ゼロが5、6、7・・・ 「何、これ」 その桁が見たことも無いものに移る前に、思考は停止した。というかさせた。 そうでなければ、わたしの精神は崩壊してしまいそうだったからだ。 「見て分からないのかしら、痴呆というには少し早いのではなくて?」 挑発的な声が、時代錯誤の立て巻きロール女から発せられる。 いつもならばそれに乗って言い返すところだが、今の私にはその気力はなかった。 私が手にした用紙には、見たことも無いような金額が書かれた数字の羅列。 そしてその一番上には、「請求書」と言う文字が大きく書かれていた。 [Fate/stay night] Side Story Unlimited Blade Works An interval I became a soul. And I go for Holy Grail War. A request from “aho3号”! <これすらもまた、日常> -前編- ―――― ビュン! 耳元で風がうねり、轟音を鳴らして通り過ぎていく。 それは嵐の様に止め処なくこちらを襲い、数えるのも馬鹿らしい数で振ってきた。 ―――― ッダン! ビィィィィィン・・・ 盾にした木に突き刺さり、その震動が鼓膜を揺らす。 自身の衝撃で身を震わせているソレは、矢の形をしていた。 しかも、木で出来た棒に荒っぽい石鏃をつけた原始的な。 「ちょっ―――なんだって言うのよ、もう!」 「なんだも何も、全部遠坂の所為だろうが!」 矢が飛ぶ方向に同じくして、わたしと士郎は走り続けている。 いや、わたし達に向かって矢が飛んでいるわけなのだが。 つまりはまあ、わたし達は襲われている訳である。 「――――――!」 何語だか分からない叫び声と共に、全身に刺青やらを塗りたくった男達が現れる。 手には矢と同じ様に木の棒に石をくくりつけた槍、腰に身につけた大きな葉っぱの服。 そして顔には、精霊サマなんだか怪物なんだか分からない仮面。 例えるならば―――ジャングルの奥地にいる部族である。 いやまあ、例えも何もそのままなのだが。 「逃げるぞ! 遠坂!」 「逃げてるわよ!」 進路方向を変え、速度を落とさず走り出すわたし達。 木を避け、草を掻き分け、矢が周りにビュンビュンと飛んでいる世界。 もう、むしろ現実味はないのだが、この肌に感じる空気は間違いなく現実だ。 こんな危険地帯に踏み込んだ理由は、深い訳がある。 事の発端は三日前。 天敵であり、好敵手であり、どうしてもというなら友人にカテゴライズできよう人物。 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの館にて始まった。 「遅くなりましたわね」 そう言ってわたしを出迎えた――――もとい、出迎えと案内は執事がして、本人といえば奥の私室で優雅に紅茶を飲んでいた。 ともかく、ルヴィアは部屋に案内されたわたしを一目見ると、そういって口にしていたカップを静かに置く。 「遅いも何も、こんな紙切れ一枚じゃこれが最速よ。 こっちも忙しい身なんだから、しっかりとしたオファーをかけてきなさいよ」 懐から取り出した、ぺらぺらな手紙をかざしてみせる。 それにはルヴィアにしては随分と簡素に「近いうちに 「忙しい事は承知していますわ、何しろ“あんな事”があった後ですし。 だからこそ、電話の様な形に残らない物ではなく、手紙の様な後にでも見返せる物にしたのです。 期日を指定していないのも、私なりの遠慮の表れですわ」 わたしが知る限りそんな遠慮は聞いた事も無いが、それ以上にわたしはこの館に置いてある、 何だか番号以外のボタンが沢山存在する電話を思い出して、ただルヴィアがそれに触れたくないだけではないかと勘ぐってしまった。 さて、わたしとルヴィアのどちらが時代に置いて行かれているかなんて話題は・・・・・・あまりに無益なので考えない事にする。 コンコン、と静かなノックが鳴り響く。 ルヴィアの返事を聞くと、ドアの向こうにいたメイドがティーポーットと空のカップを持って現れた。 目立たないが、大人しい可愛らしさを持ったメイドさんは、わたしに一言声をかけると空のカップを置き、それに湯気を立てた赤茶色の液体を注いでくれた。 軽く礼を言うと、にこやかに微笑んで会釈をされる。教育が行き届いているなあと、感動を羨望を描いてしまう。 彼女が部屋から出て行くと、目の前のルヴィアがここに入ってきた時と同じ様にカップに口をつける。 どうやら一息つけという事らしい。 紅茶の芳しい香りを前にして、わたしも遠慮せずにカップを手に取った。 ・・・美味しい。 「随分と良い茶葉を使っているみたいだけど・・・ 生まれの例に漏れずコーヒー党って訳じゃなかったのね」 「もちろん、そちらの方を主として嗜んでいます。 紅茶は最近になってから仕入れるようになっただけですわ」 意外な話しだ。 確かに何度か一緒に紅茶を飲む機会はあったが、いままで進んで口にしようとはしていなかったというのに。 「・・・シェロが、何度か持ち込んできましたから」 「・・・成るほどね」 今は家にいるはずのあの男の顔を浮かべつつ、いい加減に執事業は辞めさせようという気になってきた。 「ところで、まさかわたしはお茶の席に呼ばれた訳じゃないわよね。 “出頭”だなんて妙な呼びつけ方をしたんだから、それ相応の用件なんでしょう」 「ええ、紅茶はあくまで客人への振る舞いです。 今日の用件は・・・これよ」 机の上を乾いた音で移動したそれは、またもや紙切れ一枚だった。 軽い気持ちで手にして、紙の上に記されている内容を頭に収めて―――― わたしの頭は、真っ白になった。 「請求書?」 料理を机に並べている士郎が、すっとんきょうな声を上げる。 ちなみに今は夕食であり、メインディッシュは牛肉と洋野菜のバジルソースとの事。 「・・・遠坂、また請求されるような借金したのか」 「またって何よ。いくら困ってもルヴィアにだけは借金した事ないわよ、わたしは」 不機嫌を撒き散らしながらサラダにフォークを突き刺す。 自家製のトマトが美味しいが、それで晴れる様な心情ではない。 「ほら、この前にルヴィアと共同研究してたのがあるじゃない?」 「あー・・・あれか」 お互いに苦虫を噛み潰した様な顔になる。 それは約一ヶ月前。 慎重に慎重を重ね、綿密な計算と幾度の実験を繰り返し、半年をかけた共同研究の最終日。 何故に最終であるかと言えば、失敗したからである。 ただの失敗であればまたやり直せばいい事柄だ。 だが、わたし達が研究していたのは「平行世界からの反物質の召喚」というものだった。 簡単に言えば、この世界を構成するものと逆の物を別の世界から呼び寄せるという事だ。 もちろん、そんなモノを呼び出せば此方の世界のモノと相互に反応して消滅を促す危険な事態を引き起こす可能性がある。 だが、そもそも反物質の存在はこの世界でも微量に確認はできているし、計算上はそれほど大きな量を引き寄せる事はできないと出ていたので、実験そのものにそれほどの危険性はなかった。 ・・・筈だった。 前述したように、実験は失敗。だが、反物質の存在は確認する事はできたのだ。できて、しまったのだ。 ただその「量」が半端ではなかった。 こちら側に流れ出した“ソレ”はとどまる事無くこちら側の世界のあらゆる物質を壊し―――いや、互いに消滅しつづけた。 制御はできず、そもそも此方の技術で制御できるモノではなく、まるでブラックホールの様に“ソレ”は暴れまわった。 わたしとルヴィアはあらん限りの資材と魔術で“ソレ”を抑え・・・ 色々な経過があって、何もかもが終わった時には大きなクレーターが出来ていた。 おかげで機材はもちろん、ルヴィアが用意した研究所はほぼ全壊。 修理費やらなにやらでこの一ヶ月間は物凄いひもじい思いを味わった。 「でも、それについては払い終わったって言ってたじゃないか。 俺とセイバーがあれだけ資金繰りに苦心してたを忘れた訳じゃないだろ?」 じとり、とした瞳が此方を射抜く。 いや、それについては本当にもう頭が上がらない。 とりあえず乾ききった苦笑いでその場を和ませてから、話を続ける。 「ええ、それについてはちゃんと払い終わったわ。 工房の修理代はきっちりと半分出したし、機材の費用についても完璧。 壊したものの弁償は済んだんだけど・・・」 ルヴィアに渡された請求書を、士郎に見せる。 「研究費用?」 「そう。研究時に使った実験材料とかが溜まりに溜まったものよ。 こう・・・充実してたからポンポンと使っちゃってたんだけど、コレもきっちりと割り勘だったみたいで」 さらに嫌味な事に、食事代までしっかりと入っているのが頭にくる。 確かに今回の研究はあくまでも協力、対等な立場で行うとは言った覚えがあるが、そこまでやらなくてもよいというのに。 「遠坂・・・」 ドスの聞いた声が、目の前の男から絞り出されるように響いてきた。 あれ、もしかしなくても、怒ってる? 「これで怒りを感じないなら釈迦にでもなった方がいいな。 家のローンはまだ残ってるし、遠坂が買う宝石のせいで色んな所に借金だらけ。 溜め込んだ貯金は使い果たして、子供達の積立金にも手を出して、セイバーのへそくりまで借りたってのに・・・ これ以上うちのどこから金を捻り出せると思ってるんだ」 「あー、やっぱりないわよね」 「遠坂!」 ズバン、と机と食器たちが揺れる。 うう、そんなに怒る事はないじゃないの。 「わ、判ってるわよ。だからちゃんとルヴィアと交渉して、何とかする目処はつけて来たわ」 「目処?目処ってなんだ。早く言ってみろ」 「急かさないでよ。 お金で返せないのは当然だから、それ以外の方法はないか、って聞いた訳よ。 そうしたらあっさりと別の話しをしてきたわ。 ま、ウチに返済能力がないのはルヴィアも判ってたみたいだし、最初っからこっちが本題だったみたいね」 鞄から封筒を出して、机の開いた部分に置く。 中にある紙には、目的地の情報が明確に記されている。 「仕事よ」 「・・・・・・この中で人探しですか」 鬱蒼とした草を掻き分け、先頭を進んでいたセイバーがゲッソリとした表情で振り向く。 ちなみにその後ろにわたし、殿は士郎という隊列だ。 実力と各自の役割を考えると、大体いつもこういう配置になる。 さて、ここが何処かというと、とりあえず地球上の何処かとしか言う事ができない。 視界に移っている景色で答えるとするならば、森、いやジャングルと言った方がよいだろう。 地面は腰ほどの高さの草々で埋め尽くされ、所々に生えた木々にはなんだかよく分からないツタが不規則に巻き付いている。 生き物の気配で回りは満たされて、時々ギャアギャアと名も知らぬ鳥が飛んでいく。 映画で見るようなわかりやすいジャングル像が、まさに目の前にあった。 「そうよ。大丈夫、そんなに広く無い筈だから」 「ここに送ってくれた人が、日本から来たって話したらそれくらいの大きさだって言ってたぞ」 後ろから隠す気の無いため息が聞こえる。 ・・・わたしだってテンションが下がっているのだから止めて欲しいものだ。 ―――依頼された内容は、この密林で行方不明になった人物の探索と保護である。 その人物は地形関係の研究者で、ここにある特殊な植物や鉱石が得られる可能性を導き出した。 本人を含めたチームを結成した彼は、意気揚々とジャングルへと挑んだもののトラブルにより撤退。 チームの殆どは帰還する事ができたが、その研究者だけは途中ではぐれてしまった。 ならば警察等の公共機関にでも頼ればよいと思うかもしれないが、そうはいかない。 そう、もはや言うまでも無く、その研究者は魔術師なのである。 結成されたチームももちろん魔術師の団体。 警察にでも駆け込もうものなら、事情や目的を話さなくてはならなくなる。 だが、一般人に魔術に関することを漏らしてもらうことはしてはならないタブー。 この場合は鉱石や植物の探索なので言い訳も立つかもしれないが、ここは英国でもなければロンドンでもない。 時計搭こと魔術協会の影響は、全ての国に届いているわけではないのだ。 手を出す事が難しい上に、ヘタに動くと別の組織にまで情報が渡る恐れがある。 と、言う訳で身内の失敗は身内で拭うという事になり、親交のあったらしいルヴィアの所に依頼がいき、最終的にわたし達に廻ってきた訳だ。 「それにしても、何故ルヴィアは私達に仕事を依頼したのでしょうか」 セイバーの口から、ごく単純な疑問が出た。 「確かにそうだな。 ルヴィアなら自分に来た仕事は自分でやるだろうし・・・ 協力ならまだ分かるけど、依頼っていうのは珍しいな」 まあ確かに、士郎の言う事もセイバーの疑問も分かる。 なにしろアイツはあの名門貴族、エーデルフェルト家のご令嬢なのだ。 西に喧嘩があれば手袋を投げ、東に戦があれば指揮を持つ。 争い事を好むところとし、そのおいしい所を横から典雅に掻っ攫う。 故に、“地上で最も優美なハイエナ”と恐れられる程の現場主義者なのだ。 今回の仕事は争いごとではないものの、ルヴィアは物事を目や耳で感じる事を好んでいる。 特に、珍しい鉱石や植物の採掘・採取場に足を運べるというのならば、喜んで行きそうなものなのだが・・・ もう一度言っておこう。 ルヴィアは名門貴族の出、エーデルフェルト家のご令嬢なのだ。 「草とか泥とか、虫が飛び回ってるような熱帯地が嫌だって言ってたわよ」 「ああ・・・」 「成る程・・・」 わたしのウンザリとした口調に、深く同意する二人。 アイツはドレスで足を運べない場所に踏み込む靴は無い、だとふざけた事を仰ってたわよ。 全く、こっちは暑い中を歩き通しでイライラしてるっていうのに、ムカつく事を思い出してしまった。 「そういえば凛、今回の仕事は借金の返済する為に依頼されたものでしたね」 「そうよ、不本意だけど」 「では私の報酬はどうなっているのでしょうか?」 ・・・・・・・ 「え?」 「え、ではありません。 仕事をこなすのですから、それに相応しい報酬があって当然でしょう。 借金の代わりという事はルヴィアからは出ないのでしょうから、その分は凛から払われるのですよね?」 しまった、忘れてた。 当然の様にセイバーを連れて来てしまったが、今回の事は完全にわたし個人の問題だった。 「あ、あー、珍しいわね。 セイバーがお給料の事を気にするだなんて」 「ええ、先日口惜しい思いをいたしまして。 今度発売されるライオン丸くん人形の為に貯めていたお金が、ある方に貸してしまった為に予約できなかったのです。 先行予約はもう終わってしまったので、当日販売に賭けるつもりなのですが・・・ 今現在の私の資金ではそれすらままなりません。 貸したお金が返ってくればそれでよいのですが、その方の当てが無いのでしたら自分の力で稼がなくてはなりませんので」 もちろん、お金を借りたのはわたしである。 ・・・どうりで、ちょっと前までセイバーが浮き足立っていると思っていたら。 同時に、お金を借りてからというもの殺気立っている理由も分かった。 セイバーがこんなに迂回した、それでいて直接的な物言いをするだなんて、余程怒っている証拠である。 迫り来る恐怖は家計に襲い掛かっていると思ったが、こんな近くにもあっただなんて・・・ 「そ、そうだな、兎にも角にもまずこの仕事を終わらせよう。 遠坂、こんな場所で人探しは無理だ、何か用意してきたんだろう? 「も、もも、もちろんよ。 わたしが何の用意も無しにこんな依頼受けるわけないでしょう?」 士郎の無理やりなハンドル切りに、セイバーの剣幕にビビリながら反応する。 いや、本当に早くこの仕事を終わらせないと、バッサリとは言わないものの酷い目に合いそうだ。 例えば、わたしの秘蔵宝石コレクションを質に出されるとか・・・ あれ、今借金返済方法がチラリとよぎったような・・・? いやいや、とりあえず動き始めなければ。 フォローをしてくれた筈の士郎でさえ、なんだかジト目でこっちを見始めているし。 もしコレでなんの準備もしてませんでした、と言っていたらどうなっていたのだろーか。 「じゃあ士郎、悪いけど地面に手が付けられる程度に草を刈り取ってくれるかしら」 「草刈り?」 「何をするつもりなのですか?」 分からない、という顔をする二人。 正直あの恐ろしい剣幕から開放されて一安心なのだが、ここで流れを元に戻してはならない。 眼鏡を取り出す。 この解説モードで、一気に流れを変えてみせる! 「もちろん、探すのよ。 とは言っても人探しの魔術なんて簡単なモノしか知らないし、こう動物の多い密林じゃ役に立たないわ。 だからわたしが探し出すのは別の物。 二人とも、行方不明になった人は何を探しに来たか覚えてる?」 「あー、確か地形関係の魔術師で・・・」 「特殊な植物と鉱石―――あ」 ニヤリ、と口元を吊り上げる。 よし、乗ってきた。 このまま話しに集中させて、先程の話題を忘れさせる! と、いやいや、それが主の目的ではなかった。 「そうよ、わたしが何を得意とする魔術師だなんて、いうまでも無いわね。 特殊な鉱石がここで取れるっていうなら、わたし達はそれを見つければいいのよ。 行方不明になった人が何処にいるかは分からないにしても、何処に向かっていたかだけは分かるでしょ? だからその鉱石があるであろう場所を発見すれば」 「少なくともそこへ向かっていたのですから、その周辺にいる可能性が高い、と。 成る程、合理的ですね。 それならばある程度の当たりを付ける事ができる」 「そういう事。 まあ確実っていうわけじゃないけどね。 と言う訳で士郎、地面に陣を引いて直接触って調べるから、草刈よろしくね。 できれば少し湿った土がいいわ」 「おう、分かった」 元気のいい返事をして、士郎が草をガサガサと分け進む。 ふう、とりあえずは危機から逃れる事ができた。 後はなんとかしてこの依頼を早くに終わらせ、セイバーに美味しいものでも食べさせよう。 なにしろ返す当てが無い、帰ってからもなんとかして誤魔化さなければならないのだ。 「ところで凛」 「ふぇい!?」 「・・・随分と可愛らしい返事ですね。 伺いたいのですが、具体的にどうやってその鉱石を探すのですか?」 なんだ、仕事の事か。 「えーとね、細かいところを言うと複雑だから簡単に言うわ。 いわばソナーの原理を利用するのよ。 地面に特殊な術を乗せた魔力を広げて、反射されてきたものを解析すればいいの。 地脈とか土地の形なんかの影響で小差はあるけど、大体10km程度は探知する事ができるわ」 「ほう、それは凛の作り出した魔術ですか?」 「今からやるのは結構昔っから使われてたのを、わたしなりに改良したやつよ。 本当は井戸とかの為に水源を探し出したり、神社とか作るときの龍穴なんかを探す為に使うんだけどね」 「凛にしては少し地味な術と見受けられますが・・・何の為に研究したのでしょうか」 「それがね、ほら、宝石とかいちいち買ってたら大変じゃない? 自分専用の鉱山とか欲しかったんだけど、そんなお金ある訳ないし。 だからこの術で見つければ自分だけでも宝石探しができる、って研究しだしたんだけど・・・ 考えてみれば掘るのだってお金はかかるし、加工にもそれなりの資金がかかるから今迄お蔵入りになってた魔術よ」 「それは・・・とても凛らしい事ですね」 「おーい、この辺とかどうだー?」 セイバーに頭を撫でられながらしょぼくれていると、少し離れたところから士郎の呼び声がかかる。 草を掻き分けてそこに進むと、少しだけ丈の低い草に囲まれた小さい水溜りがあった。 「いいわね、水もあるし上出来よ。 じゃあさっそく始めるわね」 「頼むぞ、遠坂」 「・・・・・・」 鞄から荷物を取り出し、準備を進めていく。 士郎がわたしの手伝いをしながら、突然黙りだしたセイバーに話しかけた。 「セイバー? なんだ、何か気になることでもあったのか」 「いえ、少し妙に思いまして」 上を見上げたり、周りの土を確かめ、険しい顔付きになっていくセイバー。 何が気になるのかは判らないが、機嫌を悪くさせる前にこちらの作業を終わらせておこう。 「空は枝と木の葉で覆われ、土を見ても雨が降った様子もない。 近くに川もないようですし、その水溜りが湧き水という訳でもない。 妙ですね・・・凛、それはもう少し調べてから使ったほうが、」 「え?」 セイバーの静止も遅く、わたしは水溜りの中に指を入れていた。 特に冷えている訳でもなく、ぬるい感じの泥水。 これの何が危険なのだろうか。 ―――― カラカラカラ・・・ 「・・・何も起こらないわよ?」 「いや、今何か聞こえたぞ」 セイバーだけでなく、士郎までもが剣幕を変える。 二人に習い、わたしも静かに耳を澄ませば―――確かに聞こえた。 乾いた竹、言うなればまるで鳴子の様な・・・ 「しまった! 士郎、凛! 一刻も早くここから―――」 セイバーの叫びと共に、周囲の草むらから無数の人影が現れる。 わたし達は現状を確認する間もなく、ものの一瞬で囲まれてしまった。 そして、謎の部族からの逃避が始まった。 余りの数の多さに、分散を狙ったセイバーが足止めと自ら別れ、わたしは士郎と仲良く逃走。 そして物語は冒頭に戻るわけである。 ...後編へ続く
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