺される直前の様だが、その声には恐怖も悲しみもなかった。
「っと、もう時間切れか。
まあなんだ、俺もろくなもんじゃねえけど、先住民としちゃ不法占拠が不満なんで一つ呪いをば」
何の前触れもなく、男の体が分割される。
数えるのも馬鹿らしい程に複数に切り刻まれ、全てが拳大の大きさにカットされた。
それでも、最後の一言だけははっきりと彼の元へと届いた。
「アレ、ぶっ潰しておいてくれ。多分、全部壊しちまうから」
男のカケラが霧と消える中、満面の笑顔で、そう残していった。
「さて」
彼、ダンテは周りを見渡す。
視界の中に目的の相手を見つけ出すと、無警戒に歩き出した。
「こういうのを感動の再開、って言うんだぜ?」
「三度目に感動もなにもない」
「へへ、それもそうか」
足を止める。
目前には同じ顔が立っている。
乱雑に描き上げられた髪、中世を思わせる青い外套、そしてダンテよりも少しばかり険の強い表情。
それはとても近くて、最も遠い男の姿。
「久しぶりだな、バージル」
双子の兄。
血という最も濃い縁を持ちながら、真逆の生き方をした男が、目の前にいた。
「英霊に久しいという感覚もおかしなものだな」
「俺の感覚じゃあ十年ぶりぐらいなんだ。
感慨深くもなるさ」
「奇遇だな、俺もここに来てから十年程だ」
チキリ、と鯉口が鳴る。
バージルの象徴とも言える日本刀、銘を閻魔刀。
その柄に主の手が掛けられると、まさしく刀身の如き鋭い殺気が放たれた。
ダンテは知っている。
彼がそれを抜けば、刀身は雷よりも疾く空を翔ける。
「おいおい、もう始めるってのか」
「そのつもりでここに来たのだろう。
もとより、下らぬ会話など無駄でしかない」
「……変わらないな、アンタ。
二度死んで、何も新しい事は見つからなかったのか?」
「変わらない。
例え何十と生まれ変わろうとも、俺が俺である限りこの生き方は変えん」
暗闇が、蒼へと色を変える。
I need more power...!!
ほんとの終わりー
戻る